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1019 捕食

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硬い!トルネードバーストでも、この蛇を斬る事ができない!

魔力を通して手応えが伝わって来るから分かる。上級魔法でもこの蛇の纏う闇の瘴気は貫けない。
竜氷縛でも僅かな時間しか固められなかったから予想はしていたが、やはり魔法は通じないのか?

「だがな、俺の本命はこっちだ!」

トルネードバーストで大蛇を切り刻む事はできなかった。だがその巨体を持ち上げる事はできた。
10メートル級の大蛇は渦巻く風にその身を捕らわれ、少しづつ、だが確実に空へと登っている。

大蛇は喉の奥から空気を噴射させるような音を漏らしながら、自分を捕らえる風から逃れようと暴れもがく。

「ぐうッ!こ、この化け物蛇、やっぱでけぇだけあってすげぇパワーだ!

10メートル級の大蛇、その身の重さは300キロか400キロか、その超重量の巨体が、鞭のように体を振るわせて風を破ろうとしてくる。
その衝撃に耐えれば耐えるだけの魔力を使う事になり、フィルはトルネードバーストを維持するだけでも、相当な魔力を消耗させられていた。

長引くと不利だ!

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーッツ!」

一気に魔力を放出し風の渦を倍にも膨らませる!

「!?」

己を捕らえる風が突然大きくなった。体が強く締め上げられ、大蛇スターンが驚いたように目をギョツとさせるが、身じろぎ一つ許さない程の締め上げに、なすすべはなかった。

これに懸ける!

腕を上げてトルネードバーストを操る!
渾身の風の渦は高く、樹々よりもはるかに高く、高く空へと大蛇を持ち上げる。そして大蛇の姿が目視できない程になった。


「これで・・・どうだァァァァァァァーーーーーーーーーッツ!」


高々と上空に持ち上がった大蛇スターン。
フィルは碧い目をギラリと光らせると、頭上に上げていた両腕を振り下ろした!

その瞬間、大蛇スターンの体が地上へと激しく引き寄せられ、同時にスターンを締め上げていた風の圧力がフッと消えた。

全長10メートル、体重300~400キロと見られる超巨体が、上空から一直線に落下してくる!


「エミリー!ロゼ!俺の後ろで頭を低くしろ!急げ!」

正面を向いたまま両手を前に出して声を張り上げる!
エミリーの魔力が尽きた今、これから起こる衝撃に備えるのは自分の役目だ。

エミリーとロゼがフィルの背中に隠れるように入り、頭を抱えるようにしてしゃがみ込むと、残りの魔力で自分達三人を覆い囲むように風の盾を作り出した。


「来るぞッツ!」

そう声を上げた一瞬の後、目の前でまるで隕石でも落ちたのかと思う程の轟音が鳴り響た。
山全体が揺れ動く程の衝撃に襲われ、立っている事さえできず、土煙を巻き上げる爆風と地揺れでフィル達は体を投げ飛ばされた。





「フッ!」

短く息を吐き出して地面を蹴る。一瞬にして黄色い大蛇トランの懐に入り込むと、闘気を纏わせた鉄の剣をトランの胴体に突き刺した!

「フシャァァァァァーーーーーーーーッツ!」

強烈な痛みにトランが大口を開けて空気を噴射させる。
痛みの元凶であるレイマートに向かって、尻尾を振り上げ叩きつける!大蛇の一撃は地面が砕ける程に重く強烈なものだったが、すでにレイマートはトランの視界から消えていた。

忽然と消えた標的に、トランが首を動かし辺りを見回す。


この時レイマートは、トランの尻尾を躱して樹の陰に飛び込んでいた。



黄色い大蛇トランは、首も半分に斬られ、顔の右半分はレイマートによって蹴り潰されている。
ならばその死角となっている右側から、次の一撃で仕留めて見せる。
いつまでもこの一匹に時間をかけてはいられない。まだ蛇は二匹もいるんだ。

黄色い蛇の右の死角から、レイマートが姿を現した!


蛇はまだ自分に気づいていない!この一太刀で首を斬り落とす!


レイマートは一蹴りで大蛇に迫ると、闘気を纏った剣を振りかぶった!




全ての蛇が備えているわけではないが、ピット器官という赤外線感知器官を持つ蛇がいる。
目と鼻孔の間に窪みがあり、それがセンサーとなって得物を追い詰め捕らえる。
種類にもよるが、蛇は視力が弱いものが多い。だがこのピット器官を持つ蛇は、暗闇でも得物を見失う事は無い。

アラタの生まれ育った情報溢れる現代日本であれば、蛇に興味が無くても、蛇が匂いや熱で得物を追跡するという事は、どこかで耳にした事があるだろう。

だがこの世界では違う。
専門家ならばともかく、目があるのだから、目で得物を追っていると考える事が普通である。
レイマートがピット器官など知る由も無かった。


そしてこの黄色い大蛇トランは、ピット器官を持っていた。


グルリと首を回すと、残った左目がレイマートを正面から捉えた。


「なにっ!?」


完全に自分の動きが読まれていた事に驚愕したが、振りかぶった剣を止める事はできなかった。
レイマートの剣がトランの頭に振り下ろされたその時、トランの頭がレイマートの胴体にぶち当たった。

「ごはァッツ!」

闘気の剣が自分を斬る事ができると、身を持って味わっておきながら、その剣に向かって頭から突っ込んで来るとは想定しなかった。
だが、僅かにふれた剣がトランの頭の皮を斬ったが、大蛇の頭突きをまともに受けたレイマートの方が、はるかにダメージは大きかった。
結果として頭から向かって来た大蛇トランの判断は、この局面で詰めの一手となった。

頭突きで弾き飛ばされたレイマートは、高々と空中に打ち上げられると、十数メートルも遠くに背中から落ちた。

闇の蛇の一撃は息が止まる程の衝撃だった。闘気が蛇の闇の瘴気を斬り裂くように、蛇が発している闇の瘴気もまた、レイマートの闘気を打ち破って来るのだ。

「ぐはッ・・・あ、ぐぅ・・・!」

倒れたまま苦痛に顔を歪めるレイマートを見つめ、トランは先が二つに割れた舌をチロチロと伸ばしながら、ニタリと笑った。


「ふははははははははは!どうやら勝負あったな!まぁよく頑張ったと褒めておこう!だが俺の息子達にかなうはずがないだろう!さぁトラン待たせたな、食事の時間だ。ヤツを生きたまま呑み込んでやれ!」

蛇使いバドゥ・バックの指示に、黄色い大蛇トランは鎌首をもたげて、ズルリと胴体を動かした。

自分を食べようと蛇が迫って来る。
だがレイマートの受けたダメージは大きかった。気力でなんとか上半身を起こすが、足に力が入らず立つ事ができない。そして今の頭突きでレイマートは剣を落とし丸腰だった。

大蛇がレイマートの目の前まで来た。
そしてその手に自分を傷つける剣が握られていない事を見て、トランの残った左目がまるで嗤っているかのように細められた。


「・・・化け物蛇が、嗤ってんじゃねぇよ」

「フシャアァァァーーーー」

レイマートが睨みつけるが、トランは獲物をやっと食べれる喜びを表すように、喉から空気を噴射させた。

そしてズルリと尻尾を伸ばすと、レイマートの腹に尻尾を巻き付け、あっという間に首から下をグルグルと巻いてしまった。

「うぐあぁッ!」

万力で締め上げられるような強烈な圧迫感に、思わず苦悶の表情が浮かび出る。

自分を傷つけた獲物が、今は自分に閉められ苦しんでいる。
トランはそんなレイマートを、頭の上からニタリ嗤いと眺めていた。

「があぁぁぁぁーーーッツ!」


そして更に強く締め上げ、もう一度レイマートが苦痛の声を上げると、トランは口が裂けそうな程大きく開けて、ゆっくりとレイマートの頭へと近づいた。
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