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1054 リカルドの罠
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リカルド・ガルシアは自分の手が微かに震えている事に気付き、小さく舌を打った。
原因は言うまでもない。
目の前のボウズ頭の男と向かい合っているからだ。
この男の発する異様な空気、それは静かだが呼吸をする事さえ躊躇われるような、恐ろしいまでの重圧となってリカルドの体にぶつけられていた。
「んだよ・・・ふざけんな」
あえて言葉にしたのは、吞まれないようにするため。
ただ対峙しているだけでも気圧されそうになる自分を、懸命に踏みとどまらせているのだ。
額から流れた落ちた一滴の汗が、地面に吸い込まれて小さなシミを作った。
いつの間にか全身にぐっしょりと汗を掻いていた。
手の平も濡れて、弓も矢も滑り落ちそうになる。だが今弓矢を下ろすわけにはいかない。
この弓矢はデューク・サリバンとの距離だ。
この弓矢を構えている限り、デューク・サリバンと一定の距離を保つ事ができる。
もし今この弓矢を下ろせば、一瞬で間合いを詰められ、自分もあの拳の餌食になるだろう。
アゲハもリーザも騎士達も、なすすべがなく簡単に倒されてしまった。
まともに正面からやっても、勝てるイメージがまるで描けない。あっさりと殺されてしまうだろう。その恐怖心が、リカルドに戦う姿勢を取らせ続けた。
「・・・俺が怖いのか?」
リカルドをじっと見つめ続けていたデュークが、ふいに口を開いた。
勇ましく弓を構えて睨んで来るが、頬を伝う汗と体の震えから、それが虚勢だと言うのは分かる。
弓の腕は良いものを持っているようだが、ただそれだけだ。
デューク・サリバンにとってはリカルドも、敵として認識するには足りない小物でしかなかった。
二人の距離は十数メートル程離れている。デュークの声も呼びかけるような大きなものではなかった。だが口にした言葉は、ハッキリとリカルドの耳に届いた。
「・・・あ?」
それはプライドが高いリカルドにとって、許せない言葉の一つだった。
いつも憎まれ口を叩いているが、リカルドは卑怯な振る舞いや、臆病と言われる行動はした事がない。
仕事にも弓にも誇りを持っている。それゆえに今のデュークの言葉は、リカルドにとって侮辱でしかなかった。
「・・・てめぇ、なめてんじゃねぇぞ?」
リカルドの、男としてのプライドに火が付いた。
怒りが恐怖を上回り、力強く弓を引くと、デューク・サリバンの額に狙いを付けた。
「ほう・・・臆病風に吹かれたと思ったが、あくまでやるつもりか?いいだろう、相手になってやる」
突如としてリカルドの目つきが変わり、自分に対する怯えも見えなくなった。
一瞬にして恐怖を消したリカルドに、デュークは僅かながらに驚きも感じていた。
だがそれでもデューク・サリバンにとって、眼の前の弓使いは脅威となりうる存在ではない。
己の額に狙いをつけられながらも、デュークはリカルドに向かって真っすぐ足を踏み出した。
「ッ野郎!?」
完全に舐められている。そうとしか思えなかった。
矢を向けているにも関わらず、一切警戒する様子も見せず、ただ自分に向かって最短の距離を歩いて来る。
お前など眼中にない。そう言わんばかりに、デュークはリカルドに対して無防備だった。
「舐めてんじゃねぇぞォォォォォーーーーーーーッツ!」
怒りと共に、鉄の矢を撃ち放つ!
真っ直ぐに射られた矢は、一直線にデュークの額に向かっていく!
「・・・フッ」
小さく息をつくと、デュークはリカルドの放った鉄の矢を、拳で一つで軽々と弾いて見せた。
「ッ!?」
「貴様の狙いが首から上なのは分かり切っている。そこしか矢が刺さるところはないからな」
そう話しながら、デュークは身に着けている深紅の鎧を指差した。
首から下は全身ガッチリと固めている。矢で狙う場所など、何にも守られていない頭部しかなかった。
二人の距離はおよそ十メートル程にまで迫った。
この間隔で軽々と矢を弾かれた事に、リカルドは驚き息を飲んだ。
だがデュークにとっては、狙いが分かっている簡単な作業だった。
「くそ野郎がァァァーーーーッツ!」
声を張り上げると、リカルドは連続して矢を撃ち放った!
単発では通用しない。ならば一射、二射、三射、矢が尽きるまででも撃つ!
「フン、芸の無いことだ」
デューク・サリバンは次々に飛んでくる矢を、表情一つ変えずに両の拳で打ち落とした。
デュークの目とハンドスピードは、撃ち放たれた矢を完全に捉えていた。
そして狙いが唯一剥き出しになっている顔面しかないと分かっていれば、十メートルの距離であろうと、何発射られようと、防ぐ事は造作もなかった。
「・・・無駄なあがきだ、そろそろ諦めたらどうだ?」
打ち落とした矢の数が二十を数えた頃、デュークはつまらなそうに呟いた。
馬鹿正直に顔だけをずっと狙って来る、数を撃てば当たるとでも思っているのかもしれないが、もう飽きた。十分に付き合ってやったし、そろそろ終わりにしよう。
次の矢を弾いたら、距離を詰めて殴り殺す。
そう決めて眼前に迫る矢に、左の拳を合わせようとしたその時・・・デュークは見た。
散々矢を防がれた弓使いが、口の端を持ち上げて不敵に笑ったのだ。
自分の攻撃が全く通用しないのだから、もっと焦ってもいいだろう。
だがこの緑色の髪の少年は、まるで獲物を罠にハメたように、ニヤリと笑いデュークを見た。
「ばーか!単純なんだよ」
右手の親指を下に向けて、リカルドは勝ち誇ったよう舌を出した。
デュークがリカルドの狙いに気付いたのは、その直後だった。
己の左拳が目の前の矢に触れた時、その矢尻の色が、これまでの銀色に光る鉄製ではなく、土色だと気付いた。
なんだ?この矢だけ色が違うぞ。
この弓使いの勝ち誇った顔・・・馬鹿正直に顔だけ狙って来た事・・・無駄だと分かっていたのに撃ち続け、ここにきて突然今までと違う矢が放たれた・・・まさか!この俺を嵌めたのか!?
デュークの拳が土色の矢に触れたその瞬間、耳をつんざく轟音が鳴り響き、デューク・サリバンは空高く吹き飛ばされた。
原因は言うまでもない。
目の前のボウズ頭の男と向かい合っているからだ。
この男の発する異様な空気、それは静かだが呼吸をする事さえ躊躇われるような、恐ろしいまでの重圧となってリカルドの体にぶつけられていた。
「んだよ・・・ふざけんな」
あえて言葉にしたのは、吞まれないようにするため。
ただ対峙しているだけでも気圧されそうになる自分を、懸命に踏みとどまらせているのだ。
額から流れた落ちた一滴の汗が、地面に吸い込まれて小さなシミを作った。
いつの間にか全身にぐっしょりと汗を掻いていた。
手の平も濡れて、弓も矢も滑り落ちそうになる。だが今弓矢を下ろすわけにはいかない。
この弓矢はデューク・サリバンとの距離だ。
この弓矢を構えている限り、デューク・サリバンと一定の距離を保つ事ができる。
もし今この弓矢を下ろせば、一瞬で間合いを詰められ、自分もあの拳の餌食になるだろう。
アゲハもリーザも騎士達も、なすすべがなく簡単に倒されてしまった。
まともに正面からやっても、勝てるイメージがまるで描けない。あっさりと殺されてしまうだろう。その恐怖心が、リカルドに戦う姿勢を取らせ続けた。
「・・・俺が怖いのか?」
リカルドをじっと見つめ続けていたデュークが、ふいに口を開いた。
勇ましく弓を構えて睨んで来るが、頬を伝う汗と体の震えから、それが虚勢だと言うのは分かる。
弓の腕は良いものを持っているようだが、ただそれだけだ。
デューク・サリバンにとってはリカルドも、敵として認識するには足りない小物でしかなかった。
二人の距離は十数メートル程離れている。デュークの声も呼びかけるような大きなものではなかった。だが口にした言葉は、ハッキリとリカルドの耳に届いた。
「・・・あ?」
それはプライドが高いリカルドにとって、許せない言葉の一つだった。
いつも憎まれ口を叩いているが、リカルドは卑怯な振る舞いや、臆病と言われる行動はした事がない。
仕事にも弓にも誇りを持っている。それゆえに今のデュークの言葉は、リカルドにとって侮辱でしかなかった。
「・・・てめぇ、なめてんじゃねぇぞ?」
リカルドの、男としてのプライドに火が付いた。
怒りが恐怖を上回り、力強く弓を引くと、デューク・サリバンの額に狙いを付けた。
「ほう・・・臆病風に吹かれたと思ったが、あくまでやるつもりか?いいだろう、相手になってやる」
突如としてリカルドの目つきが変わり、自分に対する怯えも見えなくなった。
一瞬にして恐怖を消したリカルドに、デュークは僅かながらに驚きも感じていた。
だがそれでもデューク・サリバンにとって、眼の前の弓使いは脅威となりうる存在ではない。
己の額に狙いをつけられながらも、デュークはリカルドに向かって真っすぐ足を踏み出した。
「ッ野郎!?」
完全に舐められている。そうとしか思えなかった。
矢を向けているにも関わらず、一切警戒する様子も見せず、ただ自分に向かって最短の距離を歩いて来る。
お前など眼中にない。そう言わんばかりに、デュークはリカルドに対して無防備だった。
「舐めてんじゃねぇぞォォォォォーーーーーーーッツ!」
怒りと共に、鉄の矢を撃ち放つ!
真っ直ぐに射られた矢は、一直線にデュークの額に向かっていく!
「・・・フッ」
小さく息をつくと、デュークはリカルドの放った鉄の矢を、拳で一つで軽々と弾いて見せた。
「ッ!?」
「貴様の狙いが首から上なのは分かり切っている。そこしか矢が刺さるところはないからな」
そう話しながら、デュークは身に着けている深紅の鎧を指差した。
首から下は全身ガッチリと固めている。矢で狙う場所など、何にも守られていない頭部しかなかった。
二人の距離はおよそ十メートル程にまで迫った。
この間隔で軽々と矢を弾かれた事に、リカルドは驚き息を飲んだ。
だがデュークにとっては、狙いが分かっている簡単な作業だった。
「くそ野郎がァァァーーーーッツ!」
声を張り上げると、リカルドは連続して矢を撃ち放った!
単発では通用しない。ならば一射、二射、三射、矢が尽きるまででも撃つ!
「フン、芸の無いことだ」
デューク・サリバンは次々に飛んでくる矢を、表情一つ変えずに両の拳で打ち落とした。
デュークの目とハンドスピードは、撃ち放たれた矢を完全に捉えていた。
そして狙いが唯一剥き出しになっている顔面しかないと分かっていれば、十メートルの距離であろうと、何発射られようと、防ぐ事は造作もなかった。
「・・・無駄なあがきだ、そろそろ諦めたらどうだ?」
打ち落とした矢の数が二十を数えた頃、デュークはつまらなそうに呟いた。
馬鹿正直に顔だけをずっと狙って来る、数を撃てば当たるとでも思っているのかもしれないが、もう飽きた。十分に付き合ってやったし、そろそろ終わりにしよう。
次の矢を弾いたら、距離を詰めて殴り殺す。
そう決めて眼前に迫る矢に、左の拳を合わせようとしたその時・・・デュークは見た。
散々矢を防がれた弓使いが、口の端を持ち上げて不敵に笑ったのだ。
自分の攻撃が全く通用しないのだから、もっと焦ってもいいだろう。
だがこの緑色の髪の少年は、まるで獲物を罠にハメたように、ニヤリと笑いデュークを見た。
「ばーか!単純なんだよ」
右手の親指を下に向けて、リカルドは勝ち誇ったよう舌を出した。
デュークがリカルドの狙いに気付いたのは、その直後だった。
己の左拳が目の前の矢に触れた時、その矢尻の色が、これまでの銀色に光る鉄製ではなく、土色だと気付いた。
なんだ?この矢だけ色が違うぞ。
この弓使いの勝ち誇った顔・・・馬鹿正直に顔だけ狙って来た事・・・無駄だと分かっていたのに撃ち続け、ここにきて突然今までと違う矢が放たれた・・・まさか!この俺を嵌めたのか!?
デュークの拳が土色の矢に触れたその瞬間、耳をつんざく轟音が鳴り響き、デューク・サリバンは空高く吹き飛ばされた。
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