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1010 最初の休憩
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クインズベリーを出発して一時間程走った。
町から離れ、今は草原地帯を駆けている。馬車よりも早い移動速度だが、パウンドフォーへ向かう一行の表情にはまだ疲れの色は見えない。
「アゲハ、最後に店長に何て言われたんだ?」
アゲハは集団の真ん中を走っていた。
4~5メートルの間隔を開けて、前を行くアラタの後ろに付いて走っていると、レイチェルが隣に並び話しかけて来た。
「ん?店長に最後・・・ああ、うん、みんなを頼むって言われたね」
ふいに向けられた質問に、アゲハは一瞬記憶を辿った。
そしてクインズベリーを出発する直前に、ウィッカーにかけられた言葉を思い出した。
「・・・みんなを頼む、か・・・」
レイチェルは少し考えこむ表情で、聞かされた言葉をそのまま口にした。
「その時は、分かったって返事したけど、よく考えるとちょっと変だよね?そういう言葉って、レイチェル、あんたに言うもんだと思うんだ。だって私は新参者だし、レイジェスを見てれば誰が中心になっているのか言うまでもないからね。なんで私にあんな事言ったのかな?」
「・・・なんとなく分かるかな。アゲハはシンジョウ・ヤヨイにそっくりだと聞いている。店長は彼女をとても頼りにしていたと言っていたし、アゲハにヤヨイが重なって見えたんじゃないかな。実際アゲハの腕はかなりのものだ。店長を相手にマウントをとったのなんて、アゲハくらいだぞ」
「ああ、なるほど、そういう事か・・・まぁ、私がヤヨイにそっくりだってのはアラタも言ってたしね。でもさ、ヤヨイの代わりに頼られるのはちょっと面白くないね。私は私の力で認めさせてやるよ」
レイチェルの推測を聞き、アゲハは納得すると同時に、自分を通してヤヨイを見ているウィッカーに反発心を抱いた。
「おい、店長は何もアゲハを軽視して言ったわけではないと思うぞ。ヤヨイの面影は見たかもしれないが、アゲハの力を信じていなければ、任せるなんて言葉は出て来ない」
「ああ、そうだろうね。悪気がないのは分かるよ。これは私の問題だ。ヤヨイの子孫だからってのを消したいだけだよ。まぁ、この遠征の結果で、さすがヤヨイの子孫だ。じゃなくて、さすがアゲハだって認めさせてやるよ」
不満が聞こえる口調ではあったが、その表情はどこか楽しそうに見えた。
「・・・フッ、そうか、ならばこの遠征で見させてもらうぞ。アゲハという人間の力を」
今回の遠征はアゲハにとって、レイマート達を助けるためだけではなく、ヤヨイを超えるための自分との戦いとなった。
ウィッカーの思惑が、本当はどこにあったのかは分からない。
だがレイチェルは自分の推測を、当たらずとも遠からずだろうと考えた。
隣を走る挑戦者は、プライドを刺激されてやる気を出した。
ならばこれ以上、余計な言葉を重ねない方がいいだろう。
見届けよう・・・アゲハがヤヨイを超える姿を・・・・・
レイチェルはそれ以上言葉を口にせず、前を向いて走った。
「・・・よし、ここら辺で休憩にしよう」
アルベルトは黒無地のロングパンツのポケットから懐中時計を取り出すと、針が刺す時刻を確認して足を止めた。
午前九時、クインズベリーを出発して二時間半が経っていた。
まだまだ草原地帯は続いているが、日避けに丁度良い樹を見つけたので、全員がそこに集まって腰を下ろした。
アルベルト本人はまだまだ走る事はできる。
だが今回同行する事になった白魔法使い、ユーリ・ロサリオが出した条件に従い、休憩をとる事にしたのだ。
「・・・ふぅ・・・」
「ユーリ、調子はどうだ?」
樹にもたれかかり一息をつくユーリに、アラタが声をかけた。
「ん、大丈夫。アタシこのくらいなら走った事があるの。膂力のベルトでどのくらい走れるか確認のために」
「へえ、そりゃすごいな。ちなみにさ、あとどのくらい走れそうなの?」
ユーリの隣に腰を下ろして顔を向ける。
計算するように少し視線を上げて、ユーリは質問に答えた。
「・・・魔力は三割くらい消費している。出発前に魔力回復促進薬を飲んでこの状態。この感じだと、十分も休めば一割くらいは回復しそう。だから、うまく休憩しながら走れば日暮れまで走れる」
「マジか、じゃあ三十分休めば完全回復って事だよね?それなら確かに一日走れるな」
「うん。でもそれは今日だけの話し。明日はどうなるか分からない。やっぱりこれは力技。体に無理をさせている。いつまでも続けられないと思う・・・」
眉根を寄せて、困ったように笑うユーリを見て、アラタは体ごと向き直って問いかけた。
「ユーリ・・・それならどうしてこの遠征に参加したんだ?レイチェルが白魔法使いは絶対に必要だとは言ってたけど、ずいぶん無理する事になるんだろ?」
「・・・・・店長が、アタシに期待してくれたから・・・・・」
少し俯いて沈黙した後、ユーリは顔を上げて空を見つめながら口を開いた。
「・・・ユーリ・・・・・」
ユーリはウィッカーを特に信頼している。
そしてその理由は、ユーリの内面に触れるとカチュアは言っていた。
体に負担をかけると分かっていても、この遠征に参加するくらいの何があると言うのだろう?
「なぁ、ユーリはなんでそんなに頑張るの?」
町から離れ、今は草原地帯を駆けている。馬車よりも早い移動速度だが、パウンドフォーへ向かう一行の表情にはまだ疲れの色は見えない。
「アゲハ、最後に店長に何て言われたんだ?」
アゲハは集団の真ん中を走っていた。
4~5メートルの間隔を開けて、前を行くアラタの後ろに付いて走っていると、レイチェルが隣に並び話しかけて来た。
「ん?店長に最後・・・ああ、うん、みんなを頼むって言われたね」
ふいに向けられた質問に、アゲハは一瞬記憶を辿った。
そしてクインズベリーを出発する直前に、ウィッカーにかけられた言葉を思い出した。
「・・・みんなを頼む、か・・・」
レイチェルは少し考えこむ表情で、聞かされた言葉をそのまま口にした。
「その時は、分かったって返事したけど、よく考えるとちょっと変だよね?そういう言葉って、レイチェル、あんたに言うもんだと思うんだ。だって私は新参者だし、レイジェスを見てれば誰が中心になっているのか言うまでもないからね。なんで私にあんな事言ったのかな?」
「・・・なんとなく分かるかな。アゲハはシンジョウ・ヤヨイにそっくりだと聞いている。店長は彼女をとても頼りにしていたと言っていたし、アゲハにヤヨイが重なって見えたんじゃないかな。実際アゲハの腕はかなりのものだ。店長を相手にマウントをとったのなんて、アゲハくらいだぞ」
「ああ、なるほど、そういう事か・・・まぁ、私がヤヨイにそっくりだってのはアラタも言ってたしね。でもさ、ヤヨイの代わりに頼られるのはちょっと面白くないね。私は私の力で認めさせてやるよ」
レイチェルの推測を聞き、アゲハは納得すると同時に、自分を通してヤヨイを見ているウィッカーに反発心を抱いた。
「おい、店長は何もアゲハを軽視して言ったわけではないと思うぞ。ヤヨイの面影は見たかもしれないが、アゲハの力を信じていなければ、任せるなんて言葉は出て来ない」
「ああ、そうだろうね。悪気がないのは分かるよ。これは私の問題だ。ヤヨイの子孫だからってのを消したいだけだよ。まぁ、この遠征の結果で、さすがヤヨイの子孫だ。じゃなくて、さすがアゲハだって認めさせてやるよ」
不満が聞こえる口調ではあったが、その表情はどこか楽しそうに見えた。
「・・・フッ、そうか、ならばこの遠征で見させてもらうぞ。アゲハという人間の力を」
今回の遠征はアゲハにとって、レイマート達を助けるためだけではなく、ヤヨイを超えるための自分との戦いとなった。
ウィッカーの思惑が、本当はどこにあったのかは分からない。
だがレイチェルは自分の推測を、当たらずとも遠からずだろうと考えた。
隣を走る挑戦者は、プライドを刺激されてやる気を出した。
ならばこれ以上、余計な言葉を重ねない方がいいだろう。
見届けよう・・・アゲハがヤヨイを超える姿を・・・・・
レイチェルはそれ以上言葉を口にせず、前を向いて走った。
「・・・よし、ここら辺で休憩にしよう」
アルベルトは黒無地のロングパンツのポケットから懐中時計を取り出すと、針が刺す時刻を確認して足を止めた。
午前九時、クインズベリーを出発して二時間半が経っていた。
まだまだ草原地帯は続いているが、日避けに丁度良い樹を見つけたので、全員がそこに集まって腰を下ろした。
アルベルト本人はまだまだ走る事はできる。
だが今回同行する事になった白魔法使い、ユーリ・ロサリオが出した条件に従い、休憩をとる事にしたのだ。
「・・・ふぅ・・・」
「ユーリ、調子はどうだ?」
樹にもたれかかり一息をつくユーリに、アラタが声をかけた。
「ん、大丈夫。アタシこのくらいなら走った事があるの。膂力のベルトでどのくらい走れるか確認のために」
「へえ、そりゃすごいな。ちなみにさ、あとどのくらい走れそうなの?」
ユーリの隣に腰を下ろして顔を向ける。
計算するように少し視線を上げて、ユーリは質問に答えた。
「・・・魔力は三割くらい消費している。出発前に魔力回復促進薬を飲んでこの状態。この感じだと、十分も休めば一割くらいは回復しそう。だから、うまく休憩しながら走れば日暮れまで走れる」
「マジか、じゃあ三十分休めば完全回復って事だよね?それなら確かに一日走れるな」
「うん。でもそれは今日だけの話し。明日はどうなるか分からない。やっぱりこれは力技。体に無理をさせている。いつまでも続けられないと思う・・・」
眉根を寄せて、困ったように笑うユーリを見て、アラタは体ごと向き直って問いかけた。
「ユーリ・・・それならどうしてこの遠征に参加したんだ?レイチェルが白魔法使いは絶対に必要だとは言ってたけど、ずいぶん無理する事になるんだろ?」
「・・・・・店長が、アタシに期待してくれたから・・・・・」
少し俯いて沈黙した後、ユーリは顔を上げて空を見つめながら口を開いた。
「・・・ユーリ・・・・・」
ユーリはウィッカーを特に信頼している。
そしてその理由は、ユーリの内面に触れるとカチュアは言っていた。
体に負担をかけると分かっていても、この遠征に参加するくらいの何があると言うのだろう?
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