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1044 言葉と意思
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「・・・死んだようだな」
レオンクローによって頭のてっぺんから股下まで、見事に体を二つに裂かれたバドゥ・バック。
大きく膨れ上がった闘気の爪で潰された頭は、蒸発するように溶け消えた。
そして左右に分かれて残った身体も、少しづつ散らされるように消失していった。
蛇使いバドゥ・バックは倒した。
主人を失った事で、残った蛇達は散り散りに逃げ出す事だろう。そう思っていたが、レイマートの考えを否定するように、自分を囲む88匹の大蛇は全く動きを見せなかった。
「・・・ふ~ん、なるほどね・・・」
周囲を見回し、蛇達の様子を確認したレイマートは、得心がいったように頷いて顔を上げた。
正面には鎌首をもたげ、血のように真っ赤な目で自分を見つめる白い大蛇ユーンがいる。
目の前で主人を殺されたにも関わらず、怒る事も悲しむ様子も見せない。チロチロと舌を振り、嗤っているようにさえ見える。
主人のバドゥ・バックが倒されても動き出さない蛇。
そしてそのバドゥ・バックが死ぬ前には、命令をきかなかった白い大蛇ユーン。
レイマートは一つの結論を導き出した。
「白蛇、お前だな?こいつら蛇共の本当のボスはお前だ」
正面から見上げると、10メートルの大蛇というものは本当に大きい。
身長175cm程度のレイマートとは、比べようもない程だ。
見下ろす側のユーンからすれば、人間など虫のような存在だろう。
そして指先を突き付けられて、大蛇ユーンは口の端を持ち上げて嗤った。
言葉を発する事はできない。だがその目を見れば分かる。
自分より小さい存在などに、最初から従ってなどいなかったのだ。
バドゥ・バック自身にも、蛇や生き物と通じ合う能力はあったのだろう。
それがごく普通の動物であれば問題はなかった。標準的なサイズの蛇なら通用したのだ。
だがこの規格外の大蛇には通じなかった。
白蛇ユーンが何を考えて、バドゥ・バックに従ったフリをしたのかは分からない。
ただの気まぐれなのか、それとも勘違いした人間の愚かさを見て嗤っていたのか、言葉がかわせない以上は確かな事は分からない。
だが当たらずとも遠からずだろう。
感情というものは目を見れば分かるのだ。
レイマートを見下ろす白蛇ユーンの目には、人間に対する嘲笑がハッキリと浮かんでいるのだから。
「間違いないみたいだな?だったらお前を殺せば、今度こそ蛇共は退くのかな?」
「フシュァァァァーーー」
白い大蛇ユーンは、言葉の代わりに喉の奥から空気を噴射させて答えた。
蛇の知能は高いのか?
前提として、蛇には物事を学習したり、思考を制御するような機能は無いとされている。
しかし繰り返す事によって、餌を与える人間、餌がもらえる時間などの関連性は理解できるようになる。
言うなれば慣れと習慣である。
つまりペットとして飼っている蛇でも、言葉を理解しているとは考え難い。
動作から意図を読み取る事はあるかもしれないが、人間の言葉を理解して意思の疎通を行う事は、無いと言っていいだろう。
だがこの大蛇ユーンは違った。
対峙しているレイマートは、目の前の大蛇が自分の言葉を聞いている、理解しているとしか思えなかった。
自分を見る目つきも、ただの餌を見る目ではない。
10メートルの巨大蛇からすれば矮小な存在でも、バドゥ・バックという闇を葬った力を持っている敵として認識している。
他の蛇とは明らかに一線を画している存在。その理由が何なのか、今レイマートは確信した。
「・・・知能のある蛇か・・・面倒くせぇな」
溜息をつくと、レイマートは両手に闘気を集中させた。
左腕を顔の前に、右腕を腰の前で、爪を突き立てるように指を開く。
右足を大きく後ろに引き、左足は軽く曲げて前へ出す。
そして上半身を少しだけ前傾にしたこの構えは、己を獅子に見立てたレイマートが、全力を出す時の構えである。
「まぁ、その首刈り取ってやるぜ」
ギラリと光る青い目が、白い大蛇ユーンの喉元に狙いを付けた。
レオンクローによって頭のてっぺんから股下まで、見事に体を二つに裂かれたバドゥ・バック。
大きく膨れ上がった闘気の爪で潰された頭は、蒸発するように溶け消えた。
そして左右に分かれて残った身体も、少しづつ散らされるように消失していった。
蛇使いバドゥ・バックは倒した。
主人を失った事で、残った蛇達は散り散りに逃げ出す事だろう。そう思っていたが、レイマートの考えを否定するように、自分を囲む88匹の大蛇は全く動きを見せなかった。
「・・・ふ~ん、なるほどね・・・」
周囲を見回し、蛇達の様子を確認したレイマートは、得心がいったように頷いて顔を上げた。
正面には鎌首をもたげ、血のように真っ赤な目で自分を見つめる白い大蛇ユーンがいる。
目の前で主人を殺されたにも関わらず、怒る事も悲しむ様子も見せない。チロチロと舌を振り、嗤っているようにさえ見える。
主人のバドゥ・バックが倒されても動き出さない蛇。
そしてそのバドゥ・バックが死ぬ前には、命令をきかなかった白い大蛇ユーン。
レイマートは一つの結論を導き出した。
「白蛇、お前だな?こいつら蛇共の本当のボスはお前だ」
正面から見上げると、10メートルの大蛇というものは本当に大きい。
身長175cm程度のレイマートとは、比べようもない程だ。
見下ろす側のユーンからすれば、人間など虫のような存在だろう。
そして指先を突き付けられて、大蛇ユーンは口の端を持ち上げて嗤った。
言葉を発する事はできない。だがその目を見れば分かる。
自分より小さい存在などに、最初から従ってなどいなかったのだ。
バドゥ・バック自身にも、蛇や生き物と通じ合う能力はあったのだろう。
それがごく普通の動物であれば問題はなかった。標準的なサイズの蛇なら通用したのだ。
だがこの規格外の大蛇には通じなかった。
白蛇ユーンが何を考えて、バドゥ・バックに従ったフリをしたのかは分からない。
ただの気まぐれなのか、それとも勘違いした人間の愚かさを見て嗤っていたのか、言葉がかわせない以上は確かな事は分からない。
だが当たらずとも遠からずだろう。
感情というものは目を見れば分かるのだ。
レイマートを見下ろす白蛇ユーンの目には、人間に対する嘲笑がハッキリと浮かんでいるのだから。
「間違いないみたいだな?だったらお前を殺せば、今度こそ蛇共は退くのかな?」
「フシュァァァァーーー」
白い大蛇ユーンは、言葉の代わりに喉の奥から空気を噴射させて答えた。
蛇の知能は高いのか?
前提として、蛇には物事を学習したり、思考を制御するような機能は無いとされている。
しかし繰り返す事によって、餌を与える人間、餌がもらえる時間などの関連性は理解できるようになる。
言うなれば慣れと習慣である。
つまりペットとして飼っている蛇でも、言葉を理解しているとは考え難い。
動作から意図を読み取る事はあるかもしれないが、人間の言葉を理解して意思の疎通を行う事は、無いと言っていいだろう。
だがこの大蛇ユーンは違った。
対峙しているレイマートは、目の前の大蛇が自分の言葉を聞いている、理解しているとしか思えなかった。
自分を見る目つきも、ただの餌を見る目ではない。
10メートルの巨大蛇からすれば矮小な存在でも、バドゥ・バックという闇を葬った力を持っている敵として認識している。
他の蛇とは明らかに一線を画している存在。その理由が何なのか、今レイマートは確信した。
「・・・知能のある蛇か・・・面倒くせぇな」
溜息をつくと、レイマートは両手に闘気を集中させた。
左腕を顔の前に、右腕を腰の前で、爪を突き立てるように指を開く。
右足を大きく後ろに引き、左足は軽く曲げて前へ出す。
そして上半身を少しだけ前傾にしたこの構えは、己を獅子に見立てたレイマートが、全力を出す時の構えである。
「まぁ、その首刈り取ってやるぜ」
ギラリと光る青い目が、白い大蛇ユーンの喉元に狙いを付けた。
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