上 下
1,056 / 1,253

1045 救援

しおりを挟む
疲弊している。

自分の前に立つ小さき人間は、巧みに隠しているが体力を大きく落としている。

おそらく自分の元の主人・・・いや違うな、自分を我々の主人だと思い込んでいた男、バドゥ・バックを殺した技が要因だろう。

あれを使った直後、この青い髪の人間から感じる圧力が大きく下がった。
強力な技だが、あまり多用できるものではないらしい。

使えてあと1~2回と言ったところか?
そして様子を見るに、最初と同じ威力はもう出せないだろう。

この人間は自分とこのまま戦うつもりのようだが、まともに相手をする必要もない。
なんせこちらにはこれだけの大蛇がいるんだ。
一斉にかかれば、ひとたまりもないだろう。

労せずに我々の勝ちだ。


白い大蛇ユーンはニタリと嗤うと、周囲で待機している88匹の大蛇に、命令を下そうと首を回した。しかしその時、ユーンの生物としての生存本能に突如なにかが訴えて来た。


・・・なんだ?
この強い圧迫感はなんだ?

呼吸をする事さえはばかられるような、このプレッシャーは・・・・・

正体を探ろうと首を戻した時、自分が見下ろしている小さき人間と目があった。


こいつ・・・!こいつが原因か・・・!?
この小さき人間は大きく戦力を落としているはずだ。それなのになんだこの凄まじいプレッシャーは!?

目の前の小さき獲物の全身が光り出した。とりわけ両手に漲るエネルギー、これはバドゥ・バックを引き裂いた力のようだが、この両手には凄まじい力が宿っている。
そして四足動物のような特異な構えをとると、ぶつけられるプレッシャーが更に強まった。

な、なんだこいつは・・・?
まだ見せていない力があるというのか?

死を連想させられる程のプレッシャーを感じさせられ、ユーンはその場から逃げ出したい程の猛烈な恐怖を感じた。



・・・だが踏みとどまった。


・・・ふざけるな・・・なぜ自分が逃げねばならない?

こいつは小さき人間だ。バドゥ・バックと同じ人間だ。
我々をただでかいだけの蛇だと侮り、自分が主人だと思い上がっていたあの人間と同じだ。

どうやら奥の手を持っているようだが、それでこの数を相手にできると思っているのか?

思い上がるな!

高慢な人間よ見せてやろう!蛇の毒の凄まじさを!


「フシャァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッツ!」


白い大蛇ユーンの赤い目がギラリと光り、大蛇の頂点としての矜持を腹の底から絞り出した。

それは空気が震え、樹々の葉が吹き飛ばされる、耳を痛いくらいの咆哮だった。

これが開戦の合図となった。

それまで一切の動きを見せなかった88匹の大蛇と、数千を数える蛇達が一斉にレイマートに襲い掛かった!


10メートル級のユーンには及ばないが、前後左右あらゆる角度から、5メートル以上はある大蛇達が大口を開けて迫って来る。
そして足元からは大きさこそ数十センチ程だが、地面を埋め尽くす程の蛇達が滑るように地面を走り、レイマートへと向かって来た。

逃げ場はない。
いかにゴールド騎士のレイマートでも、これだけの数の蛇の牙を、無傷で潜り抜ける事は不可能である。

だがレイマートに焦りは無かった。

その青い目は自分に迫り来る蛇達には目もくれず、ただ一点・・・そう、自分の目の前に立つ白い大蛇ユーンだけを見据えていた。




蛇野郎が、俺をあまく見たな?

これだけの蛇をけしかければ、俺の心が乱れるとでも思ったか?
慌ててテメェから目を離すとでも思ったか?

馬鹿が!なめんじゃねぇぞ!

群れのボスが目の前にいるんだぞ?
我が身可愛さに退くような男が、ゴールド騎士になれるわけねぇだろ!

ここでテメェを殺せば、司令塔を失った蛇共は有象無象と化すだろう。
これだけの数の蛇共だ、放っておけば今後クインズベリーの脅威となる事は間違いない。
ここで群れのボスを仕留める事ができれば、帝国の戦力を大きく削ぐことができる。

これはまたと無い好機だ。俺の命と引き換えにしてでも、ここでてめぇを討つ!


「獅子王牙(ししおうが)!」


闘気を込めた右足で地面を蹴り、レイマートが必殺を放とうとしたその時、レイマートの顔の横を何かが鋭く風を切って通り過ぎた。

「ッ!?」

予期せず何かが乱入した事で、レイマートは左足で地面を強く踏みつけ、発動しかけた技に無理やりブレーキをかけた。


「フシャァァァァァァーーーーーーーーーッツ!」

レイマートが足を止めた直後、目の前に立つ白い大蛇が大口を開けて、腹の奥底から苦痛の叫びを噴射した。


「あれは・・・矢、だと?」

レイマートは驚きに目を開いた。
なぜなら白い大蛇ユーンの左目には、矢が突き刺さっていたのだから。


いったいなぜ突然矢が?誰が?
様々な疑問が一瞬で頭の中を駆け巡った。だが答えにもすぐにたどり着いた。

この場面で蛇に矢を射るなんて、救援隊に決まっている。
つまりエクトールは間に合ったんだ!


レイマートが後ろを振り返ると、矢を構えたエメラルドグリーンの髪の少年が目に映った。


「お~、我ながらナイスショット!俺ってやっぱり優秀だよな」


救援隊の一人、リカルド・ガルシアの放った矢が、大蛇ユーンの左目を射抜いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...