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1046 信用

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こいつ、見た事がある。
クインズベリーの戦いの時にいたな・・・確かレイジェスの店員だったはずだ。

直接話した事はないが、見覚えのある顔にレイマートは記憶を辿った。


「あ?なにガン見してんだよ?ほら、足元来てんぞ?」

レイマートと目があったリカルドは、顎をクイっと動かして、レイマートの足元を指した。
数匹の蛇が今にも噛みつきそうに口を開き、足元に寄ってきている。

「・・・フン」

レイマートもすでにそれは察していた。
視線を向ける事もなく、飛び掛かってきた蛇達を蹴り飛ばして片付ける。

「お~、カッコイイじゃん、さすがゴールド騎士だなっと!」

レイマートの蹴りを見て口笛を吹くと、リカルドは自分に向かって来る大蛇に狙いを付けて、再び矢を射った。
5メートル級の大蛇だったが、リカルドの矢が眉間に突き刺さると、グラリと体勢を崩して前のめりに倒れる。

赤茶色の粘土質の土に大蛇が頭から落ちると、粘り気のある土が飛び跳ね、リカルドのシャツやズボンにもべったりと張り付いた。

「うぉっ、すっげぇ跳ねんな。さすが大蛇、重てぇんだな?身が詰まってんのは良い事だけどよ」

シャツに着いた土を払い落しながら、リカルドは足元で動かなくなった大蛇を観察するように見た。

「・・・頭一発か、思ってたよりあっけねぇな」

「そいつはでかいだけで闇の蛇じゃない!瘴気を発している闇の蛇には、並みの攻撃は通用しないぞ!さっきお前の矢が白蛇に刺さったのは、あいつがまだ闇の瘴気を発していなかったからだ!」

飛び掛かって来る蛇達を手刀で叩き落し、蹴りで頭を破裂させ、尻尾を掴んで樹に投げつける。
レイマートは蛇の群れを相手にしながら、闇の蛇を知らないリカルドに向かって、声を大にしてその生態を伝えた。

「へぇ~・・・そういや騎士団の連中もそんな事言ってたな。でっけぇ蛇は全部闇の蛇かと思ってたわ、って、おい!早速かよ!?」

レイマートに言葉を返したところで、たった今リカルドが倒した大蛇よりも、一回りも二回りも大きい蛇が、猛スピードで向かってきた。おそらく7~8メートルはあるだろう。緑の縞模様で、黄色がかった目はリカルドを獲物として狙いを付けていた。そしてその太く長い体からは、真っ黒な瘴気が滲み出ていた。


「んな事言ってもよぉ、ある武器で戦うしかねぇじゃん?まぁ見てろって」

そう言ってリカルドは矢筒から、1本の土色の矢を取り出すと、大蛇に向かって構えた。

「フシャァァァァァァァーーーーーーーーッツ!」

「ぶっ殺してやん・・・!?」

大蛇が上下に大きく口を開いて、リカルドに飛び掛かったその時、リカルドの脇を黒い影が颯爽と駆け抜けて行った。



長い黒髪が風になびく。
両手で持ち構える長物の刃は、緑色の風で覆われていた。
風は刃をより鋭く研ぎ澄ませている。その斬撃は全てを斬り裂く事だろう。

地面を強く蹴りつけて、蛇の頭の高さまで飛び上がると、アゲハは緑の風を纏った薙刀を振り下ろした!

「ハァァァァァーーーッツ!」

気合一線!8メートルはあるだろう大蛇を、一太刀で頭から両断してみせる。

そして着地と同時に右足を軸に、独楽のように体を回転させながら薙刀を振るうと、突風が巻き起こり地面を這う蛇達を吹き飛ばした。


「うおっ!?んぐ、ぺっ!ぺっ!おいアゲハ!口ん中に砂入ったぞ!砂は食い物じゃねぇんだぞ!」

顔に風をぶつけられたリカルドが、砂を吐きながら抗議すると、アゲハに続くもう一つの影がリカルドの頭を飛び超えた。



「やるな、元師団長ってのは伊達じゃないようだね」

大剣を振り被ったリーザ・アコスタは、アゲハの薙刀で真っ二つに裂かれた大蛇の死骸を一瞥し、その実力を認める言葉を口にした。

元帝国軍師団長という肩書きは聞いていたが、どの程度の力量なのかは見て見なければ分からない。
もちろんパウンド・フォーまで付いて来た実力を考えれば、ある程度はできるだろうと思っていた。
だが今の一太刀で分かった。どうやら自分はアゲハという人間を過小評価していたようだ。
身のこなし、太刀筋、そして風・・・・・この女、強い。


「ハァッツ!」

手近な大蛇に狙いを付けて、一太刀で首を撥ね飛ばす!
そしてそのまま手首を返すと、剣の腹で残った胴体を打ち付けた!それは大蛇の体を宙に打ち上げる程の威力だった。
そして打ち上げられた大蛇は、重力に従い落ちて来る。落ちる先には数十匹の蛇達が群がっていたが、優に100キロは超える大蛇の体を支えられるはずもなく、あっけなく潰されてしまった。



「やるな、さすが女王の専属護衛というところか」

リーザの立ち回りを見たアゲハもまた、その力を認めたように言葉を向ける。

アゲハは風の精霊の力を借りて、強化した刃で大蛇を両断したが、リーザは純粋な腕力で首を斬り飛ばした。同じ体力型でも、腕力ではリーザがアゲハを大きく上回っていた。


「あんたもなかなかのものだ。鋭い太刀に、良い身のこなしだったよ」

大剣を地面に向けて振るい、刃に付いた大蛇の血を払い落とすと、

アゲハとリーザが視線を交わす。

リーザは女王の護衛として、いくら女王がアゲハと認めたと言っても、完全には警戒を解いていなかった。一度は帝国に籍を置いていたのだ、手放しで信じるには、それに足るものをまだ見ていない。

だが、この戦いぶり、そして風がリーザの心の壁を取り払った。

「風を感じろ、か・・・師匠、確かにこの風は清らかですね」

「ん、風がどうかしたのか?」

「いや、こっちの話しだ。それよりさっさと残りの蛇を一掃してやろうじゃないか、アゲハ」

リーザが自分達を取り囲む大蛇達に大剣を向ける。

「・・・フッ、そうだな。さっさ片づけてやろうか、リーザ」

リーザに名前を呼ばれたのは初めてだった。
この遠征中、どこか距離を置かれているように感じていた。だがどうやら自分を認めてくれたようだ。

リーゼの気持ちに応えるように、アゲハはリーザの背中に自分の背を預け、大蛇に向かって薙刀を構えた。
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