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理太郎

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1017 エクトールの誓い

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「レ、レイマート様!」

「蛇野郎がァァァァァーーーーーッツ!」

レイマートは闘気の剣をトランの喉に突き刺したまま、両腕を真上に振り抜いた!
血しぶきが上がり、トランの首が半分程斬り裂かれる!

パックリと大きく二つに裂けた首、力なく垂れ下がった頭に、レイマートは闘気を込めた右足を叩き込んだ!
トランの顔面の右側に足がめり込むと、赤い目玉が飛び出しそうなくらい顔面がひしゃげる。

「オラァッツ!」

気合とともにレイマートは右足を蹴り抜いた!
千切れそうなくらい激しく頭を蹴り飛ばされ、トランは地響きを鳴らしながらその巨体を沈ませた。


「・・・す、すごい・・・」

自分を護るように前に立ったレイマートの背中に、エクトールは意識せずに感嘆の声をもらした。

自分の剣でも大蛇の首を断つ事は可能だろう。だがそれは全身全霊の一太刀での話しだ。
レイマートはまだ余力を残している。そしてこれだけ大きな蛇の顔を蹴り抜く思い切りの良さ。

レイマートは戦闘能力もさる事ながら、対応力も違っていた。
シルバー騎士序列二位のエクトールは、いずれはゴールド騎士も目指せるはずだと自信を持っていた。
だが現実を見せつけられた。
ゴールド騎士とシルバー騎士の間には、圧倒的に高い壁がある。
乗り越えるためには一皮も二皮も剥けなければならない。


「・・・エクトール・・・まだ立てないか?」

正面を向いたままレイマートが声をかける。

「い、いえ!・・・だ、大丈夫、です・・・」

まだ痺れは残っているが、剣を地面に突き刺し、腕に重心をかけて立ち上がる。
あと一分・・・いや、三十秒だけでも休めれば、なんとか戦闘に復帰はできる。

この黄色い大蛇を倒したのだから、残りは黒蛇だけだ。
レイマートと二人で力を合わせれば勝てる!

一時は絶望的な状況に追い込まれたが、ここで勝機が見えた・・・・・そう思った。


「よし、だったらお前はすぐにここを離れて、クインズベリーに戻れ」

「・・・え?」

突然の予期せぬ指示に、エクトールは自分が何を言わたのか理解できなかった。
今なにを言われたんだ?クインズベリーに戻れ?
これからという時に、一体何を言っているんだ?


「チッ、想像以上の化け物だぜ。帝国はなんてもの作りやがったんだ?・・・おい、エクトール!なにしてやがる!さっさと行け!」

いつまでもこの場を離れないエクトールに向かって、レイマートは前を向いたまま声を荒げた。

「し、しかし!これからという時にいったい・・・・・なっ!?」

明確な理由も言われないままの指示に、エクトールは足を動かす事ができなかった。
だが怒鳴りつけられた事で、そこまでしていったい何を見ているんだと、レイマートの視線の先を追って、エクトールは目を見開いた。


「フハハハハハハ!私の可愛いトランがその程度で殺れると思ったかね?私の息子はここからが強いんだよ!」

バドゥ・バックが高笑いを上げると、その声に答えるように、すでに息絶えたと思われた大蛇トランがゆっくりと起き上がった。

首を半分も斬り裂かれ、顔も右半分が潰されている。どう見ても死んでいるとしか思えない。
だが黄色い大蛇トランは、半分に裂けてダラリと下がった頭を持ち上げると、血をボタボタと流しながらグルリと首を向けて、残った左目でレイマートを捉えた。

「バ、バカな!ここまで斬られて生きているのかッ!?」

驚愕の声を上げるエクトールに、バドゥ・バックはニヤリと笑って指先を突きつけた。

「どうだ驚いたか!これが闇の蛇の生命力だ!貴様らに勝ち目はないぞ!」

バドゥ・バックの顔には、自分の蛇達が負ける事などありえない、その絶対の自信が宿って見えた。


「エクトール・・・分かったか?こいつはちょっとまずいかもしれねぇ。お前はさっさと国に戻って、この事を報告するんだ」

「し、しかし・・・いえ、分かりました」

エクトールは剣を支えに立ち上がった。足の痺れは大分取れている。
残って戦おうとも思ったが、瞬時に状況を分析してレイマートの指示に従うしかないと悟った。

自分達が受けた任務は偵察である。
帝国には闇の力を持った10メートル級の蛇がいる。しかも一匹だけではないのだ。二匹目が現れたという事は、それ以上いる事は十分考えられる。

ならば偵察隊として果たさなければならない使命は、この情報を国に持ち帰る事である。
万一にもここで全滅という事態だけは避けなければならない。
そして今ここでその使命を果たせる者は誰か?魔法使いの三人に、単独でこの場を抜け出せる体力はない。
そしてその三人を生かしつつ、この場で大蛇を食い止める事ができるのは、レイマートしかいない。

「レイマート様!ご武運を!」

エクトールはレイマートに背を向けて走り出した。

黒蛇サローンと黄色い蛇トランの二匹は、レイマートが睨みを利かせている。
だから後ろは気にしなくていい。レイマートが蛇を押さえてくれるはずだ。

そう信じて走り出したその時、自分を追いかけるように蛇使いバドゥ・バックの声が飛んで来た。

「ふははははははは!腰抜けが!ここから逃げられると本気で思ったか!」


「なにッ!?」


バドゥ・バックの声にエクトールが反応し、顔半分振り返ったその時、突然樹々の間をかいくぐって、茶褐色の巨大な蛇が立ち塞がるように正面に現れた!

「ッ!?」

この茶褐色の蛇も、他二匹の大蛇に見劣りしない大きさだった。

慌てて足を止めて顔を上げると、自分を見下ろしている三体目の巨大蛇と目があった。
赤茶色の円の中に、もう一つ黒く丸い円がある。先が二つに裂けた薄桃色の舌を出して、じっと自分を見つめている。何を考えているのか一切読み取れない不気味な目に、エクトールの体にゾッと寒気が走った。


蛇とは・・・ここまで気味の悪い存在だったのか?


10メートルもある巨大さだからかもしれない。今までは1メートル程度の蛇しか見た事がなかったからかもしれない。だが、この蛇という生物と目を合わせていると、自分が食われる側、獲物でしかないという錯覚すら感じてしまいそうになる。

エクトールはたった今まで戦闘でかいていた汗が、急速に冷えて事に身を震わせた。

「ふははははははは!逃げられると思ったか!?残念!この山には私の可愛い息子達が沢山いるのだよ!その子はスターンと言ってね、兄弟の中で一番得物を追い詰めるのが上手いんだ。スターンからは絶対に逃げられないよ!」

背後からバドゥ・バックの高笑いが聞こえてくるが、エクトールにはそれに反応している余裕はなかった、
なぜなら今自分と目を合わせているこの蛇は、一瞬でも隙を見せれば襲い掛かってくると肌で感じ取っていたからだ。目を切らすわけにはいかなかった。

そしてこの茶褐色の大蛇スターンも、体から闇の瘴気を滲ませている。
先へ行くにはこの蛇を何とかしなければならない。さっきの二匹を見る限り、この蛇のスピードも相当なものだと予想できる。足で逃げ切るのは難しい。つまり戦うしかない。


「・・・やるしかないか」

痺れはぬけたが、腹に受けたダメージは残っている。戦えないわけではないが、この大蛇を相手にするには全力を尽くさなければならない。
勝ったとして、下山できるだけの余力は残るだろうか・・・・・

それでもやるしかない。

エクトールが覚悟を決め、目の前の茶褐色の大蛇に剣を構えたその時!


「エクトーーーーーーール!上に飛べェェェェェーーーーーーーッツ!」


背後からの投げつけられた声。エクトールは瞬時にその声の主の指示に従い上へ飛んだ。

声の主は振り返らずとも分かる。だから前を向いたまま信じて飛んだ。
なぜなら共に切磋琢磨してきた仲間だからだ!

エクトールが飛んだ直後、大蛇に負けないくらい巨大な氷の竜が、一瞬前までエクトールの立っていた場所を凄まじい勢いで通過し、茶褐色の大蛇スターンの喉元に噛みついた!


「これは竜氷縛!・・・フィル!」

大蛇の頭を超えるくらい高く飛び上がったエクトールは、空中で振り返って術者の名を叫んだ。


「エクトール!ここは俺らにまかせてお前は行けぇーーーーーッ!」


地上では黒魔法使いのフィルが、空中のエクトールに向かってニッと笑って見せた。
その隣にいる青魔法使いのエミリーも、白魔法使いのロゼも、エクトールに笑顔を向けている。


大丈夫、何も心配はいらない。

そう、エクトールを安心させるように笑って・・・・・


「ッ・・・ぜ、絶対に戻ってくる!だから生き残れよ!死んだら許さねぇからな!」


空中で前回りに体を回転させて、茶褐色の大蛇の頭を踏みつける!
そのまま強く蹴りつけると、エクトールは大蛇を飛び越えて地面に着地した。

そして振り返らずに山道を駆け抜けた。


みんな・・・絶対に、絶対に死ぬんじゃねぇぞ!


戻りたい、共に戦いたい、だが自分には果たさねばならない任務がある。
仲間が作った道を無駄にはできない!

血が滲む程強く唇を噛み締めて、エクトールは走った。
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