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996 立ち塞がった男
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「悪いな、カチュアは家に泊めたかったんだろ?」
シャノンが帰った後、レイチェルはメインレジに立つカチュアに、シャノンと話しあった内容を伝えた。
その流れでカチュアがリンジー達を家に泊めたがっていたと知ったが、レイジェスのメンバー全員で食事会をする事になったため、諦めてもらう事になったのだ。
アラタとカチュアの家に、レイジェス全員とリンジー達はとても入れないからだ。
「ううん、大丈夫だよ。みんな一緒の方が楽しいじゃない。レイジェスでお食事会するの?それともクリスさんの宿屋?あ、ジェロムさんのパスタ屋さんもいいよね」
家に泊められなくても、リンジー達と会えなくなるわけではない。
大勢で楽しく食事ができれば、その方が楽しいという言葉も本心である。
「レイジェスを予定している。クリスの宿屋も考えたが、どうしても戦争の話しにはなると思うんだ。うっかり機密事項を口にして、それが第三者に聞かれたらまずいからな。それに、なんだかんだ、この店が一番安全だとも思うからな」
そう言ってレイチェルは、店内をグルリと見回した。
カチュアもつられたように店内を見回す。
「・・・うん、そうだね。私もレイジェスが一番安全だって思うよ。ねぇレイチェル、レイジェスって不思議だよね・・・なんだかレイジェスにいると、護られてるって感じる時があるの。レイチェルもそう感じる時ない?」
「・・・護られている、か・・・なるほど、この店にいると強い安心感を覚える時があるんだが、護られていると言うのはしっくりくるな」
穏やかに話すカチュアは、とても優しい顔で店内に目を向けていた。
そんなカチュアの柔らかい空気にあてられて、レイチェルも小さく笑った。
「きっと、レイジェスを愛した人達が見守ってくれているんだよね」
「・・・ああ、私もそう思う」
場所は変わっても、その名前に込められた想い、その店を愛する気持ちは変わらない。
ウィッカーから過去の話を聞いた今、彼らがこの店を護ってくれていると思うのは、何も不思議な事ではなかった。
翌日、レイジェスで朝礼を終えると、レイチェルは城に向かうために外に出た。
昨日と同じく快晴で、とても気持ちの良い朝だ。そよ風が肌に心地よく、こんな日はのんびり散歩でもしたくなる。
「それじゃ行ってくるよ。みんな、店の事頼んだよ」
「あ、レイチェル、待って」
見送りに外まで出て来たアラタ達に一声かけて、レイチェルが馬車に乗り込もうと、タラップに足を乗せると、カチュアが声をかけて呼び止めた。
「ん、どうした?」
「あのね、リンジーさん達がこっちに来た時のお食事会なんだけど・・・その、エリザ様もお呼びできないかな?難しいと思うんだけど、私達お友達でしょ?」
カチュアが王女エリザベートの名前を出すと、レイチェルは少し驚いたように目を開いた。
だがすぐに口元に笑みを浮かべると、分かったと言うように右手を軽く上げた。
「そうだな、エリザは私達の友達だ。アンリエール様に頼んでみるよ」
「ありがとー!じゃあ、気を付けてね!」
走り出した馬車に向かって、カチュアは大きく手を振った。
やがて馬車が遠く小さくなり、石畳を蹴る蹄の音も聞こえなくなると、それぞれが店の中に戻って行った。
「そう言えば俺達も、エリザ様とはしばらく会ってなかったね。元気にしてるかな?」
店内に戻ると、隣を歩くカチュアにアラタが声をかけた。
「うん、店長とレイチェルはよく顔を合わせてるみたいだけど、私達はなかなかお城には行けないから。だから良い機会だし、久しぶりに会いたいなって思って。王女様だからなかなか難しいかもしれないけど、私達と一緒にレイジェスでなら、護衛も兼ねて大丈夫かなって思ったの」
「うん、エリザ様もレイジェスには来た事あるし、きっと大丈夫だよ。楽しみだね」
「うん、今から楽しみだよ」
そう言ってアラタとカチュアは、それぞれの担当しているコーナーへ戻って行った。
「分かりました。本来なら城で部屋を用意すべきですが、あなた方レイジェスと、ロンズデールの使者は特別な関係ですからね。使者の方も望まれているという事でしたら、失礼には当たらないでしょう。用件がすみましたら、レイジェスへお連れする事を許可します」
クインズベリー城の玉座の間では、赤い絨毯の上に片膝をついたレイチェルが、段上のアンリエールからリンジー達をレイジェスに呼ぶ許可を得ていた。
「はい、ありがとうございます」
レイチェルが感謝の言葉を口にすると、アンリエールは少し考えるように言葉を切り、ゆっくりと口を開いた。
「それと・・・エリザですか、この時期に城の外へはあまり出したくありませんが、エリザもずっと城の中で退屈しているようですし、カチュアの結婚式以来、レイジェスの皆さんと会っていないと寂しがっているのです。レイジェスなら信頼できますし今回は許可しましょう」
エリザベートの外出の許可も下りて、レイチェルは安心から表情が和らいだ。
大丈夫だろうと思ってはいたが、やはり時期が時期だ。許可が下りない可能性もあった。
しかしレイジェスならという事で許可がおりた。それだけ女王アンリエールから信頼を得ているという事は嬉しい反面、期待と信用を裏切ってはいけないというプレッシャーでもあった。
レイチェルはすぐに気持ちを引き締め直し、アンリエールに感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございます。エリザベート様は我々が責任を持って護衛いたします。決して危険な目にはあわせません」
「はい、レイチェルの事は特に信用しております。よろしくお願いしますね」
女王アンリエールからの期待の言葉に、はい、と返事をしてもう一度頭を下げると、レイチェルは玉座の間を後にした。
「よぉ、久しぶりだな」
玉座の間を出て、真っすぐに伸びる通路を歩いていると、ふいに一人の男が正面に立ち塞がった。
180cm程の長身、上に立てた短い銀色の髪、髪と同じ銀色の瞳。
黄金の鎧をまとい、短く整えた顎のヒゲを指で摘まむように撫でながら、レイチェルを真っすぐに見据その男は、ゴールド騎士、アルベルト・ジョシュア。
かつて偽国王側に付いて、レイチェルと死闘を繰り広げた男である。
シャノンが帰った後、レイチェルはメインレジに立つカチュアに、シャノンと話しあった内容を伝えた。
その流れでカチュアがリンジー達を家に泊めたがっていたと知ったが、レイジェスのメンバー全員で食事会をする事になったため、諦めてもらう事になったのだ。
アラタとカチュアの家に、レイジェス全員とリンジー達はとても入れないからだ。
「ううん、大丈夫だよ。みんな一緒の方が楽しいじゃない。レイジェスでお食事会するの?それともクリスさんの宿屋?あ、ジェロムさんのパスタ屋さんもいいよね」
家に泊められなくても、リンジー達と会えなくなるわけではない。
大勢で楽しく食事ができれば、その方が楽しいという言葉も本心である。
「レイジェスを予定している。クリスの宿屋も考えたが、どうしても戦争の話しにはなると思うんだ。うっかり機密事項を口にして、それが第三者に聞かれたらまずいからな。それに、なんだかんだ、この店が一番安全だとも思うからな」
そう言ってレイチェルは、店内をグルリと見回した。
カチュアもつられたように店内を見回す。
「・・・うん、そうだね。私もレイジェスが一番安全だって思うよ。ねぇレイチェル、レイジェスって不思議だよね・・・なんだかレイジェスにいると、護られてるって感じる時があるの。レイチェルもそう感じる時ない?」
「・・・護られている、か・・・なるほど、この店にいると強い安心感を覚える時があるんだが、護られていると言うのはしっくりくるな」
穏やかに話すカチュアは、とても優しい顔で店内に目を向けていた。
そんなカチュアの柔らかい空気にあてられて、レイチェルも小さく笑った。
「きっと、レイジェスを愛した人達が見守ってくれているんだよね」
「・・・ああ、私もそう思う」
場所は変わっても、その名前に込められた想い、その店を愛する気持ちは変わらない。
ウィッカーから過去の話を聞いた今、彼らがこの店を護ってくれていると思うのは、何も不思議な事ではなかった。
翌日、レイジェスで朝礼を終えると、レイチェルは城に向かうために外に出た。
昨日と同じく快晴で、とても気持ちの良い朝だ。そよ風が肌に心地よく、こんな日はのんびり散歩でもしたくなる。
「それじゃ行ってくるよ。みんな、店の事頼んだよ」
「あ、レイチェル、待って」
見送りに外まで出て来たアラタ達に一声かけて、レイチェルが馬車に乗り込もうと、タラップに足を乗せると、カチュアが声をかけて呼び止めた。
「ん、どうした?」
「あのね、リンジーさん達がこっちに来た時のお食事会なんだけど・・・その、エリザ様もお呼びできないかな?難しいと思うんだけど、私達お友達でしょ?」
カチュアが王女エリザベートの名前を出すと、レイチェルは少し驚いたように目を開いた。
だがすぐに口元に笑みを浮かべると、分かったと言うように右手を軽く上げた。
「そうだな、エリザは私達の友達だ。アンリエール様に頼んでみるよ」
「ありがとー!じゃあ、気を付けてね!」
走り出した馬車に向かって、カチュアは大きく手を振った。
やがて馬車が遠く小さくなり、石畳を蹴る蹄の音も聞こえなくなると、それぞれが店の中に戻って行った。
「そう言えば俺達も、エリザ様とはしばらく会ってなかったね。元気にしてるかな?」
店内に戻ると、隣を歩くカチュアにアラタが声をかけた。
「うん、店長とレイチェルはよく顔を合わせてるみたいだけど、私達はなかなかお城には行けないから。だから良い機会だし、久しぶりに会いたいなって思って。王女様だからなかなか難しいかもしれないけど、私達と一緒にレイジェスでなら、護衛も兼ねて大丈夫かなって思ったの」
「うん、エリザ様もレイジェスには来た事あるし、きっと大丈夫だよ。楽しみだね」
「うん、今から楽しみだよ」
そう言ってアラタとカチュアは、それぞれの担当しているコーナーへ戻って行った。
「分かりました。本来なら城で部屋を用意すべきですが、あなた方レイジェスと、ロンズデールの使者は特別な関係ですからね。使者の方も望まれているという事でしたら、失礼には当たらないでしょう。用件がすみましたら、レイジェスへお連れする事を許可します」
クインズベリー城の玉座の間では、赤い絨毯の上に片膝をついたレイチェルが、段上のアンリエールからリンジー達をレイジェスに呼ぶ許可を得ていた。
「はい、ありがとうございます」
レイチェルが感謝の言葉を口にすると、アンリエールは少し考えるように言葉を切り、ゆっくりと口を開いた。
「それと・・・エリザですか、この時期に城の外へはあまり出したくありませんが、エリザもずっと城の中で退屈しているようですし、カチュアの結婚式以来、レイジェスの皆さんと会っていないと寂しがっているのです。レイジェスなら信頼できますし今回は許可しましょう」
エリザベートの外出の許可も下りて、レイチェルは安心から表情が和らいだ。
大丈夫だろうと思ってはいたが、やはり時期が時期だ。許可が下りない可能性もあった。
しかしレイジェスならという事で許可がおりた。それだけ女王アンリエールから信頼を得ているという事は嬉しい反面、期待と信用を裏切ってはいけないというプレッシャーでもあった。
レイチェルはすぐに気持ちを引き締め直し、アンリエールに感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございます。エリザベート様は我々が責任を持って護衛いたします。決して危険な目にはあわせません」
「はい、レイチェルの事は特に信用しております。よろしくお願いしますね」
女王アンリエールからの期待の言葉に、はい、と返事をしてもう一度頭を下げると、レイチェルは玉座の間を後にした。
「よぉ、久しぶりだな」
玉座の間を出て、真っすぐに伸びる通路を歩いていると、ふいに一人の男が正面に立ち塞がった。
180cm程の長身、上に立てた短い銀色の髪、髪と同じ銀色の瞳。
黄金の鎧をまとい、短く整えた顎のヒゲを指で摘まむように撫でながら、レイチェルを真っすぐに見据その男は、ゴールド騎士、アルベルト・ジョシュア。
かつて偽国王側に付いて、レイチェルと死闘を繰り広げた男である。
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