異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
1,004 / 1,347

1003 見送る背中

しおりを挟む
アラルコン商会の事務所では、二人の女性がテーブルを挟んで向かい合い座っていた。

秋晴れの気持ちの良い日だが、まだまだ夏の名残りで汗は出る。

向かい合う二人のうち、黒髪の女性シャノン・アラルコンは、氷が浮かぶ薄茶色の液体が入ったグラスに口を付けると、正面に座る赤い髪の女性に顔を向けた。

「・・・・・マジかぁ・・・レイチェル、あんたって本当に大変だよね?体大丈夫?いっつも面倒事引き受けてない?」

大きく息を吐き出し、ありえないと言うように首を横に振った。
カシレロとの戦いで死にかけた事を知っているだけに、苦労の絶えないレイチェルが心配でならなかった。


今日はロンズデールから来ると言う、リンジー達の話しをするために来てもらったはずが一転した。帝国との国境にある山岳地帯パウンド・フォー。
そこで窮地に陥っている騎士達を救出に行く事になったと言うのだ。

「まぁ、体は大丈夫だ。この前まとまった休養をとったからな。店長とも毎日のように訓練ができているから、どこも悪くないし健康そのものだぞ。それに、レイマートを見捨てるわけにはいかないだろ?私達レイジェスに助ける力があるのなら、行かなければならない」

「そりゃ。そうなんだろうけど・・・私達ロンズデールも助けてもらったしね。でもさ、私はあんたが無理してないかって思ってね・・・」

テーブルの上に両手を重ねて、シャノンはレイチェルの瞳をじっと見つめた。

ロンズデールの戦いからまだ一年も経っていない。
そしてほんの数か月前には、クインズベリーに攻め入って来た帝国の師団長、ジェリメール・カシレロとの一戦で死にかけたのだ。
レイチェル本人は大丈夫だと言うが、またも危険な場所に赴(おもむ)く友人の身を、シャノンは心から案じていた。


「・・・心配してくれてありがとう。私は良い友人を持ったな」

「はぁ~・・・まったく、あんた頑張り過ぎだよ。他に任せられる人はいないの?」

「闇蛇には魔法を含め、剣や打撃、普通の攻撃がほとんど効かないという話しだ。しかも体長は10メートルにも及ぶという。そんな危険な蛇を相手にするんだから、この任務を引き受けた私が行くのが筋だろう?」

「そりゃ、そうかもしれないけど・・・はぁ、しかたないね。レイチェルはこうだって決めると曲げないからね・・・分かったよ、それで帰りはいつくらいになりそう?」

レイチェルの決意の固さを見て取ると、シャノンは説得を諦めたように小さく息をついた。
できれば行かせたくない。だが事情が事情なだけに、行くしかないのだろう。そう納得するしかないのだ。


「今回は救出が目的であって、蛇を殲滅(せんめつ)する必要は無い。逃げる事だけを考えるなら、そうだな・・・12~13日、まぁ二週間もあれば帰って来れるとは思う」

レイマート達を見つけ次第撤退する。逃げに徹するのであれば、往復で二週間もあれば帰って来れるだろう。これがレイチェルの見積もりだった。

「分かった。じゃあ、リンジー達にはそう伝えておくよ。彼女達も使者として来るわけだから、日程を合わせるは難しいかもしれないけど、できれば会いたいよね?9月下旬、二十日過ぎくらいなら帰ってるって事かな?それで連絡しておくよ」

「悪いな、そうしてくれると嬉しいよ」

「いいって、私は日程を調整するだけだからさ。でも、約束した日にレイチェル達がいなかったら、きっとリンジー達もガッカリすると思うんだよね。だから絶対に二十日までには帰って来るんだよ?分かった?」

シャノンが自分に向ける視線の意味、絶対に生きて帰って来て約束を守れ。
本気で自分の身を案じてくれている。その気持ちが嬉しくて、つい表情が緩んでしまう。

「・・・フッ、それじゃあ絶対に遅れる事はできないな。分かった。二週間でキッチリ帰って来る。リンジー達にそう伝えてくれ」

そう言葉を返すレイチェルからは、虚勢ではない確固とした自信が感じられた。


大丈夫・・・レイチェルは強い。これまでだって生き残った。
だから今度も絶対に帰って来る。
そう信じられたからこそ、シャノンはこれ以上引き留める事はせず、快く送り出す事に決めた。

「・・・よし!じゃあせっかくだから、化け物蛇の牙でもお土産に取って来てよ!」

「ははは、なんだよそれ?ピクニックに行くんじゃないんだぞ?」

「いいじゃん、商人は珍しい物に目が無いんだよ。ま、取れたらでいいからさ」

「フッ、分かった分かった。期待しないでまっててくれ」

それから二人は少しの間、他愛の無い会話を楽しんだ。

二人の話しは尽きる事はなかった。

まるで二人とも、この時間を終わらせたくないかのように、話しはいつまでも、いつまでも続いた。

やがて陽が傾いてきた頃、壁にかかった時計の針に目を向けて、レイチェルは静かに席を立った。

そろそろ出ないと暗くなってしまう。


・・・じゃあ行って来る。

そう言い残して、レイチェルは事務所を出た。
シャノンは何も言葉を口にしなかった。

ただゆっくりと頷いただけで、部屋を出るレイチェルの背中を黙って見送った。



レイチェル・・・・・絶対に生きて帰って来い


ただシャノンは心の中で祈った。
危険地帯へと発つ友人が、無事に帰って来れるようにと・・・

いつまでもずっと・・・祈り続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。

もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです! そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、 精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です! 更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります! 主人公の種族が変わったもしります。 他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。 面白さや文章の良さに等について気になる方は 第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...