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ルナ・フローレンスは闇の巫女と言う名の通り、真っ黒な修道服に身を包んでいる。
瞳の色も黒いが、肌は正反対に雪のように白い。

その肌と同じ白い髪は、両耳の脇で束を作り、水色のリボンで結んで胸まで下げている。

白い肌と黒い服、白と黒以外では、唯一この水色リボンだけが、違う色を使っていた。


じっとレイチェルを見つめるルナの表情には、親し気な笑みが浮かんで見える。

「クインズベリー最高戦力に数えられるゴールド騎士が二人、そして帝国との戦争における重要人物の闇の巫女か・・・いったい私に何の用だ?」

レイチェルは腕を組むと、アルベルト、フェリックス、そしてルナと、順番に目を向けた。
どんな要件かは分からないが、これだけの顔ぶれが揃っている。よほどの話しなのだろうと思い、口調が真剣味を帯びる。

「せっかちだね、こういう場合、まずは近況報告からじゃない?景気はどう?」

しかしフェリックスは椅子に座ったまま肘を着き、軽い口調で話しを振る。

「武器と防具と薬なんかがよく売れてるよ。買い取りもずいぶん増えてるが、売り上げはそれ以上だ。繁盛してると言っていいだろう」

「・・・くそ真面目に答えられるとリアクションに困るね。ふざけてるのかって言葉を期待してたんだけど?」

「お前が質問したから答えただけだ。雑談したいだけなら、内輪でやってくれないか?これでも忙しい身の上なんだ」

眉根を寄せて苦笑いを浮かべるフェリックスに、レイチェルは冷たい目を向ける。
淡々とした口調が、これ以上の世話話を許さないという含みを持たせていた。

「分かった分かった。そう睨むなよ。ちょっとした冗談じゃないか?本題に入るから座ってくれ」

冷たい目を向けるレイチェルをなだめるように、左手を前に出しながら、フェリックスは右手を正面の席に差し向けた。


「・・・ふぅ、まったくヘラヘラと軽い男だな」

ニコニコと笑顔を絶やさないフェリックスの前に座り、レイチェルは溜息をついた。

「レイチェルさん、そんな事はありませんよ。フェリックス様はとても思慮深く、お心の広い方です。確かに人前では軽薄と捉えられる言動をされますが、その裏では国のため、人のためにと、他の誰よりも働いておられます」

悪態をつくレイチェルに対し、向かいに座るルナが、自分の知るフェリックスの姿を口にした。


「へぇ・・・それは意外だな」

チラリとフェリックスに向ける目には、にわかには信じがたいと言う疑念が見えた。

「本当の事です。私は護衛もしていただいてますから、一緒にいる時間は多いのです。お仕事を見る機会も多いですし、フェリックス様のお人柄は存じ上げているつもりです」

ルナはその黒い瞳で真っすぐにレイチェルを見つめ、言葉を続けた。
そしてそこには、フェリックスに対する揺るぎない信頼があった。


「・・・分かった。そこまで真っすぐな目で言うんだ、きっとそうなんだろうね。悪かったよ」

レイチェルはルナとフェリックスに頭を下げた。
するとルナは首を横に振って、優しく言葉を紡いだ。

「いえ、私こそ出過ぎた事を申し上げました。でも、本当にフェリックス様は素晴らしいお方なのです。お分かりいただけて良かったです」

「・・・キミはずいぶんフェリックスを信頼をしてるみたいだね?」

「もちろんです。だって、私を助けてくださった方ですから」

そう言ってルナは隣に座るフェリックスに向き直ると、心からの信頼を表すように、大輪の花が開くような笑顔を見せた。


「・・・すごいなフェリックス。ここまで信頼されるなんて、本当に私の認識が間違っていたようだ。もう一度謝ろうか?」

純粋なルナの笑顔に、レイチェルは言葉だけでなく心を感じ取った。
そして一人の人間から、ここまでの信頼を得ているフェリックスという男を、誤解していたようだとあらためて認めた。

しかしフェリックスは、気にするなと言うように顔の前で軽く右手を振った。

「あはは、今度はキミが軽口かい?別にいいよ、僕の態度にも問題があったわけだし気にしていない。さて、それよりそろそろ本題に入ろうか?単刀直入に言うよ、帝国との国境付近で、マルコス・ゴンサレスらしき男を見つけたんだ」
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