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1025 遠征の疲労
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「よし、今日はあの小屋に泊るぞ」
先頭を走るアルベルトは、ゆっくり減速して足を止めると、十数メートル程先に見える古びた木造の小屋を指さした。
クインズベリーを出て三日が経った。
この辺りは草地で、周辺には民家らしいものは何も見えない。ただただ緑や黄色の草が生え広がっているだけだ。
アルベルトが指定した小屋も、小屋と言うよりは廃屋と言った方が正しい表現だろう。
何のために建てられたのか分からないくらい古い。人が住まなくなって随分な年月が経っているように感じる。
「誰もいないと思いますが、確認だけはしてきます」
パウンド・フォーへ行った時と、クインズベリーに戻って来る時で計二回、すでにこの小屋を利用したというエクトールが、中の確認のために走って行った。
「・・・あと一時間くらいは陽がありそうだが・・・まぁ今日はここまでか」
眉の上に手を当てながら、レイチェルは空を見上げて呟いた。
陽がだいぶ傾いてきたが、日没まではもう少し時間はある。
まだ走ろうと思えば走れる。
「この先はしばらく草地が続いて、宿も民家も何もないからな、ここで休むしかないぞ」
そんなレイチェルの考えを察してか、アルベルトが声をかけた。
その日泊る場所に関しては、地理を把握しているアルベルトと、一度パウンド・フォーまで行ったエクトールが、日程を調整して決めていた。
「あらら、それは残念だ。大人しくここで休む事にするよ」
「素直で助かるぜ。走り足りなそうな顔してたから、一人で突っ走って行っちまうかと思ったよ」
「おや、アルベルト?私をそんな聞き分けのない女だと思ってたのかい?心外だな」
「おっと、そう睨むなよ。分かった分かった、お!エクトールが手を振ってるぜ。大丈夫みたいだな、さっさと行こうぜ」
レイチェルがジロリと目を向けると、アルベルトは顔の前で手を振って、急がせるようにようにレイチェルを小屋へと促した。
「やれやれ、しかたない、ここはごまかされてやるか」
肩をすくめて一つ息をつくと、レイチェルは小屋へと足を向けた。
「ふぅ・・・」
「ユーリ、大丈夫か?」
足を止めて額の汗を拭うユーリに、アラタが声をかける。
魔力を筋力に変換する魔道具、膂力のベルトを使ってこの遠征について来ているが、やはり厳しいようだ。
「ん・・・大丈夫・・・」
「・・・無理はするなよ、はい」
水の入った木製の筒を渡すと、ユーリはありがとうと口にして受け取った。
「今日で三日目だけど、調子はどうなんだ?」
「・・・まだ走れる」
チラリとアラタに目を向けると、パンパンと軽く腿を叩き、膝を上げたり空中を蹴って見せたりする。
自分はまだ大丈夫だ、そう見せるように。
「・・・まだ三日は走るみたいだから、キツくなったら言えよ?」
初日と比べるとやはり疲労が溜まって見える。
アルベルトも二時間置きに休憩は取るようにしているし、レイチェルは寝る前にユーリのマッサージもしている。それでも本来魔法使いのユーリには、無理をさせている事は間違いなかった。
ユーリは自分は力技で付いて行くと言っていたが、その言葉通りユーリのこれは力技だった。
「分かった。でも今はまだ大丈夫。アラタも体休めて。アラタの光の力が要なんだから」
水の入った筒をアラタに返すと、ユーリは小屋へと歩いて行った。
「アラタ、なにぼんやりしてんの?」
後ろから声をかけられて振り向くと、アゲハが立っていた。
タオルで顔の汗を拭いながら、小屋に向かって歩いて行くユーリの背中をチラリと見る。
「・・・そんなに心配しなくてもいいんじゃない?」
「え?」
「私はまだ付き合いが浅いけど、ユーリってなんでもハッキリ言うでしょ?キツくなったら自分から言って来ると思うよ?だから今はまだ大丈夫って事だよ」
「・・・よく見てるんだな」
自分が何を考えているのか、アゲハは一目で見抜いた。
そしてまだ数か月程度の付き合いしかないが、ユーリの事をちゃんと見て理解している。
「まぁ、仕事柄ってヤツ?元師団長だったから、部下の事も見てなきゃだったしね。アラタのそういう優しいとこは長所だけどさ、気にし過ぎ、かまい過ぎって時もあるからね。全然気にするなって言うんじゃなくて、ほどほどで大丈夫だって事だよ」
「・・・そっか、うん、そうだな。分かった、ほどほどか・・・そうしてみるよ」
「うん、素直のところもあんたの良いとこだよね。じゃあ、私らも行こうか」
アゲハはニッと笑うと、親指を小屋に向けた。
その笑顔に、忘れる事のない恩人・・・新庄弥生が重なって見えた。
先頭を走るアルベルトは、ゆっくり減速して足を止めると、十数メートル程先に見える古びた木造の小屋を指さした。
クインズベリーを出て三日が経った。
この辺りは草地で、周辺には民家らしいものは何も見えない。ただただ緑や黄色の草が生え広がっているだけだ。
アルベルトが指定した小屋も、小屋と言うよりは廃屋と言った方が正しい表現だろう。
何のために建てられたのか分からないくらい古い。人が住まなくなって随分な年月が経っているように感じる。
「誰もいないと思いますが、確認だけはしてきます」
パウンド・フォーへ行った時と、クインズベリーに戻って来る時で計二回、すでにこの小屋を利用したというエクトールが、中の確認のために走って行った。
「・・・あと一時間くらいは陽がありそうだが・・・まぁ今日はここまでか」
眉の上に手を当てながら、レイチェルは空を見上げて呟いた。
陽がだいぶ傾いてきたが、日没まではもう少し時間はある。
まだ走ろうと思えば走れる。
「この先はしばらく草地が続いて、宿も民家も何もないからな、ここで休むしかないぞ」
そんなレイチェルの考えを察してか、アルベルトが声をかけた。
その日泊る場所に関しては、地理を把握しているアルベルトと、一度パウンド・フォーまで行ったエクトールが、日程を調整して決めていた。
「あらら、それは残念だ。大人しくここで休む事にするよ」
「素直で助かるぜ。走り足りなそうな顔してたから、一人で突っ走って行っちまうかと思ったよ」
「おや、アルベルト?私をそんな聞き分けのない女だと思ってたのかい?心外だな」
「おっと、そう睨むなよ。分かった分かった、お!エクトールが手を振ってるぜ。大丈夫みたいだな、さっさと行こうぜ」
レイチェルがジロリと目を向けると、アルベルトは顔の前で手を振って、急がせるようにようにレイチェルを小屋へと促した。
「やれやれ、しかたない、ここはごまかされてやるか」
肩をすくめて一つ息をつくと、レイチェルは小屋へと足を向けた。
「ふぅ・・・」
「ユーリ、大丈夫か?」
足を止めて額の汗を拭うユーリに、アラタが声をかける。
魔力を筋力に変換する魔道具、膂力のベルトを使ってこの遠征について来ているが、やはり厳しいようだ。
「ん・・・大丈夫・・・」
「・・・無理はするなよ、はい」
水の入った木製の筒を渡すと、ユーリはありがとうと口にして受け取った。
「今日で三日目だけど、調子はどうなんだ?」
「・・・まだ走れる」
チラリとアラタに目を向けると、パンパンと軽く腿を叩き、膝を上げたり空中を蹴って見せたりする。
自分はまだ大丈夫だ、そう見せるように。
「・・・まだ三日は走るみたいだから、キツくなったら言えよ?」
初日と比べるとやはり疲労が溜まって見える。
アルベルトも二時間置きに休憩は取るようにしているし、レイチェルは寝る前にユーリのマッサージもしている。それでも本来魔法使いのユーリには、無理をさせている事は間違いなかった。
ユーリは自分は力技で付いて行くと言っていたが、その言葉通りユーリのこれは力技だった。
「分かった。でも今はまだ大丈夫。アラタも体休めて。アラタの光の力が要なんだから」
水の入った筒をアラタに返すと、ユーリは小屋へと歩いて行った。
「アラタ、なにぼんやりしてんの?」
後ろから声をかけられて振り向くと、アゲハが立っていた。
タオルで顔の汗を拭いながら、小屋に向かって歩いて行くユーリの背中をチラリと見る。
「・・・そんなに心配しなくてもいいんじゃない?」
「え?」
「私はまだ付き合いが浅いけど、ユーリってなんでもハッキリ言うでしょ?キツくなったら自分から言って来ると思うよ?だから今はまだ大丈夫って事だよ」
「・・・よく見てるんだな」
自分が何を考えているのか、アゲハは一目で見抜いた。
そしてまだ数か月程度の付き合いしかないが、ユーリの事をちゃんと見て理解している。
「まぁ、仕事柄ってヤツ?元師団長だったから、部下の事も見てなきゃだったしね。アラタのそういう優しいとこは長所だけどさ、気にし過ぎ、かまい過ぎって時もあるからね。全然気にするなって言うんじゃなくて、ほどほどで大丈夫だって事だよ」
「・・・そっか、うん、そうだな。分かった、ほどほどか・・・そうしてみるよ」
「うん、素直のところもあんたの良いとこだよね。じゃあ、私らも行こうか」
アゲハはニッと笑うと、親指を小屋に向けた。
その笑顔に、忘れる事のない恩人・・・新庄弥生が重なって見えた。
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