上 下
1,059 / 1,263

1048 リカルドのプラン

しおりを挟む
「ハァァァァーーーーッツ!」

闘気を込めた剣を横一線に振り抜くと、黒い瘴気を斬り裂き、刃が蛇の肉に食い込む感触が伝わってくる。一瞬の後に大蛇の胴と首が別れ、真っ赤な血が噴き出す。
普通ならこれで勝負ありだ。だがコイツは普通の蛇じゃない、その身に闇を宿した蛇だ。

頭と首を切り離した程度では死なない事は、ここまでの戦いで分かっている!

「オォォォォォーーーーーッツ!」

攻撃の手を休めず頭を縦に真っ二つに斬り離し、更に手首を返して下から剣を斬り上げる!
縦に、横に、斜めに、あらゆる角度から大蛇の頭を切り刻む!

闘気を帯びた剣で斬られた傷口は焼ける程の熱を発し、闇の瘴気に火が付き燃えだすと、煙となって散り散りに消えていった。

やがて頭が完全に消滅したのを見て、私は残った大蛇の胴体に剣を突き刺した!

ビクンビクンと痙攣していた蛇の胴体だったが、一度大きく飛び跳ねた後に動きを止めた。
そして体内に残っていた瘴気にも火が付くと、大蛇の胴体が燃え上がった。



「フゥ・・・これで10匹目か」

「さすがですね、レミューさん」

大蛇に止めを刺したところで、同じシルバー騎士のエクトールが声をかけた。

「・・・エクトール、何匹始末した?」

レミューは蛇から剣を引き抜くと、地面に向けて血を払い落した。
額の汗を拭い、呼吸を整えるように一度大きく息を付くと、エクトールに目を向けた。

「8匹です。大きさは5~6メートルのが多かったですね。小さい普通の蛇は数えてませんが、100以上は斬ったと思います」

「二人合わせて18匹か・・・彼女達は桁違いだな」

「あ~・・・はい、正直レベルが違いますね」

レミューが向けた視線の先を、エクトールも追いかける。
二人が見つめた先では、長い黒髪の薙刀使いアゲハと、ダークブラウンの髪の大剣使いリーザが、バッタバッタと大蛇を斬り伏せていた。

「あの二人、パッと見ただけでも、俺達の倍以上蛇を斬ってますよ。すごいですね」

エクトールは、想像していた以上の圧倒的な強さを見せるアゲハとリーザに、感服してうなった。
40、いや50は斬っているだろう。頭は斬り落とされ、胴体も切り刻まれた大蛇の死骸が、無造作に捨て置かれていた。

「ああ、私も自己鍛錬は怠っていないし、自信もついていたんだがな、彼女達の強さは想像以上だったな。それにリーザ・アコスタ・・・いつの間に闘気を習得していたんだ?いや、師がウィッカー・バリオスであるならば当然か・・・我々が彼女を知らな過ぎたという事だな」

レミューの瞳には、自分より速く、自分より強い力で大蛇を斬り倒すアゲハとリーザに対して、尊敬の念と僅かな嫉妬が浮かんでいた。シルバー騎士の筆頭として、クインズベリーの戦いの後も厳しい鍛錬を積んでいた。強くなったという自信も付いた。
自分が四人目のゴールド騎士になるという目標も見失っていない。

だがまだまだだと痛感させられた。

「・・・エクトール、私達も負けていられないな」

「はい、彼女達には及ばずとも、一匹でも多く斬ってみせましょう」

シルバー騎士の二人は顔を見合わせると、その剣に再び闘気を漲らせて、大蛇へと向かって行った。





「へっ、ご自慢のお仲間も壊滅にちかい。どうやら俺達の勝ちのようだな?」

救援でかけつけた仲間達が、周囲の大蛇を次から次へと斬り倒していく。
ゴールド騎士のレイマートは、自分達の優勢を見て取ると、目の前の白い大蛇に挑発めいた言葉を向けた。

「フシュァァァァーーーーーーーーッツ!」

左目に深々と矢が刺さった大蛇ユーンは、残った赤い右目でレイマートを見下ろしながら、憎悪に満ちた息を吐き出した。
全身から溢れ出る闇の瘴気は、これまで見て来た10メートル級の大蛇の中でも最も禍々しく、この白蛇が群れのボスであり、蛇使いのバドゥ・バックさえ手玉に取っていた黒幕だったと結論付けるには、十分なものを持っていた。

「むっ、これは・・・!」

白い大蛇ユーンの瘴気を感じ取り、レイマートの顔色が変わった。
バドゥ・バックや、黒い大蛇サローンと同程度、あるいは多少上をいく事は想定していた。
だが実際にユーンの体から放出された真っ黒な瘴気は、レイマートの想定をはるかに邪悪に超えていた。

瘴気に触れた樹々の葉は瞬く間に枯れ落ち、赤茶色の土も変色し黒ずんでいく。
黒い大蛇サローンが吐き出した煙でも、ここまで急速な侵食は無かった。
この瘴気に生身の人間が触れればひとたまりもないだろう。


「おい、青髪、アゲハ達は他の蛇やってっからよぉ、俺とお前でこいつやんぞ」

白い大蛇ユーンと対峙するレイマートの背中に、のんびりした口調でリカルドが声をかけた。
赤茶色の粘土質の土を踏みながら、レイマートの隣に立つと、腰に下げた矢筒から土色の矢を取り出して、弓につがえる。

「レイジェスの緑髪か、さっきも言ったが、闇の瘴気を使ってきた以上、並みの攻撃では傷一つつけられないぞ。なにか策でもあるのか?」

チラリとリカルドに目を向けると、リカルドは眉間にシワを寄せてレイマートを睨みつけた。


「んだよお前?人を髪の色で呼ぶんじゃねぇよ。失礼なヤツだな」

「え・・・?いや、お前が最初に俺を青髪って言ったんだよな?」

リカルドが何を言っているのか一瞬理解できず、レイマートが困惑した表情を見せる。

「お前の名前を知らねぇんだから、しかたねぇだろ?」

「・・・俺だってお前の名前を知らないんだがな?」

「あ?なんで知らねぇんだよ?」


「・・・わかった、もういい。俺はレイマート・ハイランド、ゴールド騎士だ」

まったく会話にならない。レイマートは心底大きな溜息をつきたかったが、目の前の大蛇が瘴気をまき散らしている状況で、これ以上無駄な会話はできないと、自らが折れて名乗った。

「最初からそうしろよな?俺はリカルド・ガルシアだ。んじゃよ、俺が援護すっからお前が決めろ。お前の闘気ってのならこの蛇も倒せんだろ?」

「ああ、闘気は闇に通じる数少ない力だ。俺のレオンクローならコイツにも届くだろう。だがお前、どうやって援護するつもりだ?ただの鉄の矢では、本体に届く前に瘴気で溶かされるぞ」

「大丈夫だって、俺がノープランで突っ込むような馬鹿に見えんのか?一発で決めてやっからよ、お前こそしくじんじゃねぇぞ?」


「・・・大した自信だな?いいだろう、乗せられてやるよ。それだけ大口を叩いたんだから、しっかりやれよ?」

ノープランにしか見えない。そう言ってやろうと思ったが、ユーンの左目を潰した弓の腕は確かだった。
その事がレイマートにリカルドを信じさせた。

右手に闘気を込めて、正面の白い大蛇に向き直る。

「んだよ、その言い方?感じ悪ぃな?まぁ。いいけどよ・・・俺はやる時はやる男なんだよ。この大地の矢で目にもの見してやんよ」

レイマートの態度に不満を口にしながらも、リカルドは土色の矢をつがえた弓を構え、白い大蛇ユーンに狙いを定めた。


「フシャァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッツ!」

白い大蛇ユーンは腹の底からの叫びを上げた。

小さくて無力。捕食されるだけの存在。そんな見下していた人間に片目を奪われた。
狩られる側の人間が自分を恐れるどころか、逆に狩る側へと回っている。

知能のある大蛇ユーンには、我慢ならない屈辱だった。


「うっせぇなぁ、ちょっと黙ってろ」


ビリビリと肌を打つ衝撃に、口を曲げて目を細めると、リカルドは大地の矢を射った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...