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1004 リカルドを選んだ理由

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「うへぇ~、なにそれ?くっそ面倒くせぇ~。レイチェルよぉ、それでなに?救出する事になったって、お前騎士団と一緒に行ってくんの?」

時刻は18時。
閉店後のレイジェスで、リカルドが顔をしかめていた。
8月までは18時30分の閉店だったが、9月に入り日没が早くなったため、18時の閉店になったのだ。

閉め作業を行った後、メンバー全員が事務所に集められ、レイチェルから今回のパウンド・フォー行きの話しを聞かされていた。


「ああ、当然私は騎士団と一緒にパウンド・フォーに行って来る。ゴールド騎士のレイマートは、ここで失うには惜しい男だ。それにレイマートと一緒にいるシルバー騎士達も、序列10位内の優秀な騎士達らしい。これからの帝国との戦いにおいて、必要な人材だと思わないか?」

「へぇ~、まぁいいんじゃね?レイチェルが行くってんなら俺は別に止めねぇよ。応援してっから頑張ってこいよ」

自分には関係ない。行ってこいと言うように、右手をひらひらと振って見せる。


「いや、リカルド、お前も行くぞ」


「・・・・・・・あ?」


リカルドは眉間にシワを寄せ、大口を開けて固まった。
言葉の意味を理解できないと言うように、レイチェルを凝視する。

周りで話しを聞いていた他のメンバー達も、まさかリカルドを連れて行くとは予想しておらず、レイチェルとリカルドを交互に見やり、困惑した表情を浮かべている。


「・・・あ~、耳ん中にカス溜まってたかも。なんか変な言葉聞いた気がする。毎日仕事頑張ってっから、疲れも溜まってたかも。俺って一途で繊細だから」

右手の小指を耳の穴にツッコミ、ぐりぐりと捻じってほじくる。
四本脚の椅子の背もたれに重心を預けると、ギッコギッコと音を立てて揺らしながら、レイチェルから顔を反らして、とぼけた顔で口笛まで吹き出した。

「リカルド、お前も行くんだよ」

まったく自分を見ようとしないリカルドだったが、レイチェルは怒る事も、説得しようとする事もなく、ただ淡々と決定事項のように同じ言葉を繰り返した。


「あ~、幻聴かなぁ、そういや熱もあるかも、ゴホンゴホン、なんか咳も出始めたし、関節もちょっと痛ぇし、おかゆしか食いたくねぇわ。こりゃ風邪だな。悪ぃ、そういうわけで俺はもう帰るな、レイチェル、明日は頑張って来いよ。お土産は蛇の串焼きでいいから」

リカルドはわざとらしく額に手を当てると、口でゴホンゴホンと発声しながら席を立った。

そしてあくまでレイチェルとは目を合わせようせず、そのまま背中を向けて、右手を顔の横でひらひらと振りながら、左手でドアノブに手をかけた。


「おい待て。もう一度言うぞ。リカルド・ガルシア、お前もパウンド・フォーに行くんだ」

しかしレイチェルは声のトーンを変えず、三度リカルドに言葉をかけた。
さすがに無視はできず、リカルドは足を止めると、心底面倒そうに口を曲げて振り返った。

「・・・・・んだよぉ~、俺は風邪ひいてんだよ。病人を連れ出すんじゃねぇぞ?行きたいヤツだけ行きゃいいだろ?」

「いいのか?」

「あぁ?何がだよ?」

「パウンド・フォーに行かなくて、本当にいいのか?」

「・・・んだよ?寝ぼけてんのか?いいに決まってんだろ?そんな遠いとこまで行ってらんねぇよ。俺はレイジェスを護ってっから、レイチェルは店の心配しねぇで行ってこいよ」

「無事にレイマートを救出したら、騎士団が好きなだけご馳走してくれるそうだ。キッチン・モロニーでも、ジェロムのパスタでも、クリスの宿屋で宴会でもいい。お前の気がすむまで食い放題なんだが、本当にいいのか?」

「おいレイチェル、俺が困ってる人を見捨てるような薄情者に見えんのかよ?もっと早く俺に言えよな?もちろんやってやんよ」

あまりの切り替えの早さ。
いっそ清々しいくらいの変わりように、事務所内にいる全員が目を丸くして唖然としていた。


「・・・リカルド、お前ってすごいよな?」

自分で言った事だが、予想以上の食いつきに、レイチェルは苦笑いするしかなかった。

「あ?俺がすごいのは当たり前だろ?んで、パウンド・フォーに行くのは俺とレイチェルの二人かよ?」

スタスタと席に戻り、ドカリと椅子に腰を落とすと、さも当然のようにレイチェルに話しの続きを促した。

「なぁリカルド、お前・・・風邪だったんじゃないの?」

隣に座るアラタがリカルドに怪訝な顔を向けると、リカルドは、はぁ?と口を歪めた。

「俺が風邪?んなわけねぇじゃん?どこをどう見たら俺が風邪なんだよ?」

「・・・俺、たまにお前が大物だって思うわ」

さっき言った事が次の瞬間には無かった事にされる。いや、むしろこっちが間違っているかのような言動である。ここまで堂々と言われると、本当に自分が間違っていたのかと思ってしまいそうになる。
最初は怒りもした。だがここまで来ると、もうリカルドだからしかたない。そう諦めにも似た感情である。

そんな諦め顔のアラタを見て、レイチェルは一つ咳払いをしてから、話しを再開した。

「あー、コホン、とりあえず話しを続けるぞ?まずリカルドだが、なんでお前を連れて行くかと言うと、お前のハンターとしての能力が必要なんだ。お前、山や森には強いだろ?レイジェスに入るまでは、実家で親と狩りをしてたって言ってたし、蛇の生態にも詳しいんじゃないのか?それに私は、お前の弓が必要になると思っている」

「お?さすがレイチェル、俺をちゃんと評価してんじゃんか?そうそう、山なら俺を連れてくのは正解だぜ。蛇なら昔、数えきれない程狩って食ったからな」

「食った!?」

蛇を食ったという言葉にアラタが反応すると、リカルドは、おう、と極々普通の声色で顔を向けた。

「そりゃ食うだろ?殺しておいて食わねぇわけねぇだろ?命に失礼だろ?」

「お、おう・・・そ、そうだな・・・」

日本でも戦時中に蛇を食べたと言う話しは聞いた事がある。
現代日本でも蛙や蛇が食べれる店はあるようだが、アラタには馴染みが無く、つい反応してしまった。
そしてリカルドの言い分は至極全うであり、一言も反論できない。
しかし、普段のふざけた言動とのギャップが大きく、アラタはいまいち釈然としない顔をしていた。

「おいおい、雑談なら後にしてくれよ、まぁリカルドはそういう理由で連れて行く。それとユーリ、キミにも来てほしいんだが、お願いできるかな?」


「え?アタシ・・・?」


まさか自分が指名されるとは思っていなかったユーリは、自分の顔に指先を向けて聞き返した。
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