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1011 洞窟で待つ者達
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「・・・・・愛想が悪い。話し方が変。取り柄が無い」
アラタの方には目を向けず、ユーリは抑揚の無い声で話し出した。
「えっ?・・・・・」
突然の聞こえの悪い言葉に、アラタの口から驚きの言葉がもれた。
だがユーリが自分の内面を話そうとしてくれている事に気付き、アラタは口を閉じた。
「アタシは男に好かれるような可愛い振る舞いはできない。思った事もハッキリ言うし、変わった話し方と言われればそうかもしれない。それにアタシは・・・・・何もできなかった」
そう話しながらユーリは目を細める。そのダークブラウンの瞳は、今この瞬間を見ていない。
少し硬い声からは、あまり思い出しくない心の内が伝わって来る。
「・・・ユーリ」
「店長はね、そんなアタシに言ってくれたの。ユーリはユーリのままでいいって。アタシが作ってる魔力回復促進薬だって、店長が教えてくれた。覚えが良い、上手だって、いっぱい褒めてくれた。レイジェスにアタシの居場所を作ってくれた。今のアタシがいるのは店長のおかげ・・・・・」
瞳を閉じて、ユーリは少しだけ微笑んだ。
かつて経験した苦しい思いを乗り越えて今を生きる。その表情からは前を向いて生きる強さ、そして美しさが見えた。
「さぁ、休憩はおしまい。アラタ、行くよ」
立ち上がって自分に笑いかけるユーリ。
「ああ・・・行くか、ユーリ」
脅し文句を言われたり、脛を蹴られたり、アラタはユーリを少し苦手に思っていた。
「遅れたら俺がおんぶしてやるからな」
「む、なんか調子に乗ってる?アバラ折るよ?」
だけど今、初めてユーリの心の内に触れて、これまで持っていた苦手意識が嘘のように消えた。
笑い合いながら言葉を交わす二人の姿は、仲の良い友人そのものだった。
「全員準備はいいな?次の休憩は正午の予定だが、途中で具合が悪くなれば、すぐに申し出てくれ。では行くぞ」
アルベルトは一人一人の顔を見て状態を確認すると、再び先頭を走り出した。
「フッ、慣れたものだな?良い仕切りだ」
「なんだ?お前が仕切りたかったか?」
一歩後ろを走るレイチェルが発した言葉に、アルベルトはチラリと目を向けて言葉を返した。
「そういう意味ではない。実際お前が適任だと思うさ。小まめに体調に目を向けるのは、隊を率いる長として素晴らしい。この調子で頼むよ」
「へっ、お前にそんな事言われると調子が狂うな。まぁ、任せろ。全員無事に帰してみせるからよ」
「期待しているぞ」
僅かに視線を交わせる。両者の瞳には、かつて命のやり取りをした時の遺恨は無かった。
それきり二人は口を閉ざし、前を向いて走り続けた。
岩の隙間から差し込む僅かな光が、暗い洞窟の中を微かに照らしている。
「・・・レイマート様、お加減はいかがですか?」
壁に背中をあずけて目を閉じている男、ゴールド騎士のレイマート・ハイランドに、青いローブを纏った薄い緑色の髪の女性が、心配そうに声をかけた。
「ああ・・・なんとか、だな。まったく、うっとおしい蛇だぜ。まだうろついてんだろ?」
大きく息を付いて、レイマートは目を開けた。
透明感のある青く長い髪を搔き上げ、自分に声をかけた女性魔法使いに顔を向けると、蛇に対する嫌悪感をあらわに言葉を返す。
「はい。この場所の特定はできていないみたいですが、あれだけの数の蛇です。この山のいたるところに這っています。見つからずにここを脱出するのは不可能だと思います」
「だよなぁ・・・エミリー、お前の消身(しょうしん)の壺でも難しいんだろ?」
もう何度も確認した事を、レイマートはあらためて問いかけた。
エミリーもまた、何度も聞かれた事ではあるが、あらためて言葉を返した。
「はい。最後まで気付かれずに、下山できる可能性は極めて低いと思います。私の消身の壺は、透明になるわけではありません。存在を認知されにくくなるだけで、音を出せば相手に聞こえますし、ぶつかれば視認もされるんです。あの数の蛇から逃げ切る事は、現実的ではないと思います」
エミリー・マーシル。二十歳、青魔法使い、シルバー騎士序列九位、魔法騎士。
薄緑色の長い髪を、左衿に寄せて一本にまとめて流している。
背丈はレイマートより10センチ程低く、165cmあるか無いかくらいだろう。
やや青みがかった瞳からは、現状を打開できる策がない事に対する不安が見て取れる。
「だよなぁ・・・やるにしても、本当に最後の最後って時だよな」
額を指先でコンコンと突き、レイマートは顔をしかめた。
「はい・・・少しですが、まだ食料も残ってます。エクトールが任務を果たす事を信じて待ちましょう」
「・・・それが一番だよな」
洞窟の微かな割れ目、僅かな光が差し込む隙間に、レイマートは目を向けた。
洞窟の出入口は、沢山の枝葉で塞ぎ、周囲の景色ともうまく融合できているから、気付かれる可能性は低い。天井の割れ目も本当に小さい。ここならば、そう簡単に見つかる事はないだろう。
だが、いつまで持つだろうか・・・・・
残りの食料は、全員で分けた場合六日も持たないだろう。
それまでにエクトールが、救援を連れて来る可能性はどれほどだろうか?
「・・・早く助けがくるといいな」
「はい、きっと来てくれます。私は信じてます」
二人が交わした視線は弱くはあった。だが仲間を疑う事は無かった。
エクトールは必ず戻って来る。そう信じて疑う事はなかった。
アラタの方には目を向けず、ユーリは抑揚の無い声で話し出した。
「えっ?・・・・・」
突然の聞こえの悪い言葉に、アラタの口から驚きの言葉がもれた。
だがユーリが自分の内面を話そうとしてくれている事に気付き、アラタは口を閉じた。
「アタシは男に好かれるような可愛い振る舞いはできない。思った事もハッキリ言うし、変わった話し方と言われればそうかもしれない。それにアタシは・・・・・何もできなかった」
そう話しながらユーリは目を細める。そのダークブラウンの瞳は、今この瞬間を見ていない。
少し硬い声からは、あまり思い出しくない心の内が伝わって来る。
「・・・ユーリ」
「店長はね、そんなアタシに言ってくれたの。ユーリはユーリのままでいいって。アタシが作ってる魔力回復促進薬だって、店長が教えてくれた。覚えが良い、上手だって、いっぱい褒めてくれた。レイジェスにアタシの居場所を作ってくれた。今のアタシがいるのは店長のおかげ・・・・・」
瞳を閉じて、ユーリは少しだけ微笑んだ。
かつて経験した苦しい思いを乗り越えて今を生きる。その表情からは前を向いて生きる強さ、そして美しさが見えた。
「さぁ、休憩はおしまい。アラタ、行くよ」
立ち上がって自分に笑いかけるユーリ。
「ああ・・・行くか、ユーリ」
脅し文句を言われたり、脛を蹴られたり、アラタはユーリを少し苦手に思っていた。
「遅れたら俺がおんぶしてやるからな」
「む、なんか調子に乗ってる?アバラ折るよ?」
だけど今、初めてユーリの心の内に触れて、これまで持っていた苦手意識が嘘のように消えた。
笑い合いながら言葉を交わす二人の姿は、仲の良い友人そのものだった。
「全員準備はいいな?次の休憩は正午の予定だが、途中で具合が悪くなれば、すぐに申し出てくれ。では行くぞ」
アルベルトは一人一人の顔を見て状態を確認すると、再び先頭を走り出した。
「フッ、慣れたものだな?良い仕切りだ」
「なんだ?お前が仕切りたかったか?」
一歩後ろを走るレイチェルが発した言葉に、アルベルトはチラリと目を向けて言葉を返した。
「そういう意味ではない。実際お前が適任だと思うさ。小まめに体調に目を向けるのは、隊を率いる長として素晴らしい。この調子で頼むよ」
「へっ、お前にそんな事言われると調子が狂うな。まぁ、任せろ。全員無事に帰してみせるからよ」
「期待しているぞ」
僅かに視線を交わせる。両者の瞳には、かつて命のやり取りをした時の遺恨は無かった。
それきり二人は口を閉ざし、前を向いて走り続けた。
岩の隙間から差し込む僅かな光が、暗い洞窟の中を微かに照らしている。
「・・・レイマート様、お加減はいかがですか?」
壁に背中をあずけて目を閉じている男、ゴールド騎士のレイマート・ハイランドに、青いローブを纏った薄い緑色の髪の女性が、心配そうに声をかけた。
「ああ・・・なんとか、だな。まったく、うっとおしい蛇だぜ。まだうろついてんだろ?」
大きく息を付いて、レイマートは目を開けた。
透明感のある青く長い髪を搔き上げ、自分に声をかけた女性魔法使いに顔を向けると、蛇に対する嫌悪感をあらわに言葉を返す。
「はい。この場所の特定はできていないみたいですが、あれだけの数の蛇です。この山のいたるところに這っています。見つからずにここを脱出するのは不可能だと思います」
「だよなぁ・・・エミリー、お前の消身(しょうしん)の壺でも難しいんだろ?」
もう何度も確認した事を、レイマートはあらためて問いかけた。
エミリーもまた、何度も聞かれた事ではあるが、あらためて言葉を返した。
「はい。最後まで気付かれずに、下山できる可能性は極めて低いと思います。私の消身の壺は、透明になるわけではありません。存在を認知されにくくなるだけで、音を出せば相手に聞こえますし、ぶつかれば視認もされるんです。あの数の蛇から逃げ切る事は、現実的ではないと思います」
エミリー・マーシル。二十歳、青魔法使い、シルバー騎士序列九位、魔法騎士。
薄緑色の長い髪を、左衿に寄せて一本にまとめて流している。
背丈はレイマートより10センチ程低く、165cmあるか無いかくらいだろう。
やや青みがかった瞳からは、現状を打開できる策がない事に対する不安が見て取れる。
「だよなぁ・・・やるにしても、本当に最後の最後って時だよな」
額を指先でコンコンと突き、レイマートは顔をしかめた。
「はい・・・少しですが、まだ食料も残ってます。エクトールが任務を果たす事を信じて待ちましょう」
「・・・それが一番だよな」
洞窟の微かな割れ目、僅かな光が差し込む隙間に、レイマートは目を向けた。
洞窟の出入口は、沢山の枝葉で塞ぎ、周囲の景色ともうまく融合できているから、気付かれる可能性は低い。天井の割れ目も本当に小さい。ここならば、そう簡単に見つかる事はないだろう。
だが、いつまで持つだろうか・・・・・
残りの食料は、全員で分けた場合六日も持たないだろう。
それまでにエクトールが、救援を連れて来る可能性はどれほどだろうか?
「・・・早く助けがくるといいな」
「はい、きっと来てくれます。私は信じてます」
二人が交わした視線は弱くはあった。だが仲間を疑う事は無かった。
エクトールは必ず戻って来る。そう信じて疑う事はなかった。
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