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1047 予感

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「ユーリ、大丈夫か?」

息を切らして立ち止まるユーリに、数歩先を行くアラタも足を止めて声をかける。

「はぁ・・・はぁ・・・うん、大丈夫」

「ユーリ、これ以上は無理だ。もう膂力のベルトは使わない方がいい。キミのペースでいいから、ゆっくり行こう。私達がいるから蛇も気にしないでいい」

額の汗を拭い、また一歩前に進もうとしたところで、レイチェルが肩を掴んだ。

リカルドが調べたレイマート達の隠れ場所まで、あと二百メートル程ではあるが、ユーリの体力が限界だった。
魔道具膂力のベルトは、魔力を筋力に変換できるため、ここまで連日使い続けてきた。
休息もとって、できる限り体に負担をかけないようにしてきたが、とうとう気力でカバーできない限界が来た。


「・・・ごめん、足引っ張った」

うなだれて申し訳なさそうに目を伏せるユーリに、レイチェルは首を横に振った。

「ユーリ、そんなわけないだろう?この日程で、魔法使いのユーリが付いて来れた事がすごいんだぞ。他の誰にも真似できない。ユーリだからこそここまで来れたんだ。あとはもし誰かが怪我をしたり、毒を受けた時の回復だけを考えてくれればいい。それが本来のユーリの役目だ」

少し腰を曲げて、目の高さを合わせながら、レイチェルはゆっくりと言い聞かせるように話した。

ユーリはこれで責任感が強い。
レイチェルの言葉は本心だが、ユーリが納得するかは別の話しである。
だからこの遠征でユーリに求められている役目を、あらためて言ってきかせたのだ。


「レイチェルの言う通りだよ。やっぱりここからは俺がユーリを背負うよ。遠慮しないで乗ってくれ」

アラタはユーリの前に腰を下ろして、背中を向けた。

「・・・うん、よろしく」

アラタの肩に手を置いて、ゆっくりと体を預ける。
ユーリの重心を感じると、アラタはユーリの膝の裏に腕を回して立ち上がった。

「・・・重くない?」

「え?重いって、ユーリが?あはは、そんなわけないじゃん?軽い軽い」

アラタが笑って答えると、俯きがちだったユーリの表情も柔らかくなった。

「うん、じゃあ私達もそろそろ行こうか?」

「・・・みんな、大丈夫かな?」

「大丈夫だよ、みんな強いからな。心配いらないよ」

アラタとレイチェルはユーリを護るために残ったが、他のメンバーは目的地に向かう最中に、戦いの気配を感じて先行したのだった。

ゴールドの騎士のアルベルトに、シルバー騎士筆頭のレミュー、シルバー騎士序列三位のエクトール。
元帝国軍師団長のアゲハに、女王専属護衛のリーザ、そしてリカルドは店長に鍛えられてきたのだ。
闇の力を使うと言っても、蛇にやられるとは思えない。

「うん・・・そうだよね、でもなんか胸騒ぎがするの。早く行こう」

「・・・ああ、そうだな」

いつも勝気なユーリが見せる不安気な顔に、アラタは数日前に見たあの夢を思い出した。


「・・・戦っちゃ駄目・・・勝てない・・・か」


夢で告げられた弥生の言葉だった。

誰と会うのかは分からない。
だが弥生は言っていた、ここパウンド・フォーで、アラタが何者かと出会うと。
そしてその誰かには勝てない、逃げろと・・・懸命に訴えていた。

忘れていたわけではなかった。
だが、考えても答えの出ない事だ。頭には入れていたが、深くは考えないようにしていた。

会えば分かるだろう。
戦うか逃げるか、その時の状況で判断すればいい、そう結論を先延ばしにしていた。

だがユーリの言葉を聞いて、アラタの胸にも言い難い感情が沸き起こった。


「・・・どうした?心配事か?」

口を結んで眉根を寄せ、難しい顔をしているアラタに気が付き、レイチェルが声をかけた。

「あ、レイチェル・・・・・うん、ちょっとな、気になって」

「・・・シンジョウ・ヤヨイの夢の話しか?」

レイチェルが鋭く考えを読み取ると、アラタは黙って頷いた。

「夢?何の話し?」

「あ、ユーリ・・・うん、実は・・・・・」

アラタに背負われているユーリが口を挟むと、アラタは数日前に見た、弥生の夢を話した。



「・・・・・アラタ、それは多分本当に起きる事だと思う。アタシここに来てから、ずっと嫌なものを感じていた。それは闇の蛇のせいだと思ってた。でも今の話しを聞いて違うと思った。この嫌な感じは蛇のせいじゃない。アラタがこれから会う誰かのせい・・・そいつが誰か分からないけど、夢で言われた通り逃げた方がいいと思う」

「・・・ユーリ・・・・・うん、そうかもしれないな」

ユーリは真剣な面持ちで話した。アラタもユーリが自分の事を真剣に思い話してくれる、そう感じたからこそ、その言葉が真っすぐに心に届いた。

「アラタ、ユーリは勘が良い。それに夢というのは馬鹿にできない。この前も話したが、亡くなった人が想いを届ける事は事実としてあるんだ・・・」

レイチェルはアラタの正面に立つと、真っすぐに目を合わせて言葉を続けた。


「ここから先は覚悟しておいた方がいいだろう、キミが誰と出会うのかは分からない。だがキミにとって、運命と言っていい出会いかもしれない」

「・・・レイチェル、俺は・・・・・」


俺はいったい誰に会うんだ?
その時俺は、何を決断すればいいんだ?

戦っても勝てない、弥生さんはハッキリそう言っていた。
だったら逃げるしかないのだろうか?


ここまで来ても、まだ考えをまとめられない俺に、レイチェルはもう一度口を開いた。


「アラタ、キミが何を護りたいか、誰を一番に考えるべきか、それを忘れなければ答えは出るはずだ」



・・・さぁ、もう行こう・・・・・そう言ってレイチェルは背を向けると、前に立って歩き出した。


何を護りたいか

誰を一番に考えるべきか


残酷な現実と選択を迫る出会いは、もう目の前だった
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