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1034 人ならざる者へ
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「レイマート様、蛇の様子が変です」
「・・・どういう事だ?」
赤茶色の髪を指先で巻きながら、ロゼは洞窟の天井を見上げた。
「・・・何匹かこの洞窟の上で、ぐるぐる回っているんです。蛇の視力はあまり良くないので、隙間から覗いても私達の姿を確認する事はできないと思います。でも、何かを意識した動きに思えるんです。見えなくても、ここに私達がいる事に気付いたのかもしれません」
見つかったとしたら、すぐにでもバドゥ・バックが攻めてくるだろう。
まだクインズベリーからの救援も来ていない状況では、最悪のシナリオだった。
だがロゼは慌てる事なく、冷静に状況を分析して指示を仰いでくる。
「レイマート様、打ち合わせ通りで対応しますか?」
「しつこそうなヤツだったからな、いずれは見つかるかもしれないって思ってたが・・・まぁ、今日まで引っ張れただけよかったって思うか」
首筋に手を当てながらコキコキと音を鳴らす。
ここに隠れて今日で七日目だった。レイマートの計算通りであれば、今日中にはクインズベリーからの救援が到着していいはずだった。
救援が来れば、自分達を呼ぶ声が聞こえたり、なにかしらのアクションがあるはずだ。
それらしいものがないという事は、まだ救援が来ていないという事。
それは残念だがこうなってしまった以上、自分達でなんとかするしかない。
隊をあずかる身として、あらゆる状況下での対策は考えてあり、すでに打ち合わせ済みである。
「よし、じゃあやるか・・・反撃開始だ」
居場所はバレた。だがレイマートの表情には、追い詰められた者の焦りはなかった。
ニヤリと笑ったゴールド騎士は、強く拳を握り戦場へと戻る。
そして今・・・・・・
樹の上でバドゥ・バックを待ち構えていたレイマートの奇襲は、バドゥ・バックの頭を叩き潰すという最大の成果を上げた・・・・・かのように見えた。
「・・・チィッ!」
振り下ろした右腕に感じた手応えは確かなものだった。
だがレイマートは顔をしかめて舌を打った。
「ぐっ、あぐぁぁっ、く、そ、がぁぁぁぁぁーーーーーーーッツ!」
地面に着地したレイマートは、顔を上げて正面で叫び声を上げるバドゥ・バックを見た。
レオンクローによって、右の耳と右肩から先をごっそりと削ぎ落とされている。
そのダメージがいか程かは、説明するまでもないだろう。
だがギリギリで頭は躱された。
絶好の機会であり、ここで仕留めるつもりだったレイマートは、憎々し気にもう一度舌を打った。
それは躱された事に対してのものだが、もう一つ・・・・・
「へっ・・・人間を辞めた気分はどうだ?すっかり化け物じゃねぇか」
「ぐ、ぐぬぅぅぅぅうッ!お、おのれぇぇぇぇぇーーーーーーーーッツ!」
残った左手で右肩の傷口を押さえながら、バドゥ・バックは自分の耳と腕を持っていった青い髪の男に、怒りで闇に染まったドス黒い目を向けた。
削ぎ落された右耳と右肩、その傷口からは本来、真っ赤な血が出てしかるべきである。
人間ならばそれが当たり前であり、わざわざ確認する事ではない。
だがレイマートが人間を辞めたと指摘した理由は、その傷口から出ているものが真っ赤な血ではなく、真っ黒な瘴気だったからだ。
人ならざる者へと変貌していくバドゥ・バックを目の前にして、レイマートはかつての上司であり、闇に飲まれたトレバーを思い出して舌を打ったのだった。
「たくっ、どいつもこいつも闇なんぞに呑まれやがって・・・オラ、かかって来いよ化け物野郎。今度こそてめぇの頭を刈り取ってやる」
右手の親指を自分の首に当て、かっ切るように真横に引いて見せる。
「ガァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッツ!」
獣のような咆哮と共に、バドゥ・バックが全身から闇が溢れだした。
「・・・どういう事だ?」
赤茶色の髪を指先で巻きながら、ロゼは洞窟の天井を見上げた。
「・・・何匹かこの洞窟の上で、ぐるぐる回っているんです。蛇の視力はあまり良くないので、隙間から覗いても私達の姿を確認する事はできないと思います。でも、何かを意識した動きに思えるんです。見えなくても、ここに私達がいる事に気付いたのかもしれません」
見つかったとしたら、すぐにでもバドゥ・バックが攻めてくるだろう。
まだクインズベリーからの救援も来ていない状況では、最悪のシナリオだった。
だがロゼは慌てる事なく、冷静に状況を分析して指示を仰いでくる。
「レイマート様、打ち合わせ通りで対応しますか?」
「しつこそうなヤツだったからな、いずれは見つかるかもしれないって思ってたが・・・まぁ、今日まで引っ張れただけよかったって思うか」
首筋に手を当てながらコキコキと音を鳴らす。
ここに隠れて今日で七日目だった。レイマートの計算通りであれば、今日中にはクインズベリーからの救援が到着していいはずだった。
救援が来れば、自分達を呼ぶ声が聞こえたり、なにかしらのアクションがあるはずだ。
それらしいものがないという事は、まだ救援が来ていないという事。
それは残念だがこうなってしまった以上、自分達でなんとかするしかない。
隊をあずかる身として、あらゆる状況下での対策は考えてあり、すでに打ち合わせ済みである。
「よし、じゃあやるか・・・反撃開始だ」
居場所はバレた。だがレイマートの表情には、追い詰められた者の焦りはなかった。
ニヤリと笑ったゴールド騎士は、強く拳を握り戦場へと戻る。
そして今・・・・・・
樹の上でバドゥ・バックを待ち構えていたレイマートの奇襲は、バドゥ・バックの頭を叩き潰すという最大の成果を上げた・・・・・かのように見えた。
「・・・チィッ!」
振り下ろした右腕に感じた手応えは確かなものだった。
だがレイマートは顔をしかめて舌を打った。
「ぐっ、あぐぁぁっ、く、そ、がぁぁぁぁぁーーーーーーーッツ!」
地面に着地したレイマートは、顔を上げて正面で叫び声を上げるバドゥ・バックを見た。
レオンクローによって、右の耳と右肩から先をごっそりと削ぎ落とされている。
そのダメージがいか程かは、説明するまでもないだろう。
だがギリギリで頭は躱された。
絶好の機会であり、ここで仕留めるつもりだったレイマートは、憎々し気にもう一度舌を打った。
それは躱された事に対してのものだが、もう一つ・・・・・
「へっ・・・人間を辞めた気分はどうだ?すっかり化け物じゃねぇか」
「ぐ、ぐぬぅぅぅぅうッ!お、おのれぇぇぇぇぇーーーーーーーーッツ!」
残った左手で右肩の傷口を押さえながら、バドゥ・バックは自分の耳と腕を持っていった青い髪の男に、怒りで闇に染まったドス黒い目を向けた。
削ぎ落された右耳と右肩、その傷口からは本来、真っ赤な血が出てしかるべきである。
人間ならばそれが当たり前であり、わざわざ確認する事ではない。
だがレイマートが人間を辞めたと指摘した理由は、その傷口から出ているものが真っ赤な血ではなく、真っ黒な瘴気だったからだ。
人ならざる者へと変貌していくバドゥ・バックを目の前にして、レイマートはかつての上司であり、闇に飲まれたトレバーを思い出して舌を打ったのだった。
「たくっ、どいつもこいつも闇なんぞに呑まれやがって・・・オラ、かかって来いよ化け物野郎。今度こそてめぇの頭を刈り取ってやる」
右手の親指を自分の首に当て、かっ切るように真横に引いて見せる。
「ガァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッツ!」
獣のような咆哮と共に、バドゥ・バックが全身から闇が溢れだした。
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