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1005 カチュアの成長

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「レイチェル、アタシは魔法使い。体力型の全力ダッシュに付いて行くのは無理」

「うん、普通は無理だよね。でも、ユーリの魔道具ならできるんじゃないかな?」

「確かに膂力のベルトを使えば長い距離も走れる。でも、魔力は自然回復を待つしかない。途中で魔力が切れて、絶対に付いて行けなくなる」

「うん、私も厳しいとは思う。でもなんとかできる方法はないか?白魔法は絶対に必要なんだ。ユーリの事は店長が推薦したんだよ。店長はユーリならできると信じてるんだ」

「店長が、アタシを・・・・・・・ちょっと考える」

ユーリは腕を組んで瞼を閉じた。
自分の魔力量ならどこまで走れるか、どうすれば最後まで付いて行けるか、それを頭の中で計算しているのだ。

「・・・・・魔力回復促進薬は多めに欲しい。2~3時間置きの途中休憩は絶対必要。あと、多分帰りは走れるだけの気力が無いと思う。だからリカルドがアタシをおんぶする事が条件」

少しの後、ユーリは目を開けると指を一本づつ立てながら、条件を口にして数えた。
しかし三本目の指を立てた後、レイチェルは分かった、とすぐに了承したが、ユーリの正面に座っているリカルドが異議を唱えた。

「はぁ?おいおいおいおい、ちょっと待てよ、なんで俺がユーリをおんぶしなきゃなんねぇの?」

露骨なまでに面倒そうな声を出し、しかめっ面で首を横に振る。

「今回は救出したら即脱出する。休む暇もないと思う。アタシの魔力が回復してる可能性は低い。だからリカルドがおんぶするのは当然」

あからさまに嫌そうな顔をするリカルドに、ユーリは抑揚のない声で説明をする。
リカルドのこういう反応は想定済みだったのだろう、文句は全て聞き流している。

「だからって別に俺じゃなくてもいいだろ?兄ちゃんにおんぶしてもらえよ!兄ちゃんのが体でけぇんだから!」

突然名前を上げられ、アラタは目を瞬かせた。

「え?いや、リカルド、俺は行くって決まったわけじゃ・・・」

「何言ってんだよ兄ちゃん?俺が行くんなら兄ちゃんも行くに決まってんだろ?そうだよな?レイチェル」

「いや、リカルドが行くからというわけではないんだが、アラタは絶対に来て欲しい。闇の蛇と、その使い手が相手なんだ。やはり光の力は必要になる」

リカルドの言葉に振り回されそうになったが、レイチェルから目を向けられると、アラタも落ち着いて考え始めた。

「まぁ、闇の力を持った蛇だもんな、それなら確かに俺が適任か・・・」

アラタはそこで言葉を切って、隣に座るカチュアに顔を向けた。
自分が行くべきなのは分かる。だがどうにも決めかねている。
迷いのあるその表情を見て、カチュアはニコリと微笑んで見せた。

「・・・アラタ君、私はもう泣いて待ってるだけの、弱い女じゃないよ」

「カチュア・・・」

アラタがなぜ自分に顔を向けたのか。
それは妻である自分を置いて、また危険な場所に向かわなければならないからだ。
アラタは根が真面目で責任感も強い。だからこそ、一連の話しを聞いて、自分がいかなければならないと感じている。

しかし自分が行く事で、妻には大きな心配をかけてしまう。
行っても大丈夫だろうか?カチュアを悲しませてしまわないだろうか?
妻を想うがゆえの感情が、アラタに決断を下させずにいた。

「私は今回一緒に行けないけど、アラタ君の事は信じてる。絶対に帰って来るって信じてる。だから行って来ていいよ。私はお家でご飯を作って待ってるから・・・アラタ君がいつ帰って来てもいいように、美味しいご飯を作って待ってるから」

「・・・うん、俺は絶対に帰って来るよ。カチュアを一人になんてしないから。約束だ」

カチュアの微笑みに、アラタは今までにない安心感を覚えた。
カチュアは精神的に弱いところがあった。自分が協会に連れて行かれた時は、何日も塞ぎこみ、食事も満足にとらなかったと聞いている。
アラタがロンズデールに行った時も、前日には寂しさから涙を見せていた。

だが今のカチュアはどうだろうか。
笑顔を見せながら、行って来いと送り出している。
無論、寂しさが無いわけではない。心配していないわけではない。
だが、アラタが自分を気にかけて任務に集中できなくならないように、笑って送り出せるくらいに心が強くなった。
いくつもの戦いを経験して、カチュアもまた成長しているのだ。


「レイチェル、そういうわけで、アラタ君をよろしくね」

今まではどこか相手に気を使って、自分の事は後に回していたところがあった。
だが自分の気持ちをちゃんと言葉に出すカチュアを見て、レイチェルも優しい笑顔で言葉を返した。

「ああ、まかせといてよ。全員無事に帰ってくる。約束だ」
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