上 下
1,022 / 1,277

1021 土に埋もれて

しおりを挟む
濛々と立ち込める土煙。
大蛇スターンの落下は、味方の蛇達にも大きな被害を与えていた。

爆風に巻き込まれた蛇達は、樹に叩きつけられ血反吐を吐いて死んでいた。
舞い上がった岩の下敷きや、根本からへし折れた樹に潰されて、ぺしゃんこになった蛇も数多い。

レイマート達を包囲するために集まった蛇達、その実に半数は行動不能となっていた。
息のある蛇達も無傷ではない。吹き飛ばされたダメージで弱っており、とてもフィル達に攻撃できる状態ではなかった。


「・・・うっ・・・ゲホッ!ブハッ!」

頭から被っていた土を払いのけ、フィルは上半身を起こした。

全身が土にまみれ、目にも鼻にも入っていたが、一番は口の中だった。
口の中どころか、喉の奥まで土が入り込んでいる。
呼吸をしようとした瞬間に、咳と同時に口の中の土が唾液と共に吐き出される。

「ブハッ!ゲホッ!ゲホッ!ペッ!ペッ!・・・う、うげぇッ・・・」

乱れた呼吸を落ち着かせようにも咳は治まらず、土の混じった吐しゃ物まで出た。

そこまでしてやっと落ち着いてくると、胸に手を当ててゆっくりと呼吸を繰り返す。


「はぁ・・・ふぅ・・・くそっ、情けねぇ・・・耐え切れなかった・・・」


樹々を薙ぎ倒す程の爆風、大地震と言っていい程の地揺れ、風の盾では耐えきれず、フィルとロゼとエミリーの三人は吹き飛ばされてしまった。
だが大きな怪我をせずに済んだという事は、少なからずの軽減はできたという事だろう。

「・・・ふぅ・・・ロゼ、エミリー、あいつらは・・・ん?」

やっと呼吸が落ち着いたところで、フィルはゆっくり立ち上がると、周囲を見回した。

2~3メートル程離れた場所で、薄っすら積もった土がもぞもぞと動き、人の手が飛び出した。
バタバタと動かして体に積もった土を払うと、赤茶色の髪の女が体を起こした。

「ロゼ!」

「ぺっ、ぺっ・・・はぁ、はぁ、ふぅ・・・口がじゃりじゃりする、気持ち悪いわ」

ロゼは頭と顔の土を両手で払いながら、口に入った土を何度も吐き出している。
フィルの後ろで頭を低くしていたからか、フィル程にはひどい状態ではないようだ。

「あ~、分かる。俺もまだ気持ち悪いわ。大丈夫か?」

フィルはロゼの隣に腰を下ろすと、落ち着かせるように背中を軽くさすった。

「ふぅ・・・・・ええ、だいぶ落ち着いてきたわ。ありがとう、フィル。あなたが風の盾を作ってくれなかったら、この程度じゃすまなかったでしょうね。本当に助かったわ」

ニコリとロゼが微笑んで見せると、フィルは照れを隠すように頬を掻いた。

「そ、そうか、まぁ大丈夫なら良かったよ。あとはエミリー・・・あ!」

キョロキョロと首を回すと、少し離れた場所で、全身の土を払うように頭をブンブン振って、腕をバタバタさせているエミリーを見つけた。
薄緑色の髪にはたっぷりと茶色の土が付き、青いローブもすっかり土で汚れてしまっている。

しきりに唾を吐いているところを見ると、エミリーもだいぶ口に入っていたようだ。


「あ~、エミリーもたっぷり食ったみたいだな」

「辛そうね、大丈夫かしら」

フィルとロゼは腰を上げると、エミリーの名前を呼びながら近づいた。


「ゲホッ!ゲホッ!・・・」

「おい、エミリー、大丈夫か?」

「フィル・・・ロゼも、うっ、ゲホッ・・・ふぅ・・・・・なんとか、ね。ひどい目にあったわ」

ようやく落ち着いたエミリーは、目元の涙を指先で拭うと、フィルとロゼに顔を向けた。

「フィルもロゼもすごい顔ね。土塗れよ」

「エミリー、それ鏡見てから言えよ」

「ふふ、エミリーだって日焼けしたの?ってくらい茶色いわ」


三人は顔を見合わせると、誰が先にというわけでもなく声を出して笑った。
戦場の真っただ中で、気が抜けていると思われるかもしれない。
だが三人とも怪我をせず無事だった事が嬉しくて、笑いが溢れ出した。


「ふぅ・・・あとはレイマート様だけど・・・」

「レイマート様なら大丈夫だと思うわよ。私達とは離れていたし、最後にあっちの奥へ走って行ったのを見たわ」

一息ついてフィルが話し出すと、ロゼが言葉を引き取り、自分達が戦っていた場所とは反対方向の、生い茂る樹々の奥を指した。

「ロゼ、よく見てるわね。まぁ、ここから離れてるんだし、レイマート様なら心配はいらないわね」

エミリーはロゼの指先を目で追って話す。

ゴールド騎士になった今でこそ、敬称に様を付けているが、少し前までレイマートは三人と同じシルバー騎士だった。共に様々な任務に赴き、気心も知れている。
そしてレイマートの実力は、三人ともよく知っている。

偽国王との戦いをえて、レイマートは騎士の頂点ゴールド騎士にまでなった。
その称号さえ得たレイマートが、いかに闇の力を持っているとはいえ、たかが蛇にやられるはずがない。

自然と三人は樹々の奥に目を向けていた。
すると彼らの期待に応えるかのように、遠くから枝葉を踏み鳴らす音が聞こえ、それはだんだんと近づいてきた。

そして・・・・・


「ん?おー、みんな無事だったかー」


挨拶でもするような軽さで右手を挙げて、レイマートが姿を見せた。
青く透明感のあった長い髪は土にまみれ、銀色の肩当てや胸当てにはヒビが入っているし、黒いロングシャツやロングパンツには破れもあるが、怪我らしい怪我は見られない。

ケロっとしたその表情が、大蛇との戦いを問題なく終わらせてきたと物語っていた。

「ほら、やっぱりピンピンしてらぁ」

「ふふ、そうね」

「レイマート様も土まみれ、これでみんなお揃いね」

三人は顔を見合わせると、一人ゆっくり歩いて来るレイマートの元に駆けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...