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987 本当の仲間

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店長のバリオス、いや、カエストゥス最後の魔法使いウィッカーは、これまでの全てを打ち明けた。
しかし、あまりに重く大き過ぎる話しに、しばらく誰も口を開く事ができなかった。

レイチェルを始め、シルヴィア、カチュア、ケイト、ユーリ、女性達は全員が涙を流し、口に手を当て声を押し殺して泣いていた。
ウィッカーとの付き合いが浅いアゲハでさえ、目に涙を浮かべている。

この日のレイジェスの営業終了後、事務所に集まった全員の前で、ウィッカーから200年前の戦争の話しが始まった。
数時間に及ぶ長い話しだったが、その間誰一人として席を立たず、ただじっとその話しに耳を傾けていた。

自分達にとってウィッカーは雇用主というだけではない。
師であり恩人でもある。今日まで自分の事は一切話そうとせず、秘密の多い男ではあった。
なにか事情があるのだろうとは思っていた。だがそれが、これほど重いものだとは予想だにしなかった。



「・・・みんな、聞いてくれてありがとう・・・突然の事で驚かせたと思う。遅くなったし、今日はもう休もうか」

一度壁掛け時計に目を向けてから、ウィッカーはアラタ達へ話しの終わりを告げた。
21時に始まった話しだが、すでに0時を過ぎて外は静寂に包まれている。
これからの事についても話そうと思ったが、これだけ長時間話しを聞いては、さすがに疲れただろうと考えた。


女性達はまだ涙が止まらない。男性達も誰も何も言えなかった。
これほど重いものを背負って生きて来たウィッカーに、何と声をかければいいのだろうか?
いや、事情を聞かされたからと言って、軽々に踏み込んでいいのだろうか?
誰も席を立つ事もできず、ただ女性達のすすり泣く声だけが聞こえていた。


しばらくそのままの時間が過ぎた。
時計の針が刻む音を、どれだけ耳にしただろうか・・・

やがて泣き声も治まってきたころ、レイチェルが口を開いた。


「店長・・・・・その、よかったんですか?私達に話して」

泣きはらして赤くなった目でウィッカーを見つめる。
その瞳には様々な感情が入り混じっていた。

レイチェルとアラタの二人だけは、ウィッカーの素性に検討をつけてはいた。
だがウィッカー自らが話してくれたという事は、自分達を信頼してくれているという事だ。
それはとても嬉しく思う。

しかしこの話しを聞かせるという事は、ウィッカーの止まっていた時を動かすという事だ。

それが何を意味するのか・・・・・・・


「ああ・・・もしかして俺の体を心配しているのか?」

自分を見つめるレイチェルの視線に、不安の色を見たウィッカーは、自分の時が動き出した事に対して、体に何らかの影響が出るのではないか?それを気にかけているのだと察した。

はい、と一言だけ答え、小さく頷くレイチェルに、ウィッカーは優しく笑って答える。

「ありがとう。でも心配しないで大丈夫だ。確かに止まっていた時が動き出した事は感覚として分かる。だけど具合が悪くなったりするわけではないから」

「・・・はい、それなら、いいんですが・・・」

言い淀む事もなく話すウィッカーを見ても、レイチェルは安心できずにいた。

まだなにか隠している事があるのではないか?
戦争の話しについては今聞かされた事で全てだろう。店長自身についても、語られた話しに嘘はない。
嘘をつく必要がないのだから当然だ。

だがこれで全てだろうか?

他に話していない事があるのではないか?

直感だが、レイチェルはウィッカーがまだ何か、自分達に秘密にしている事があると考えていた。

だが、それを口に出す事はしなかった。聞いても答えてはくれないだろうし、聞いてはいけないような気がしたからだ。


頭の中でぼんやりとしていた疑問が形を成した。多分自分以外には誰も気が付いていない。

レイチェルが気にかかったのは反動だった。

200年止まっていた時間、止めていた時間を動かして、反動というものはないのだろうか?

時間を止めて生き続けるなんてありえない。だが、そのありえない事を実行し、無理やり生き続けたのだ。軽い口調で大丈夫だと言っているが、果たして本当に大丈夫なのだろうか?

そう、反動も何もなく、精霊の意思一つで自由に時を動かし止める事ができるのであれば、ここまで頑なに、己の事に口を噤んでいる必要はなかったのだ。

おそらく一度動き出した時を、もう一度止める事はできない。
そして時を動かした際、なにかしらの反動はあるはずだ。
それがなにかは分からないけれど、あまりよくない事のように思う。


全部思い過ごしであればいい・・・・・

そう願う事しかできない自分に歯がゆさを感じながら、レイチェルは言葉を続けた。


「店長・・・私は店長の気持ちが分かるなんて言いません。でも、私は・・・私達はみんな店長のために頑張りたいって思ってます。だから・・・」

大切な人の心の傷を癒してあげたい。けれど今の自分にはそれができない。
だけどこの気持ちだけは伝えたい。

ウィッカーもレイチェルの瞳を真っすぐに見て、一言一言を受け止めていた。


「一緒に戦いましょう。店長は一人じゃありません!」


温かく、そして力強い言葉だった。
自分を心から想ってくれている。そんな仲間達に、もう一度出会えるなんて思っていなかった。


「そうそう、レイチーの言う通りっスよ、店長。かましてやりましょうよ!」

ジャレット・・・

「私も同じ気持ちですよ。今までも、これからも一緒ですからね」

シルヴィア・・・

「俺も戦いますよ。レイジェスの団結力を見せてやりましょう!」

ミゼル・・・

「店長、アタシも頑張るから。一人で抱え込まないでくださいよ」

ケイト・・・

「店長、もちろんボクも戦いますよ。これまでの御恩は忘れてません」

ジーン・・・

「しゃ~ねぇ~なぁ~、俺もこの店無くなったら困るしな、やってやんよ」

リカルド・・・

「店長、アタシもやる。帝国はぶっ飛ばした方がいい」

ユーリ・・・

「店長、私の白魔法もきっと役に立つと思います。一緒に戦います」

カチュア・・・


そして最後に黒髪の男アラタが、俺の目を真っすぐに見て口を開いた。


「店長・・・俺はなんで自分がこの世界に来て、こんな光の力まで使えるようになったのか、今でも全然分からないです。でも俺の光はきっと、この世界の闇を消すためにあるんだって、店長の話しを聞いて思いました。俺、この世界に来て大切な人、友達、護りたいものが沢山できたんです・・・だから俺も戦います」




「・・・・・ああ、そうだな・・・・・」

俺はずっと一人で戦っていくつもりだった。
だけどレイジェスを再開して、お前達と会えて、いつの間にかあの頃に戻ったような懐かしさを感じていた。

俺がいなくても、お前達はこのクインズベリーの危機を救い、ロンズデールとも同盟を結ぶ功績を上げた。

もうお前達は俺に護られる存在じゃない。俺と肩を並べて戦う仲間なんだ。

そう信じたから、俺は全てを話した。
時を止めたまま帝国と戦えば、万一の時に俺は仕切り直す事ができる。

だけど・・・こいつらと同じ条件で戦いたかった。
同じ時を歩みたかった。

それに名前も明かさずに、仲間だなんて言えないだろう?


「みんな、力を貸してくれ。俺と一緒に帝国と戦おう」



やっと、本当の仲間になれた気がした・・・・・
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