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理太郎

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【976 タジームの絶望】

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一目見れば分かる。マルコはすでに息絶えていると・・・・・

マルコの額の真ん中に空いた穴から、とめどなく血が流れ落ち、地面に赤い染みを作っているのだ。
見開いた目はあらぬ方向を見つめているが、そこに生命の光はない。ただ目を開けているだけだ。

その体が動く事はもう二度とないだろう。


弟、マルコの命の火は消えたのだ・・・・・


「俺が・・・殺した、のか・・・・・」


弟を・・・マルコを、俺が・・・俺が殺したのか?


「そうだ。タジームよ、貴様は自分の弟をその手で殺したのだ。ふははははは、どうだ?どんな気分だ?これでカエストゥスはお終いだ。即位したばかりの新国王まで失っては、もう民も絶望しかないだろう?この戦争帝国の勝ちだッ!貴様も死ね!タジーム!」

腹に刺さったナイフを、ベンがより深く抉るように突き刺してきた。

「うっ・・・・ガァッ!」

強烈な痛みが腹から全身を駆け巡る。下半身から力が抜けて、俺は膝から崩れ落ちた。
込み上げてくるものを吐き出すと、手の平に真っ赤な色が付いた。

「ふははははは!そうだ!それだよタジーム!貴様のその絶望した顔が見たかったのだ!」

地面に座り込み、動かなくなった弟を茫然と見つめる。
そんな俺をベンは見下ろしながら嘲笑った。


「・・・・・・・・・・・」


何も言葉が出て来なかった。俺は絶対に護らなくてはならない弟を護れなかった。

いや、違う・・・護れなかったんじゃない・・・・・俺が殺したんだ・・・・・

その事実が途方もなく重くのしかかり、俺の心を凍り付かせた。


「くっくっく、どうやらショックのあまり言葉も出んらしいな。タジーム、俺は貴様が産まれた時から見て来た。貴様がどんな人間かよく分かっている。貴様は不愛想で言葉も少ないからよく誤解されているが、貴様は自分が認めた人間を見捨てる事はしない。そしてその反対に、敵に対しては一切の容赦が無い。マルコを人質にとろうとも、俺がマルコを刺すより早く、俺を殺すだろう事は予想ができていたんだよ。だからあらかじめ俺がマルコに、マルコが俺に見える幻覚を使っていたんだ。そして俺が姿を見せれば、貴様は怒りにまかせて撃ってくるだろうと読んでいた。分かるかタジーム?貴様は最初から俺の手の平の上で踊らされていたんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉー------ッツ!」



・・・・・・・だまれ


ベンの声が俺の脳を掻きまわす。
頭がぐちゃぐちゃでどうにかなりそうだった。ひどく気持ちが悪くなり、俺は地面に手をついて・・・吐いた。

血を含んだ赤い吐しゃ物が巻き散らかされる。腹部の痛みと治まらない吐き気に、俺は体を支えている事ができず、倒れ込んだ。



「おいおいおいおいおいおい!タジィー--ムゥー---!みっともねぇなぁおい!立てよ!立って見せろよ!弟を殺した事がそんなにショックだったのか!?そうだよ!お前が殺したんだよ!可哀そうになぁ!あいつ俺が捕らえた時、お前の名を呼ばなかったんだぜ。なんでだと思う?お前を皇帝との戦いに集中させたかったんだろうなぁ、俺に捕まった間抜けな自分が、兄貴の戦いまで足を引っ張っちゃだめだと思ったんだろう。健気だねぇ・・・そんな兄思いの弟をお前が殺したんだよぉぉぉぉぉー---ー!」



・・・・・・・だまれ



自分の吐いた血と吐しゃ物にまみれながら、俺はそれでも目の前の弟から目を離す事はできなかった。

命の火が消えて、もう動かなくなった弟・・・・・

俺が護ると言ったのに・・・・・マルコだけは絶対に護ると誓ったのに・・・・・


俺がマルコを殺した

殺してしまった


俺が弟を殺したんだ・・・・・・・・・


「・・・・・国は燃えた・・・・・孤児院も無くなった・・・・・弟も死んだ・・・・・」


「あ?・・・どうしたタジーム?なんか言った・・・なっ、タ、タジーム、き、貴様!?」



地面を抉るように爪を立て、砂を掴みながら肘を立てて体を起こした。


こんなにも心が冷えたのは初めてだ。

父に捨てられた時だって、ここまで絶望はしなかった。


マルコ・・・・・お前は俺の全てだった。


俺のために涙を流し、俺のために怒り、俺を信じ・・・・・・・俺が殺した



全身を駆け巡る魔力がドロドロと黒いものに変わっていく事が分かる

魔力とはその人間の内面を映す鏡とも言われている
清い心の者が使えば輝きを増し、悪しき心を持った者が使えば、暗く黒い闇に染まっていく


今の俺の魔力がどんな色か・・・・・闇そのものだろう

誰かをここまで憎んだ事は初めてだ

戦争をしかけてきた皇帝ローランド・ライアン
裏切り者のベン・フィング

貴様らも当然許しはしない


だが、俺が一番許せないのは・・・・・・

弟と気付かずに撃ってしまった俺が許せない


俺は俺を決して許さない

この命を持ってマルコに償おう

だが、俺が命を絶つ前にまだやる事がある


「この世界から帝国を消す」



両手の平を胸の前で向かい合わせ、闇に染まった魔力を練る
向かい合わせた手のひらの空いた空間に、黒い波動が渦巻き出すと、それは徐々に大きさを増し、大人の頭程の球体となった。


「お、おい!タジーム!き、貴様なにをしている!?そ、それは、まさかッ!?やめろぉぉぉぉぉ-------ッ!」




出来上がった球体を上空に飛ばす
それは城よりも高く上がり、やがて小さな点に見えるくらいにまでなった



「呑み込め・・・黒渦」



その言葉を合図に魔力が解放されると、球体は一瞬のうちに空一面に広がる、巨大な渦巻く闇となった
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