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1038 エミリーとロゼの驚愕

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「はぁ・・・・・ふぅ・・・、驚いたわ・・・予想以上のすごい威力ね、エミリーの結界が無かったらと思うと、ゾっとするわね」

ロゼは胸に手を当てると、平常時よりもずっと早い鼓動を押さえるように、深く大きく息を吐いた。
そして顔を上げると、自分達を護ってくれた青く輝く結界を見た。

だいぶ少なくなってきたが、まだ雨あられのように、ボタボタと結界に当たってて音を立てるのは、真っ赤な肉片だった。

そう、つい先ほど上空で、灼炎竜の爆発をまともに浴びた大蛇サローンの肉片である。

なぜサローンの肉片と断言できるのか?
状況的に見れば大蛇サローンの物としか考えられないし、他の誰でも大蛇の肉片と答えるだろう。
だがそれ以上に、もっと確かな物的証拠があった。

見上げた視線を正面に戻す。するとロゼ眼前には、青く輝く結界を一枚隔てて、黒い鱗に覆われた巨大な蛇の死骸があった。

なぜそれが死骸だと分かったのか?
それはだれが見ても一目で分かる事だ、なぜならその蛇には頭部が無かったからだ。
首から先が無理やり引き千切られたかのようにボロボロで、血液が蒸発しているのか、断面からは赤黒い血煙が上がっていた。

そう・・・空からボタボタと降ってくるのは、大蛇サローンの吹き飛ばされた肉片なのだ。



「私こそ、ロゼがいなかったらって思うと怖くなるわ。いつだって冷静で、周りをよく見て指示を出すじゃない?私は肝心な時に怖気づいてしまって・・・ロゼ、本当に頼りにしてるのよ」

上空でフィルの灼炎竜が大爆発を起こした。
その直後エミリー達を襲ったのは、人の頭程もある巨大な火の粉、そして立っている事も困難なくらいの、全身を強く叩きつけてくる衝撃波だった。

爆発の余波というには凄まじいものがあった。当然まともに受ければ無事ではすまない。
だがその全てをエミリーは一人、結界で受けきったのだ。

「ふふ、ありがとう。でもねエミリー、あなたは自分で思う程弱くなんかないのよ?こうして前に出て、私とフィルも護ってくれたじゃない?私こそ頼りにしてるわよ、エミリー・・・」

そこで言葉を区切ると、ロゼは自分にもたれかかって目を閉じているフィルに顔を向けた。

ロゼはフィルの体重がかかっても倒れないように腰を下ろし、後ろから抱きすくめる形で支えている。ぐったりと両の手足を投げ出しうなだれている姿は、眠っているようにしか見えなかった。

「・・・フィルは大丈夫そう?」

「灼炎竜を爆発させた後、糸が切れたように倒れたわ・・・本当に限界まで振り絞ったのよ。でも呼吸はしているし、顔色が悪いわけでもないから、しばらくすれば目を覚ますと思うわ」

フィルの短い金色の髪を撫で、ロゼはあらためて顔を見つめる。
どこかに異常があるようには見えない。呼吸音も一定のリズムで聞こえるし、魔力を使い切った事と、魔法剣を使用した事による反動で気を失っただけだろう。

「そうね・・・魔法剣まで使って私達を護ってくれたんだから、今度は私達が頑張ろうね」

「ええ、頑張りましょうね、エミ、リー・・・?」

「ロゼ?」

ふいにロゼの視線がエミリーから外れ、エミリーの背後に釘付けになった。


信じられない・・・・・・・


ロゼの表情には驚きと戸惑いが浮かび、今自分が目にしているものが現実なのかと、疑いたくなる程だった。

「ロ、ロゼ・・・ど、どうしたの?」

「・・・・・エ、エミリー・・・あ、あれは・・・」

顔を青ざめさせ、震える手でエミリーの背後を指さした。


見るな・・・・・
見ない方がいい・・・・・

でも見ないわけにはいかなかった

ロゼの指先を追って、振り返ったエミリーの目に映ったものは・・・・・


「・・・・・・・ッツ!?」


頭を失い、ボロボロの血まみれで倒れていた大蛇サローンが起き上がり、吹き飛ばされた頭の根本から溢れだした黒い瘴気が、失った蛇の頭を形作っていた。
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