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994 クインズベリーに来る理由

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リンジー・ルプレクトはロンズデールの戦士であり、アラタ達がクルーズ船で共に戦った仲間である。
今でこそ同盟国だが、元々ロンズデールは帝国の属国のような立ち位置だった。

しかし国の行く先を案じたロンズデール大臣のバルカルセル、その意思に共感したリンジー達と共闘し、国を売り渡そうとした魔道剣士ラミール・カーンと大海の船団、そして帝国の大臣ダリル・パープルズを退け、ロンズデールを救ったという実績があるのだ。


「え!?リンジーさんこっちに来るんですか!?うわぁ、久しぶりだなぁ!」

この春、アラタとカチュアの結婚式で会って以来だった。
まだ数か月しか経っていないが、もうずいぶん昔の事のように感じる。

「私はこっちに来る前にもたまに会ってたけど、アラタ君達は結婚式以来だもんね。リンジーとファビアナ、ガラハドさんも来るみたいだよ」

最初にこの国に来た時もリンジー、ファビアナ、ガラハドの三人は一緒だった。
今回も三人一緒というから、やはりあの三人はチームで行動しているようだ。

リンジー達が来ると聞いて、大きく喜ぶアラタ。大変な思いもしたが、ロンズデールでは楽しい事も多かった。苦楽を共にした仲間達にまた会える事はとても嬉しかった。

喜ぶアラタを見て、シャノンも自然と口元がほころんだ。

「あ、でもファビアナは来て大丈夫なんですか?今の時期だとどこで帝国に狙われるか分からないし」

国王の娘と認知されたファビアナが、今の時期に他国に来て大丈夫なのだろうか?
そう心配するアラタに、シャノンは問題ないと口にした。

「あの三人も鍛え直してるからね。リンジーとガラハドさんも腕を上げてたけど、ファビアナも逞しくなってたよ、気持ちが強くなった。帝国が気にならないわけじゃないけど、ロンズデールで敗北した事を考えれば、うかつに何かしてくる可能性は低いと思う。今は向こうも体勢を整えてる段階だよ」

「そうなんですね。みんな頑張ってるんだな、俺ももっと強くならないと」

「うん、前向きだね。アラタ君はそういうところが良いよね。あ、そうそうレイチェルいる?」

「あ、はい。今事務所ですね」

そう言って、メインレジから出て、アラタは通路奥の事務所を指差した。

「うん、ありがと。じゃあお仕事頑張ってね」

軽い感じで手を振って、シャノンは事務所へと歩いて行った。



シャノンの背中を見送ると、アラタは物思いにふけるように天井を見上げた。

「・・・今の時期に来るって事は、やっぱり同盟や帝国関係の話しだよな」

のんびり観光にでも来て欲しいが、それが無理な話しだという事は、言うまでも無い。
シャノンは何でもないように話していたが、レイチェルに会いに来たという事は、重要な話しと考えて間違いない。


「アラタ君、ぼんやりしてどうしたの?また考え事?」

「ん?あ、カチュア」

後ろから声をかけられて振り返ると、カチュアがカゴを持って立っていた。
カゴの中には手の平サイズの白い貝殻や、透明な液体の入った容器などが入っている。
傷薬を作るための道具である。

「だんだんメインレジ交代の時間だよ。さっきシャノンさんを見かけたんだけど、なにかあったの?」

アラタはよく一人で考え事をするため、カチュアもだいたいの察しがついている。
レジ台の後ろの棚にカゴを置くと、アラタの顔を見て微笑みながら問いかける。

「あ、うん、シャノンさんから聞いたんだけど、ロンズデールのリンジーさん達が近々こっちに来るみたいなんだ」

「え、そうなの!?結婚式以来だよね。元気にしてるかな」

リンジーは一度アラタの家に泊まった事もあり、カチュアとも仲良しになっていた。
久しぶりにクインズベリーに来ると聞いて喜んだ。

「ファビアナやガラハドさん達と一緒に、鍛え直してるってさ。多分今回は同盟の件でこっちに来るんだと思う」

「そっかぁ・・・うん、今この時期だもん、そういう話しだよね。でも、少しくらい自由時間もあるよね?こっちに来たら、また家に泊まりに来てもらおうよ。私、リンジーさんとまたお話ししたい」

リンジー達が遊びではなく、帝国との戦争についての話しで来る事に気付き、カチュアの声のトーンが落ちた。けれど少しでも楽しい時を過ごしたい。そう思っての提案に、アラタも笑顔で頷いた。

「うん、そうだね。せっかくクインズベリーに来るんだから、美味しいものでも食べて、楽しんでほしいしね。シャノンさんにそう伝えてもらおう」

「ありがとう。私、腕によりをかけて美味しいの作るね!」

両手を胸の前で打ち合わせて、大きな笑顔を見せるカチュアに、アラタも胸が温かくなった。

カチュアはとても思いやりがある。
自分もこの笑顔と優しさに、どれだけ救われてきただろう。


「・・・俺、カチュアと結婚できて本当に良かった」

「え!?きゅ、急にどうしたの?わ、私もアラタ君と結婚できて幸せだけど」

思わず気持ちが口をついて出ると、カチュアも頬を赤くして答えてくれた。


「アラタ、カチュア、カウンターの中でイチャつかないで。お昼前なのにお腹いっぱいになりそう」

二人がじっと見つめ合っていると、通りかかったユーリが、カウンター越しに冷ややかな目を向けてきた。

アラタとカチュアは慌てて離れるが、大きな溜息をつかれてしまった。
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