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理太郎

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1014 騎士の闘気

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速いッ!

大蛇とは十分に距離を取っていた。
だが大蛇の腹が動いたと思った次の瞬間には、俺との距離をゼロに詰めて来たのだ。
視界いっぱいに広がった蛇の真っ黒な頭が、俺の顔面をぶっ潰す寸前だった。

「くッ!」

反射的に剣を立てて、大蛇の頭突きを受け止める!
剣の腹ではなく刃を向けたのは、蛇の突進力を利用し真っ二つに斬り裂くため!

だが・・・

「なにィッ!?」

受けた瞬間、予想だにしない感触に驚きの声が漏れた。
刃で受けたのだ、当然蛇の肉を斬り裂くものだと確信していた。それが当然であり、それ以外は考えられない。

だが剣を握る俺の手に伝わって来たものは、鉄の塊でもぶつけられたかのような、硬く重い衝撃だった。

「ぐぁッ!」

全く踏ん張る事ができなかった。

これまで数えきれない程の剣を受けて来た、俺より一回りも二回りも体の大きい男の剣だって受けてきた。だがこの大蛇の突進は、そんなものまるで比較にならない。

人間の力で受けようなんて考えられない程の圧倒的な力。
突進を止めるどころか、満足に受けきる事さえできなかった俺は、あっけなく空中に飛ばされてしまった。


お、重い!そして異常な程硬い!なんだこいつは!?とても剣で斬れるものじゃない!これが闇の力か!?

「レイマート様!」

エクトールが俺に顔を向けて声を上げる。

チッ、まったく情けねぇ姿を見せちまったぜ。だがよ、確かにすげぇ突進だったが、それだけでダメージを受けるようなヤワな鍛え方はしてねぇつもりだ!

俺は返事の代わりに空中で体を縦に回し、片足で地面に着地をして見せた。

俺の身のこなしを見て無事だと確認できると、エクトールは再び蛇に向き直った。

剣で斬れない程の異常な硬さには驚かされた。空中にも吹き飛ばされた。だがそれだけだ。
戦闘を続行する事にはなんの支障もない。だがこの大蛇には、ただ剣で斬りつけるだけでは通用しない事は分かった。

鋼鉄の如き皮膚の正体は、おそらく大蛇の体から滲みでている闇の瘴気だ。
あの瘴気をも斬り裂く力が無ければ、大蛇に剣は届かない。

この蛇を相手に俺達ができる戦法はただ一つ。

「エクトール!この蛇の硬さは異常だ!普通にやっても斬る事はできない!闘気を使え!」

「了解です!」

掛け声と同時に俺とエクトールの体から、光り輝くエネルギーが放出された。
これは闇に対抗できる力、闘気!

俺を含めたゴールド騎士の三人と、シルバー騎士の数名しか習得できていないが、この場にその一人、エクトールを連れて来ていた事は幸いだった。


「な、なんだ、その光は・・・?」

大蛇の後ろで、バドゥ・バックが眉を寄せて怪訝な顔をして見せる。
見た事の無い力だろう。だがこの力が大蛇にとって脅威になると、瞬間的に悟ったようだ。
声に微かな戸惑いが見える。

「へっ、これは闘気、闇を斬り裂く力だッ!」

大地を強く蹴って、俺とエクトールは大蛇に飛び掛かった!




闘気とは精神力。
誰もが己の心に持っている力である。

ウィッカー・バリオスは光魔法の研究の過程でこの力に気付き、自らも闘気を使いこなす事に成功した。
この力は闇に対抗する力として有効ではあった。だが闘気はあくまで人の精神力を源とする力である。

真なる闇にはやはり光でなければ勝てない。
そう判断したウィッカーは、自身が闘気を使う事はなかった。

だがクインズベリーに根を下ろしたウィッカーは、この時代でもブロートン帝国が侵略戦争をしかけている事に強い懸念を持った。
そして帝国が闇の力さえも取り込み始めた事で、闇に対抗できる力として、クインズベリー騎士団に闘気を伝授する事を決めた。

おそらく使いこなせる者は、騎士団の中でも一握り、総数の1/100以下だろう。
だがそれでも自国に危機が迫った時、対抗できる力は持っておくべきだ。そう考えての事だった。


そして今、ウィッカーの伝授した闘気は、危機に瀕していた騎士達に最高の力を与えていた!



「オォォォォォォォォォーーーーーーーーッツ!」

蛇の頭の上まで飛び上がったレイマートは、雄たけびを上げながら大蛇の頭に剣を振り下ろした!

両手で握り締めた剣は眩い程の闘気を纏っており、闇の瘴気を斬り裂いて刃が大蛇の黒い鱗に食い込んだ!
最初の硬さが嘘のように刃は肉を斬り裂き、裂けた肉からは真っ赤な血が飛び散った。
斬られた痛みに大蛇は大きく頭を振り乱し、尻尾を地面に叩きつけて暴れ出した。

「チッ、浅い!これだけでけぇと真っ二つにはできねぇか」

闘気で強化した事により、レイマートの剣は大蛇に届くようになった。
だがレイマートの持つ剣は、あくまで対人用である。
10メートル級の蛇の頭を二つに斬り裂く事は想定されていない。それゆえに長さが足りないのである。

「レイマート様!ならばこいつが絶命するまで斬り続ければいいのです!こんなふうに!」

蛇の脇に着地したレイマートの横を、エクトールが駆け抜ける!
手にした鉄の剣に闘気を纏わせ、大蛇に向かって飛び掛かった!

右脇に構えた鉄の剣を、一気に左へ横一線に振り抜く!
闇の瘴気ごと大蛇の胴体が斬り裂かれると、鮮血が飛び散り地面を赤く染める。

左に振り抜いたまま手首を返すと、今度は右へ腰を捻り、剣を突き刺すように振り上げた!
切っ先が蛇の腹に突き刺さると、そのまま一気に根本深くまで刺し込み、大きく深く抉り取る!


「セァァァァァァァーーーーーーーッツ!」

気合を声に出すと、肩と腰に力を入れて、突き上げた剣を再び降り下ろす!
縦一線に蛇の体が斬り裂かれ、血しぶきが上がる。

手首を返し、右一線に斬りつける。
腰を左に捻り、上半身に勢いを付けて斬りつける!

「まだまだまだまだァァァァァーーーーーーーーッツ!」

エクトールは休む事なく大蛇を斬り続けた。
この大蛇に一撃で致命傷を与えられる手段は持っていない。だが闘気を纏わせた剣ならば、ダメージを与える事はできる。
ならば休まず斬り続ければいい。一撃が不可能ならば十の斬撃を、十でも駄目ならば百だ。

「どんなにでかくても血を流す以上、生体活動に限界はあるって事だ!だったらお前が死ぬまで斬り続けてやる!」

闘気を纏い光り輝く剣が、大蛇の体を容赦なく切り刻んでいく!

蛇には発声器官が無いため、鳴き声を上げる事はできない。
だから闇の大蛇サローンが、激痛のあまり裂けんばかりに口を大きく開けたとしても、悲鳴の一つさえ上げる事はできない。ただ苦し気に息を吐き出す音だけが、鳴き声のように聞こえるだけだった。

勝てる!このまま押し切れる!

エクトールがそう確信した時だった。

「サローーーーーーーーーン!撃てぇぇぇぇぇーーーーーーーッツ!」

大蛇の後ろで戦いを見ていた、蛇使いバドゥ・バックが叫んだ。



バドゥ・バックの声に反応するように、大蛇の漆黒の目がギラリと光ると、突如その腹が倍ほどにも膨れ上がった。体中から滲み出ていた闇の瘴気が急激に減少し、瞬く間に消えていく。

しかし闇の圧まで無くなったわけではない。その黒いウロコに覆われた体内からは、闇を外に出していた時以上の圧力が感じられ、エクトールは攻撃の手を止め、思わず後ろに飛び退いた。

「な、なんだ!?」

「ッ!まずい!エクトール!闘気を放出して身を護れぇぇぇーーーーーーッツ!」


レイマートが声を張り上げた次の瞬間、大蛇の人間さえも丸呑みにできそうなくらい、大きく開かれた口から真っ黒な煙が吐き出された。
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