異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
979 / 1,357

【978 黒い声】

しおりを挟む
タジームよ、その心の全てを闇に染めろ。
お前が生み出した闇に全てを委ねるのだ。

お前の生まれ育った故郷は焼け落ち、最も大切にしていた弟も死んだ。

もうお前には何も無い。

この地を護る理由は無くなったのだ。
だから何も気にする必要はない。その膨大な魔力の全てを解き放て。


この闇の渦で全てを食らいつくせ・・・・・




頭に直接聞こえて来る声は、不快なものではなかった。

それどころかこの声を聞いていると、俺の心の苦しみが不思議とやわらいだ。
そして声は、俺がどうすべきなのかを教えてくれた。

もう戦争は終わりだ。

勝敗をつけろというのならば、国王を失ったカエストゥスの敗北だ。
民もいなくなり町も燃えた、この国はもうお終いだ。

だが・・・だからと言ってこの地を、帝国の好きにさせるわけにはいかない。
させていいはずがない。

皇帝、ベン、そしてこの地に来た帝国兵ども、貴様らを生かして帰しはしない。

皆殺しだ。

闇の渦に呑まれ、その身を食らいつくされるがいい。

死して安息があると思うな。
貴様らは闇の一部となり、未来永劫その魂を捕らわれるのだ。


「黒渦よ、全てを呑み込め」



空一面を埋め尽くす渦巻く闇の渦は、まるで俺の意思を汲み取るかのように、その力を強めた。

吹きすさぶ風は空へと昇って行き、渦の中心に吸い込まれていく。
樹々は根本から引き抜かれそうなほどに曲がり、崩れた城の瓦礫も空へと吸い寄せられ、立ち昇っている炎も呑み込まれていった。


必死に城壁にしがみつくベンと、魔力を放出して抵抗する皇帝の姿が目に入ったが、俺の黒渦は耐えていれば凌げるものではない。呑み込まれるのは時間の問題だ。

渦の力はまだまだ強くなる。それこそ限界がないくらいにだ。その気になれば、城を丸ごと呑み込む事も可能だろう。六年前、数百億と言われたバッタを、ほとんど全て喰らいつくしたのがこの黒渦なんだ。人の力で抗えるものではない。


「無駄な抵抗はやめて、貴様らも闇に・・・ん?」
「王子ィィィィィィィィィィーーーーーーーー------ッツ!」


右手を挙げて黒渦に魔力を送り、その力を更に上げる。
皇帝達を一気に呑み込んでやろうとしたその時、俺を呼ぶ何かが猛スピードで飛んで来た。



「・・・・・ウィッカー・・・・・」

数メートル程の距離を開けて、俺の前に立った男はウィッカーだった。
大きく息を切らせて、険しい顔で俺を見ている。

生きていたのか・・・・・

帝国へ行った者達は、みんな死んだと思っていた。


「ハァッ・・・ハァッ・・・お、王子・・・」

「ウィッカー・・・大丈夫か?ボロボロじゃないか」

だいぶ痩せたようだ・・・帝国で敗戦し、ここまでどうやって戻ってきたのか分からないが、そうとう体を酷使して来たんだろう。髪もボサボサだし、その顔には色濃い疲労が見える。

「俺の事はどうでもいいんです!くっ・・・こ、これはもうあの時の比じゃない・・・王子、なぜ黒渦を使ったんですか?今すぐ止めてください!取り返しのつかない事になります!」

ウィッカーは一度空を見上げると、険しい顔で俺に向き直った。
焦りの見えるその表情は、黒渦の圧に恐れを感じているように見える。

確かにウィッカーの言う通りだ。六年前の黒渦は城の上空を覆い隠す程度だった。
だが今回の黒渦は、目に見える全ての空を闇で覆っている。それこそカエストゥス全土まで達しているかもしれない。六年前とは比べ物にならない程巨大だ。


「・・・・・」

「王子、黒渦は危険なんです!カエストゥスそのものが消えてしまうかもしれない!あれは魔法じゃない!この地に生きる生命全てを食らう邪悪なものです!」

強い口調で叫びながら、ウィッカーは上空の黒渦を指差した。


俺はゆっくりと顔を上げて、空に広がる大きな渦をながめた。

黒渦は俺の魔法だ。発動も停止も俺の意思でできる・・・できるはず、だった・・・・・


六年前は数百億のバッタを食らいつくした。
あの時の俺は、ただバッタを殲滅させる事だけを考えていた。
目的さえ遂げればそれでいい。そう考えていたから、周囲が黒渦の危険性を解いても聞く耳を持たなかった。

だが、心のどこかで分かっていた・・・・・


ああ・・・そうだな、ウィッカー・・・お前の言う通りだ。
この魔法は使ってはいけない魔法なんだろう。


さっき聞こえた声、あれはおそらく黒渦の声だ。
魔法である黒渦の声というのもおかしな表現だが、俺はそう感じている。

黒渦は意思を持つ魔法・・・つまり、生きている魔法なのかもしれない。

六年前のあの日、黒渦は喰らった数百億のバッタの命を取り込んだんだ。
そして、擦りつぶされ、細切れにされたバッタの怨念をも宿したがゆえに、六年前よりも邪悪な闇の渦へと変貌を遂げたのだろう。



「・・・ウィッカー・・・弟が・・・・・マルコが死んだんだ」

正面に立つウィッカーの目を見て、俺は静かに告げた。

「えッ!?マ、マルコ様、が?・・・そんな・・・」

動揺するウィッカーは、歯を噛み締め、悲痛な面持ちで地上に目を向けた。
黒渦の引き寄せる風に抵抗し耐えている、皇帝とベンを視界に収め睨み付ける。
あの二人がやったと思っているのだろう。

「くっ・・・帝国め!マルコ様まで・・・」


「俺が殺したんだ」


ウィッカーは顔を上げて、俺を凝視した。
信じられない言葉を聞いたというように、瞬きすらせずにただ俺の顔をじっと見ている。


「ウィッカー・・・俺がマルコを殺したんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です 詳細説明 生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。 そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。 そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。 しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。 赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。 色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。 家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。 ※小説家になろう様でも投稿しております

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ぽっちゃりおっさん異世界ひとり旅〜目指せSランク冒険者〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
酒好きなぽっちゃりおっさん。 魔物が跋扈する異世界で転生する。 頭で思い浮かべた事を具現化する魔法《創造魔法》の加護を貰う。 《創造魔法》を駆使して異世界でSランク冒険者を目指す物語。 ※以前完結した作品を修正、加筆しております。 完結した内容を変更して、続編を連載する予定です。

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜

赤井水
ファンタジー
 クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。  神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。  洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。  彼は喜んだ。  この世界で魔法を扱える事に。  同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。  理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。  その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。  ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。  ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。 「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」  今日も魔法を使います。 ※作者嬉し泣きの情報 3/21 11:00 ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング) 有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。 3/21 HOT男性向けランキングで2位に入れました。 TOP10入り!! 4/7 お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。 応援ありがとうございます。 皆様のおかげです。 これからも上がる様に頑張ります。 ※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz 〜第15回ファンタジー大賞〜 67位でした!! 皆様のおかげですこう言った結果になりました。 5万Ptも貰えたことに感謝します! 改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった! ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

処理中です...