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1015 黒い煙
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足を踏ん張り精神を集中させて、全身から闘気を放出させる!
「ぐぅッ!」
大蛇の口から吐き出された黒い煙は、圧縮した空気を一気に吐き出したような凄まじい勢いで、俺達の体にぶち当たって来た。
俺の全身から放出している眩い光は闘気、この力は大蛇の闇の瘴気にも通用する力だが、この黒い煙は闘気でさえかき消されそうになる程の威力だった。
まるで雨風が吹きすさぶ台風の中を、体一つで外に出ているような気分だ。
周囲の樹々もヘシ折れそうになるくらい大きく曲がり、枝も葉も吹き飛ばされそうになっている。
俺の闘気はなんとか大蛇の闇の煙に耐えているが、一瞬たりとも気を抜くことができない。
全神経を防御に集中させる事で、なんとか踏みとどまれている。
反撃の体勢を作る事などとてもできない。
大蛇から吐き出される黒い煙が終わるまで耐え凌ぐしかない。
だが、ゴールド騎士の俺でこの状態だ。
エクトールの闘気は間に合ったか?魔法騎士の三人はどうだ?結界で防げたか?
この煙では分からない・・・・・だが信じるしかない。
俺が必ず突破口を作る、それまでなんとか耐えてくれ。
「はぁ・・・はぁ・・・ふ、二人とも、大丈夫?」
レイマートとエクトールの後ろでは、エミリー・マーシルが両手を前に出して魔力を放出し、青く輝く結界で自分とフィルとロゼの三人を黒い煙から護っていた。
「あ、ああ、俺達は大丈夫だ・・・危なかった、助かったぜ」
「ええ、エミリーのおかげよ、ありがとう」
黒魔法使いのフィル、白魔法使いのロゼは、間一髪で助かった事に安堵していた。
エミリーの結界があと一瞬でも遅ければ、大蛇の吐いた黒い煙に呑まれていただろう。
それほど際どいタイミングだった。
「よ、良かったわ・・・うっ!」
「お、おい!どうした?大丈夫かよエミリー!?」
結界を張っているエミリーは、仲間の無事に少しだけ笑顔を見せたが、すぐに苦し気に呻き膝を着いた。
息は浅く切れ切れで、薄緑色の髪が額に張り付く程の汗を流している。
「ご、ごめんなさい・・・はぁ、はぁ・・・この結界は、長くは、もたないかも・・・」
「なっ!どういう事だ!?いったい、どうしたんだエミリー?お前の魔力ならまだ・・・」
結界は維持しているだけでも魔力を消費していく。
だがエミリーはたった今結界を張ったばかりである。そしてシルバー騎士の序列九位になるだけの力を持ったエミリーの魔力は、かなり高い水準にある。
そのエミリーがこの短い時間で結界を維持する事が困難なほど、魔力を消耗させられたというのだろうか?フィルの戸惑いはしかたのないものだった。
どこか具合が悪いのか?そう心配してフィルがエミリーの体を支えようとすると、エミリーは右手の人差し指を前方に向けた。
「・・・あれを、見て・・・」
「え?・・・な、なんだ、あれ?」
エミリーの指先を追って、顔を向けたその先で見たものに、フィルは己の目を疑った。
「う、嘘だろ・・・なんだよ、あれ・・・」
「・・・この黒い煙が、結界を侵食してるのね」
茫然とするフィルの隣に立ったロゼが、フィルの言葉を引き取るように答えた。
青く輝く結界の外では、大蛇の吐き出した黒い煙が辺り一体を埋め尽くしている。
そしてその黒い煙はあろう事か、結界を蝕み浸食しているのだ。
まるで虫食いにあった繊維のように、上に下にと結界のあちこちが黒ずんで、今にもボロボロと崩れそうになっている。
「じょ、冗談だろ!?こんな事・・・・・」
「フィル、落ち着いて。なるほど、あの煙が結界を蝕んでいるから、エミリーは急激に魔力を消耗しているのね」
ロゼは赤茶色のフワフワとした髪を指先で巻きながら、冷静に自分達の置かれている状況を分析した。
「焦っても何も解決しないわ。今のところエミリーが頑張っているから結界は維持できている。だったらエミリーの負担を少しでも減らしましょう」
そう言ってエミリーの隣に腰を下ろしたロゼは、ローブの内ポケットからハンカチを取り出し、エミリーの額に当てた。
「はぁ・・・はぁ・・・ロゼ、ありが、とう・・・」
「エミリー、あなたにだけ頑張らせてごめんなさい。でも、私もフィルもこの状況では何もできないの。これ飲んで」
ロゼは腰に巻いた革のポーチから、小さな鉄の小瓶を取り出した。
「これは?」
「魔力回復促進薬よ。この前レイジェスで買ったの。あそこの評判良いから、効き目あると思うよ。さ、飲んで」
即効性は無い。あくまで自然回復の効果を早めるだけのものである。
それでも消耗する魔力を、幾分でも抑える効果は期待できるだろう。
エミリーが小瓶を受け取って飲みこむのを見ると、ロゼは自分の隣に腰を下ろしたフィルに顔を向けた。
「フィル、エミリーのケアは私がするわ。あなたは竜氷縛の準備をして」
「竜氷縛?・・・分かった。ロゼの事だ、考えがあるんだろ?タイミングは任せるぞ」
冷静なロゼの行動を見て落ち着きを取り戻したフィルは、言われるがままに氷の魔力を集中し高めた。
結界内から外へ魔法を撃つ事はできない。
そのためフィルはロゼがなぜこんな指示を出してくるのか、その真意は分からなかった。
だがロゼはいつも沈着冷静で、この状況で迷わず行動を起こしている。フィルがロゼを信じる事に迷いはなかった。
「エミリー、よく聞いて。レイマート様とエクトールがきっとチャンスを作ってくれるわ。だから苦しいと思うけど、もう少しだけ耐えて」
「はぁ・・・はぁ・・・ええ、なんとか、頑張ってみるわ」
エミリーがどれだけ修復しても、黒い煙は次々に結界を蝕んでいく。
この煙がある限り、いずれはエミリーの魔力が尽きてしまう。レイマートとエクトールが現状を打破できなければ、三人は黒い煙に呑まれてしまうだろう。
「大丈夫、きっと大丈夫だから、私達は信じて待つのよ」
ロゼはエミリーが少しでも楽になれるように、背中を支え、額や首を流れる汗を拭い、声をかけ続けた。
黒い煙に覆われていて状況の確認はできないが、あの大蛇と対峙している二人なら、きっとなんとかしてくれるはずだ。
ロゼのブラウンの瞳はしっかりと前を見て、きっとくるであろうチャンスに備えた。
「ぐぅッ!」
大蛇の口から吐き出された黒い煙は、圧縮した空気を一気に吐き出したような凄まじい勢いで、俺達の体にぶち当たって来た。
俺の全身から放出している眩い光は闘気、この力は大蛇の闇の瘴気にも通用する力だが、この黒い煙は闘気でさえかき消されそうになる程の威力だった。
まるで雨風が吹きすさぶ台風の中を、体一つで外に出ているような気分だ。
周囲の樹々もヘシ折れそうになるくらい大きく曲がり、枝も葉も吹き飛ばされそうになっている。
俺の闘気はなんとか大蛇の闇の煙に耐えているが、一瞬たりとも気を抜くことができない。
全神経を防御に集中させる事で、なんとか踏みとどまれている。
反撃の体勢を作る事などとてもできない。
大蛇から吐き出される黒い煙が終わるまで耐え凌ぐしかない。
だが、ゴールド騎士の俺でこの状態だ。
エクトールの闘気は間に合ったか?魔法騎士の三人はどうだ?結界で防げたか?
この煙では分からない・・・・・だが信じるしかない。
俺が必ず突破口を作る、それまでなんとか耐えてくれ。
「はぁ・・・はぁ・・・ふ、二人とも、大丈夫?」
レイマートとエクトールの後ろでは、エミリー・マーシルが両手を前に出して魔力を放出し、青く輝く結界で自分とフィルとロゼの三人を黒い煙から護っていた。
「あ、ああ、俺達は大丈夫だ・・・危なかった、助かったぜ」
「ええ、エミリーのおかげよ、ありがとう」
黒魔法使いのフィル、白魔法使いのロゼは、間一髪で助かった事に安堵していた。
エミリーの結界があと一瞬でも遅ければ、大蛇の吐いた黒い煙に呑まれていただろう。
それほど際どいタイミングだった。
「よ、良かったわ・・・うっ!」
「お、おい!どうした?大丈夫かよエミリー!?」
結界を張っているエミリーは、仲間の無事に少しだけ笑顔を見せたが、すぐに苦し気に呻き膝を着いた。
息は浅く切れ切れで、薄緑色の髪が額に張り付く程の汗を流している。
「ご、ごめんなさい・・・はぁ、はぁ・・・この結界は、長くは、もたないかも・・・」
「なっ!どういう事だ!?いったい、どうしたんだエミリー?お前の魔力ならまだ・・・」
結界は維持しているだけでも魔力を消費していく。
だがエミリーはたった今結界を張ったばかりである。そしてシルバー騎士の序列九位になるだけの力を持ったエミリーの魔力は、かなり高い水準にある。
そのエミリーがこの短い時間で結界を維持する事が困難なほど、魔力を消耗させられたというのだろうか?フィルの戸惑いはしかたのないものだった。
どこか具合が悪いのか?そう心配してフィルがエミリーの体を支えようとすると、エミリーは右手の人差し指を前方に向けた。
「・・・あれを、見て・・・」
「え?・・・な、なんだ、あれ?」
エミリーの指先を追って、顔を向けたその先で見たものに、フィルは己の目を疑った。
「う、嘘だろ・・・なんだよ、あれ・・・」
「・・・この黒い煙が、結界を侵食してるのね」
茫然とするフィルの隣に立ったロゼが、フィルの言葉を引き取るように答えた。
青く輝く結界の外では、大蛇の吐き出した黒い煙が辺り一体を埋め尽くしている。
そしてその黒い煙はあろう事か、結界を蝕み浸食しているのだ。
まるで虫食いにあった繊維のように、上に下にと結界のあちこちが黒ずんで、今にもボロボロと崩れそうになっている。
「じょ、冗談だろ!?こんな事・・・・・」
「フィル、落ち着いて。なるほど、あの煙が結界を蝕んでいるから、エミリーは急激に魔力を消耗しているのね」
ロゼは赤茶色のフワフワとした髪を指先で巻きながら、冷静に自分達の置かれている状況を分析した。
「焦っても何も解決しないわ。今のところエミリーが頑張っているから結界は維持できている。だったらエミリーの負担を少しでも減らしましょう」
そう言ってエミリーの隣に腰を下ろしたロゼは、ローブの内ポケットからハンカチを取り出し、エミリーの額に当てた。
「はぁ・・・はぁ・・・ロゼ、ありが、とう・・・」
「エミリー、あなたにだけ頑張らせてごめんなさい。でも、私もフィルもこの状況では何もできないの。これ飲んで」
ロゼは腰に巻いた革のポーチから、小さな鉄の小瓶を取り出した。
「これは?」
「魔力回復促進薬よ。この前レイジェスで買ったの。あそこの評判良いから、効き目あると思うよ。さ、飲んで」
即効性は無い。あくまで自然回復の効果を早めるだけのものである。
それでも消耗する魔力を、幾分でも抑える効果は期待できるだろう。
エミリーが小瓶を受け取って飲みこむのを見ると、ロゼは自分の隣に腰を下ろしたフィルに顔を向けた。
「フィル、エミリーのケアは私がするわ。あなたは竜氷縛の準備をして」
「竜氷縛?・・・分かった。ロゼの事だ、考えがあるんだろ?タイミングは任せるぞ」
冷静なロゼの行動を見て落ち着きを取り戻したフィルは、言われるがままに氷の魔力を集中し高めた。
結界内から外へ魔法を撃つ事はできない。
そのためフィルはロゼがなぜこんな指示を出してくるのか、その真意は分からなかった。
だがロゼはいつも沈着冷静で、この状況で迷わず行動を起こしている。フィルがロゼを信じる事に迷いはなかった。
「エミリー、よく聞いて。レイマート様とエクトールがきっとチャンスを作ってくれるわ。だから苦しいと思うけど、もう少しだけ耐えて」
「はぁ・・・はぁ・・・ええ、なんとか、頑張ってみるわ」
エミリーがどれだけ修復しても、黒い煙は次々に結界を蝕んでいく。
この煙がある限り、いずれはエミリーの魔力が尽きてしまう。レイマートとエクトールが現状を打破できなければ、三人は黒い煙に呑まれてしまうだろう。
「大丈夫、きっと大丈夫だから、私達は信じて待つのよ」
ロゼはエミリーが少しでも楽になれるように、背中を支え、額や首を流れる汗を拭い、声をかけ続けた。
黒い煙に覆われていて状況の確認はできないが、あの大蛇と対峙している二人なら、きっとなんとかしてくれるはずだ。
ロゼのブラウンの瞳はしっかりと前を見て、きっとくるであろうチャンスに備えた。
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