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1048 リカルドのプラン

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「ハァァァァーーーーッツ!」

闘気を込めた剣を横一線に振り抜くと、黒い瘴気を斬り裂き、刃が蛇の肉に食い込む感触が伝わってくる。一瞬の後に大蛇の胴と首が別れ、真っ赤な血が噴き出す。
普通ならこれで勝負ありだ。だがコイツは普通の蛇じゃない、その身に闇を宿した蛇だ。

頭と首を切り離した程度では死なない事は、ここまでの戦いで分かっている!

「オォォォォォーーーーーッツ!」

攻撃の手を休めず頭を縦に真っ二つに斬り離し、更に手首を返して下から剣を斬り上げる!
縦に、横に、斜めに、あらゆる角度から大蛇の頭を切り刻む!

闘気を帯びた剣で斬られた傷口は焼ける程の熱を発し、闇の瘴気に火が付き燃えだすと、煙となって散り散りに消えていった。

やがて頭が完全に消滅したのを見て、私は残った大蛇の胴体に剣を突き刺した!

ビクンビクンと痙攣していた蛇の胴体だったが、一度大きく飛び跳ねた後に動きを止めた。
そして体内に残っていた瘴気にも火が付くと、大蛇の胴体が燃え上がった。



「フゥ・・・これで10匹目か」

「さすがですね、レミューさん」

大蛇に止めを刺したところで、同じシルバー騎士のエクトールが声をかけた。

「・・・エクトール、何匹始末した?」

レミューは蛇から剣を引き抜くと、地面に向けて血を払い落した。
額の汗を拭い、呼吸を整えるように一度大きく息を付くと、エクトールに目を向けた。

「8匹です。大きさは5~6メートルのが多かったですね。小さい普通の蛇は数えてませんが、100以上は斬ったと思います」

「二人合わせて18匹か・・・彼女達は桁違いだな」

「あ~・・・はい、正直レベルが違いますね」

レミューが向けた視線の先を、エクトールも追いかける。
二人が見つめた先では、長い黒髪の薙刀使いアゲハと、ダークブラウンの髪の大剣使いリーザが、バッタバッタと大蛇を斬り伏せていた。

「あの二人、パッと見ただけでも、俺達の倍以上蛇を斬ってますよ。すごいですね」

エクトールは、想像していた以上の圧倒的な強さを見せるアゲハとリーザに、感服してうなった。
40、いや50は斬っているだろう。頭は斬り落とされ、胴体も切り刻まれた大蛇の死骸が、無造作に捨て置かれていた。

「ああ、私も自己鍛錬は怠っていないし、自信もついていたんだがな、彼女達の強さは想像以上だったな。それにリーザ・アコスタ・・・いつの間に闘気を習得していたんだ?いや、師がウィッカー・バリオスであるならば当然か・・・我々が彼女を知らな過ぎたという事だな」

レミューの瞳には、自分より速く、自分より強い力で大蛇を斬り倒すアゲハとリーザに対して、尊敬の念と僅かな嫉妬が浮かんでいた。シルバー騎士の筆頭として、クインズベリーの戦いの後も厳しい鍛錬を積んでいた。強くなったという自信も付いた。
自分が四人目のゴールド騎士になるという目標も見失っていない。

だがまだまだだと痛感させられた。

「・・・エクトール、私達も負けていられないな」

「はい、彼女達には及ばずとも、一匹でも多く斬ってみせましょう」

シルバー騎士の二人は顔を見合わせると、その剣に再び闘気を漲らせて、大蛇へと向かって行った。





「へっ、ご自慢のお仲間も壊滅にちかい。どうやら俺達の勝ちのようだな?」

救援でかけつけた仲間達が、周囲の大蛇を次から次へと斬り倒していく。
ゴールド騎士のレイマートは、自分達の優勢を見て取ると、目の前の白い大蛇に挑発めいた言葉を向けた。

「フシュァァァァーーーーーーーーッツ!」

左目に深々と矢が刺さった大蛇ユーンは、残った赤い右目でレイマートを見下ろしながら、憎悪に満ちた息を吐き出した。
全身から溢れ出る闇の瘴気は、これまで見て来た10メートル級の大蛇の中でも最も禍々しく、この白蛇が群れのボスであり、蛇使いのバドゥ・バックさえ手玉に取っていた黒幕だったと結論付けるには、十分なものを持っていた。

「むっ、これは・・・!」

白い大蛇ユーンの瘴気を感じ取り、レイマートの顔色が変わった。
バドゥ・バックや、黒い大蛇サローンと同程度、あるいは多少上をいく事は想定していた。
だが実際にユーンの体から放出された真っ黒な瘴気は、レイマートの想定をはるかに邪悪に超えていた。

瘴気に触れた樹々の葉は瞬く間に枯れ落ち、赤茶色の土も変色し黒ずんでいく。
黒い大蛇サローンが吐き出した煙でも、ここまで急速な侵食は無かった。
この瘴気に生身の人間が触れればひとたまりもないだろう。


「おい、青髪、アゲハ達は他の蛇やってっからよぉ、俺とお前でこいつやんぞ」

白い大蛇ユーンと対峙するレイマートの背中に、のんびりした口調でリカルドが声をかけた。
赤茶色の粘土質の土を踏みながら、レイマートの隣に立つと、腰に下げた矢筒から土色の矢を取り出して、弓につがえる。

「レイジェスの緑髪か、さっきも言ったが、闇の瘴気を使ってきた以上、並みの攻撃では傷一つつけられないぞ。なにか策でもあるのか?」

チラリとリカルドに目を向けると、リカルドは眉間にシワを寄せてレイマートを睨みつけた。


「んだよお前?人を髪の色で呼ぶんじゃねぇよ。失礼なヤツだな」

「え・・・?いや、お前が最初に俺を青髪って言ったんだよな?」

リカルドが何を言っているのか一瞬理解できず、レイマートが困惑した表情を見せる。

「お前の名前を知らねぇんだから、しかたねぇだろ?」

「・・・俺だってお前の名前を知らないんだがな?」

「あ?なんで知らねぇんだよ?」


「・・・わかった、もういい。俺はレイマート・ハイランド、ゴールド騎士だ」

まったく会話にならない。レイマートは心底大きな溜息をつきたかったが、目の前の大蛇が瘴気をまき散らしている状況で、これ以上無駄な会話はできないと、自らが折れて名乗った。

「最初からそうしろよな?俺はリカルド・ガルシアだ。んじゃよ、俺が援護すっからお前が決めろ。お前の闘気ってのならこの蛇も倒せんだろ?」

「ああ、闘気は闇に通じる数少ない力だ。俺のレオンクローならコイツにも届くだろう。だがお前、どうやって援護するつもりだ?ただの鉄の矢では、本体に届く前に瘴気で溶かされるぞ」

「大丈夫だって、俺がノープランで突っ込むような馬鹿に見えんのか?一発で決めてやっからよ、お前こそしくじんじゃねぇぞ?」


「・・・大した自信だな?いいだろう、乗せられてやるよ。それだけ大口を叩いたんだから、しっかりやれよ?」

ノープランにしか見えない。そう言ってやろうと思ったが、ユーンの左目を潰した弓の腕は確かだった。
その事がレイマートにリカルドを信じさせた。

右手に闘気を込めて、正面の白い大蛇に向き直る。

「んだよ、その言い方?感じ悪ぃな?まぁ。いいけどよ・・・俺はやる時はやる男なんだよ。この大地の矢で目にもの見してやんよ」

レイマートの態度に不満を口にしながらも、リカルドは土色の矢をつがえた弓を構え、白い大蛇ユーンに狙いを定めた。


「フシャァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッツ!」

白い大蛇ユーンは腹の底からの叫びを上げた。

小さくて無力。捕食されるだけの存在。そんな見下していた人間に片目を奪われた。
狩られる側の人間が自分を恐れるどころか、逆に狩る側へと回っている。

知能のある大蛇ユーンには、我慢ならない屈辱だった。


「うっせぇなぁ、ちょっと黙ってろ」


ビリビリと肌を打つ衝撃に、口を曲げて目を細めると、リカルドは大地の矢を射った。
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