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【983 歩き続けて】
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風の精霊がなぜ俺に力を貸してくれたのか、この時の俺には分からなかった。
加護を受けていると言っても、ほんのささやかなものだ。
意識を集中すれば感覚が少し鋭くなって、周辺の虫や動物の動きを感じ取れる程度でしかない。
ジョルジュやヤヨイさんのように、精霊と心を通わせて、その力を使う事ができるなんていうのは本当に特別なんだ。
「なんで、俺に力を貸してくれるんだ?」
自分の体を包む精霊、緑の炎に俺は問いかけた。
だが精霊は何も答えてくれない。ただ炎がゆらゆらと、静かに揺らめいているだけだった。
「・・・・・ありがとう、助かった」
精霊の意思は分からないが、俺が助けられた事は事実だ。
精霊への感謝の気持ちを伝えると、緑の炎は返事をする代わりに、小さくなって消えてしまった。しかし俺の体の中には、それまでなかった新たな熱が宿るのを感じていた。
精霊は消えたのではなく、俺の体に入ったんだ。
まだ俺と一緒にいてくれるのか・・・・・
言葉が聞こえるわけではない。だけど精霊が俺の力になってくれる事は分かった。
一人じゃない・・・そう感じられる事が嬉しくて、俺はまた前を向いて歩き出した。
そして今の黒渦がショックとなって、俺は頭が冷えて落ち着きを取り戻す事もできた。
おそらく王子の黒渦が暴走・・・いや、王子は黒渦はもう自分でも制御できないと言っていた。
という事は、黒渦はもう己の意思を持って、自由に動いていると考えたほうがいい。
そうでなければ、首都から離れたこの森に突然現れるはずがない。
エンスウィル城の上空で見た黒渦と、今俺の前に現れた黒渦は大きさがまるで違っていたし、存在感も比べ物にならなかった。これはどういう事か?分裂しているという事だろうか?
多分当たらずとも遠からずだ。闇そのものが黒渦だと考えれば、この夜の闇全てが黒渦と言ってもいいだろう。小さな分身体くらい、いくらでも作り出せるはずだ。
なぜこの森で、虫も動物も一切の気配が感じられないのか分かった。
黒渦が全て食い殺したんだ。闇はどこにでも存在するのだから、逃げ場など無いのだ。
唯一闇を退けられる方法があるとすれば、おそらく光だ。
光無くして、闇に打ち勝つ事はできないだろう。
「・・・師匠はこうなる可能性を見越して、光魔法の研究を始めたのか・・・」
師匠、ジャニス・・・俺一人でも完成させられるかな?
自分の両手を見つめて、心の中で二人の顔を思い浮かべた。
師匠・・・・・ジャニス・・・・・
俺は最後までやりとげられるだろうか・・・・・
ぐっと目を瞑って首を横に振った。
いや、弱気になるな、完成させなければならないんだ。何年かかろうとも俺が完成させるんだ。
この黒渦には炎も氷も、今ある魔法の一切は通用しないだろう。
だけど光魔法ならば可能性はある。俺がこの闇と戦うには絶対に必要な力だ。
「そして・・・」
俺は右手を胸に当てた。ほのかに感じる、自分のものではない熱は精霊の炎。
精霊の炎は黒渦にも通用した。
俺の光魔法はまだ未完成で使い物にならないが、精霊の力があれば、闇に対抗する事ができるかもしれない。
この時の俺は、精霊の力に希望の光を見ていた。
それからしばらく歩き続けたが、森を抜けるまで、黒渦が俺の前に再び現れる事は無かった。
俺の中の精霊の炎を感じ取って、警戒しているのかもしれない。
そうだとすれば、黒渦が意思を持った魔法という仮説は、ますます確信を深める事になる。
今現れないからと言って、夜の闇の中では常に見られていると考えた方がいい。
いつどこで襲われるか分からない。周囲への注意を怠ってはいけない。
気を張って歩き続けると疲労も大きい。
森を抜けて首都まで続く街道を見つけた頃、やっと空が白み始めた。
空腹も重なって体力の限界だった俺は、少し大きい一本の樹を背にして腰を下ろし、目を閉じて息をついた。
自分が思っている以上に、疲れていたんだと思う。
少し体を休めるだけのつもりだったが、いつの間にか眠ってしまったんだ。
そして俺は夢を見た。
とても温かく・・・そして悲しい夢を・・・・・
加護を受けていると言っても、ほんのささやかなものだ。
意識を集中すれば感覚が少し鋭くなって、周辺の虫や動物の動きを感じ取れる程度でしかない。
ジョルジュやヤヨイさんのように、精霊と心を通わせて、その力を使う事ができるなんていうのは本当に特別なんだ。
「なんで、俺に力を貸してくれるんだ?」
自分の体を包む精霊、緑の炎に俺は問いかけた。
だが精霊は何も答えてくれない。ただ炎がゆらゆらと、静かに揺らめいているだけだった。
「・・・・・ありがとう、助かった」
精霊の意思は分からないが、俺が助けられた事は事実だ。
精霊への感謝の気持ちを伝えると、緑の炎は返事をする代わりに、小さくなって消えてしまった。しかし俺の体の中には、それまでなかった新たな熱が宿るのを感じていた。
精霊は消えたのではなく、俺の体に入ったんだ。
まだ俺と一緒にいてくれるのか・・・・・
言葉が聞こえるわけではない。だけど精霊が俺の力になってくれる事は分かった。
一人じゃない・・・そう感じられる事が嬉しくて、俺はまた前を向いて歩き出した。
そして今の黒渦がショックとなって、俺は頭が冷えて落ち着きを取り戻す事もできた。
おそらく王子の黒渦が暴走・・・いや、王子は黒渦はもう自分でも制御できないと言っていた。
という事は、黒渦はもう己の意思を持って、自由に動いていると考えたほうがいい。
そうでなければ、首都から離れたこの森に突然現れるはずがない。
エンスウィル城の上空で見た黒渦と、今俺の前に現れた黒渦は大きさがまるで違っていたし、存在感も比べ物にならなかった。これはどういう事か?分裂しているという事だろうか?
多分当たらずとも遠からずだ。闇そのものが黒渦だと考えれば、この夜の闇全てが黒渦と言ってもいいだろう。小さな分身体くらい、いくらでも作り出せるはずだ。
なぜこの森で、虫も動物も一切の気配が感じられないのか分かった。
黒渦が全て食い殺したんだ。闇はどこにでも存在するのだから、逃げ場など無いのだ。
唯一闇を退けられる方法があるとすれば、おそらく光だ。
光無くして、闇に打ち勝つ事はできないだろう。
「・・・師匠はこうなる可能性を見越して、光魔法の研究を始めたのか・・・」
師匠、ジャニス・・・俺一人でも完成させられるかな?
自分の両手を見つめて、心の中で二人の顔を思い浮かべた。
師匠・・・・・ジャニス・・・・・
俺は最後までやりとげられるだろうか・・・・・
ぐっと目を瞑って首を横に振った。
いや、弱気になるな、完成させなければならないんだ。何年かかろうとも俺が完成させるんだ。
この黒渦には炎も氷も、今ある魔法の一切は通用しないだろう。
だけど光魔法ならば可能性はある。俺がこの闇と戦うには絶対に必要な力だ。
「そして・・・」
俺は右手を胸に当てた。ほのかに感じる、自分のものではない熱は精霊の炎。
精霊の炎は黒渦にも通用した。
俺の光魔法はまだ未完成で使い物にならないが、精霊の力があれば、闇に対抗する事ができるかもしれない。
この時の俺は、精霊の力に希望の光を見ていた。
それからしばらく歩き続けたが、森を抜けるまで、黒渦が俺の前に再び現れる事は無かった。
俺の中の精霊の炎を感じ取って、警戒しているのかもしれない。
そうだとすれば、黒渦が意思を持った魔法という仮説は、ますます確信を深める事になる。
今現れないからと言って、夜の闇の中では常に見られていると考えた方がいい。
いつどこで襲われるか分からない。周囲への注意を怠ってはいけない。
気を張って歩き続けると疲労も大きい。
森を抜けて首都まで続く街道を見つけた頃、やっと空が白み始めた。
空腹も重なって体力の限界だった俺は、少し大きい一本の樹を背にして腰を下ろし、目を閉じて息をついた。
自分が思っている以上に、疲れていたんだと思う。
少し体を休めるだけのつもりだったが、いつの間にか眠ってしまったんだ。
そして俺は夢を見た。
とても温かく・・・そして悲しい夢を・・・・・
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