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【974 冷たく静かな殺意】
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一瞬の出来事だった。
この土地を欲している皇帝が、あえて町に向けて撃つなど予想すらしなかった。
皇帝が光源爆裂弾を撃った直後、タジームは僅かな時間だが頭の中が真っ白になり、指先一つ動かせなかった。
そして一瞬の後に、耳をつんざく大爆音で我に返ったタジームが目にしたものは、灰色の空を吹き飛ばす程の、強烈な光を発した大爆発だった。
台風を思わせる程の爆風が吹き荒れ、巨大な黒煙が空まで立ち昇る。
「ハーハッハッハッハッハッ!燃えろ!燃えてしまえ!余のものにならんのならば、この国も燃えて無くなればいいのだ!」
まるで殴りつけられるような爆風に体を打たれながらも、皇帝は高らかに笑い声を上げた。
己の手に入らないのならば、存在してはならない。他の誰かが持っているなど許してはならない。
勝負では完全にタジームの勝ちだった。
だが皇帝は敗北したとしても、このまま終わるつもりはない。終わらせる気は無い。
タジームの大切なものを全て壊すつもりだった。
「ハーハッハッハッハッハ!どうだタジーム!見たか!?もう数発撃ちこんでやれば、この国も焼け野原だな!どんな気分だ!?貴様は俺に勝っても何も護る事はできないんだ!この燃える町を眺めながら絶望するといい!」
頭の上からぶつけられる嘲笑と暴言は、耳には入っていた。
だが今、自分が目にしている光景が信じられず、言葉の意味を頭で理解する事ができなかった。
「おい、タジーム!なんとか言ったらどうなんだ?ショックが大きすぎて言葉も出て来ないのか!?」
呆然と立ち尽くすタジームを見下ろしながら、皇帝は再び両手に魔力を集め始めた。
今日だけですでに四発もの光源爆裂弾を撃っている。
魔力の消耗は相当なものだった。だが皇帝は五発目の魔力を練り始めた。
魔力を練るスピードは落ちてきたが、それでも短時間で五発もの光源爆裂弾を練れる事は、皇帝が大陸最強の一角に数えられる謂れでもあった。
「だったらそこで見ていろ!カエストゥスが滅びるところ・・・ッツ!?」
一瞬にして目の前に現れたタジームに、皇帝は目を見開いた。
動きがまるで見えなかった。たった今まで自分に見下ろされていたタジームが、まるで瞬間移動でもしたのかと思う程、突如目の前に現れたのだ。
驚きのあまり皇帝が絶句した次の瞬間・・・・・
「がァッッッッッ・・・・・!」
腹にめり込んだ拳に、胃が押し潰され、肺の中の空気が全て押し出された。
背骨が砕けるかと思う程の衝撃は、背中を突き抜けて呼吸が止まる程だった。
「・・・・・」
皇帝の腹から引き抜いたタジームの拳には、魔力が込められて強い光を放っていた。
魔力を込めた拳で殴る。ただそれだけの行為だが、タジームの魔力を直接ぶつけられた皇帝は、意識が飛びそうになる程のダメージを受けた。
「ぐぅ・・・げほぉッ・・・・う・・・はぁ・・・はぁ・・・・・」
体を丸めて、腹を押さえてよろめきながら後ずさる。
すぐにでも倒れ込みたい衝動にかられるが、皇帝としての意地がローランド・ライアンを立たせていた。
「こ・・・この・・・きさがふぁッ!」
顔を上げた瞬間、タジームの右拳が皇帝の左頬にめり込んだ。
首がもげるかと思う程の衝撃は、皇帝の脳を大きく揺さぶった。
風魔法の制御を失い飛んでいる事ができなくなった皇帝は、地上へと落下していった。
「・・・・・」
皇帝が地面に激突し砂煙が巻き上がるが、タジームは一言も口にせず、ただ凍り付くような冷たい目で見つめるだけだった。
「ぐっ・・・がはっ・・・・・はぁっ!はぁっ!・・・・・」
咳き込むと、唾液と一緒に血が吐き出された。
激突の瞬間に魔力を放出して、かろうじて衝撃を和らげる事ができたが、それでも全身を貫いた衝撃に体中が痺れて動けなくなった。
「こ・・・ここまで・・・・とは・・・・・」
虫の鳴くような声でそれだけ呟くと、皇帝は空から降りて来る黒髪の男に目を向けた。
悪魔王子タジーム・ハメイド。
皇帝である自分と互角。どっちが強いのか?裏でそう言われている事は知っていた。
くだらない戯言だと思っていた。
大陸一の軍事国家、ブロートン帝国の頂点に君臨する己こそが最強に決まっている。
そう信じて疑う事はなかった。
だが、現実は違っていた。
音も無く地面に降り立つと、タジームは両手両足を投げ出して倒れている皇帝に目を向けた。
「・・・・・」
やはり言葉は発しない。
しかし冷たく皇帝を見るその目が、ハッキリと告げていた。
お前を殺す・・・・・と。
タジームは静かに足を踏み出した。皇帝に向かって一歩、また一歩と歩を進める。
ゆっくりと近づいて来る砂利を踏む音は、まるで死の宣告のように皇帝には聞こえた。
「・・・き、さま・・・なんぞ・・・に、殺られる・・・とは、な・・・・・」
顔に影が降りる。
自分を見下ろすタジームを見上げる。この時皇帝は死を覚悟した。
タジームは皇帝を見下ろしたまま何も答えなかった。
ただ、殺意の満ちた冷たい目で皇帝を見下ろしたまま、魔力を込めた右手の平を向けた。
これを撃って終わりだ。
長かった戦争に決着が着く。大勢の犠牲が出た。かけがえのない仲間、そして家族を失った。
皇帝を討っても返って来る事はない・・・・・
憎い仇の首を飛ばす事ができるというのに、タジームの心にはぽっかりと穴が空いたような、虚しさだけが広がっていた・
「・・・・・死ね」
強く鋭い殺気をその目に込めて、皇帝に魔力を撃ち放とうとしたその時・・・・・
「そこまでだタジィーーーームゥーーーーーーッツ!」
聞き覚えのある声に振り返ったタジームの目に映ったのは、首に腕を回されてぐったりとしている弟マルコと、ギラリと光るナイフを握り、狂気の笑みを浮かべている裏切り者のベン・フィングだった。
この土地を欲している皇帝が、あえて町に向けて撃つなど予想すらしなかった。
皇帝が光源爆裂弾を撃った直後、タジームは僅かな時間だが頭の中が真っ白になり、指先一つ動かせなかった。
そして一瞬の後に、耳をつんざく大爆音で我に返ったタジームが目にしたものは、灰色の空を吹き飛ばす程の、強烈な光を発した大爆発だった。
台風を思わせる程の爆風が吹き荒れ、巨大な黒煙が空まで立ち昇る。
「ハーハッハッハッハッハッ!燃えろ!燃えてしまえ!余のものにならんのならば、この国も燃えて無くなればいいのだ!」
まるで殴りつけられるような爆風に体を打たれながらも、皇帝は高らかに笑い声を上げた。
己の手に入らないのならば、存在してはならない。他の誰かが持っているなど許してはならない。
勝負では完全にタジームの勝ちだった。
だが皇帝は敗北したとしても、このまま終わるつもりはない。終わらせる気は無い。
タジームの大切なものを全て壊すつもりだった。
「ハーハッハッハッハッハ!どうだタジーム!見たか!?もう数発撃ちこんでやれば、この国も焼け野原だな!どんな気分だ!?貴様は俺に勝っても何も護る事はできないんだ!この燃える町を眺めながら絶望するといい!」
頭の上からぶつけられる嘲笑と暴言は、耳には入っていた。
だが今、自分が目にしている光景が信じられず、言葉の意味を頭で理解する事ができなかった。
「おい、タジーム!なんとか言ったらどうなんだ?ショックが大きすぎて言葉も出て来ないのか!?」
呆然と立ち尽くすタジームを見下ろしながら、皇帝は再び両手に魔力を集め始めた。
今日だけですでに四発もの光源爆裂弾を撃っている。
魔力の消耗は相当なものだった。だが皇帝は五発目の魔力を練り始めた。
魔力を練るスピードは落ちてきたが、それでも短時間で五発もの光源爆裂弾を練れる事は、皇帝が大陸最強の一角に数えられる謂れでもあった。
「だったらそこで見ていろ!カエストゥスが滅びるところ・・・ッツ!?」
一瞬にして目の前に現れたタジームに、皇帝は目を見開いた。
動きがまるで見えなかった。たった今まで自分に見下ろされていたタジームが、まるで瞬間移動でもしたのかと思う程、突如目の前に現れたのだ。
驚きのあまり皇帝が絶句した次の瞬間・・・・・
「がァッッッッッ・・・・・!」
腹にめり込んだ拳に、胃が押し潰され、肺の中の空気が全て押し出された。
背骨が砕けるかと思う程の衝撃は、背中を突き抜けて呼吸が止まる程だった。
「・・・・・」
皇帝の腹から引き抜いたタジームの拳には、魔力が込められて強い光を放っていた。
魔力を込めた拳で殴る。ただそれだけの行為だが、タジームの魔力を直接ぶつけられた皇帝は、意識が飛びそうになる程のダメージを受けた。
「ぐぅ・・・げほぉッ・・・・う・・・はぁ・・・はぁ・・・・・」
体を丸めて、腹を押さえてよろめきながら後ずさる。
すぐにでも倒れ込みたい衝動にかられるが、皇帝としての意地がローランド・ライアンを立たせていた。
「こ・・・この・・・きさがふぁッ!」
顔を上げた瞬間、タジームの右拳が皇帝の左頬にめり込んだ。
首がもげるかと思う程の衝撃は、皇帝の脳を大きく揺さぶった。
風魔法の制御を失い飛んでいる事ができなくなった皇帝は、地上へと落下していった。
「・・・・・」
皇帝が地面に激突し砂煙が巻き上がるが、タジームは一言も口にせず、ただ凍り付くような冷たい目で見つめるだけだった。
「ぐっ・・・がはっ・・・・・はぁっ!はぁっ!・・・・・」
咳き込むと、唾液と一緒に血が吐き出された。
激突の瞬間に魔力を放出して、かろうじて衝撃を和らげる事ができたが、それでも全身を貫いた衝撃に体中が痺れて動けなくなった。
「こ・・・ここまで・・・・とは・・・・・」
虫の鳴くような声でそれだけ呟くと、皇帝は空から降りて来る黒髪の男に目を向けた。
悪魔王子タジーム・ハメイド。
皇帝である自分と互角。どっちが強いのか?裏でそう言われている事は知っていた。
くだらない戯言だと思っていた。
大陸一の軍事国家、ブロートン帝国の頂点に君臨する己こそが最強に決まっている。
そう信じて疑う事はなかった。
だが、現実は違っていた。
音も無く地面に降り立つと、タジームは両手両足を投げ出して倒れている皇帝に目を向けた。
「・・・・・」
やはり言葉は発しない。
しかし冷たく皇帝を見るその目が、ハッキリと告げていた。
お前を殺す・・・・・と。
タジームは静かに足を踏み出した。皇帝に向かって一歩、また一歩と歩を進める。
ゆっくりと近づいて来る砂利を踏む音は、まるで死の宣告のように皇帝には聞こえた。
「・・・き、さま・・・なんぞ・・・に、殺られる・・・とは、な・・・・・」
顔に影が降りる。
自分を見下ろすタジームを見上げる。この時皇帝は死を覚悟した。
タジームは皇帝を見下ろしたまま何も答えなかった。
ただ、殺意の満ちた冷たい目で皇帝を見下ろしたまま、魔力を込めた右手の平を向けた。
これを撃って終わりだ。
長かった戦争に決着が着く。大勢の犠牲が出た。かけがえのない仲間、そして家族を失った。
皇帝を討っても返って来る事はない・・・・・
憎い仇の首を飛ばす事ができるというのに、タジームの心にはぽっかりと穴が空いたような、虚しさだけが広がっていた・
「・・・・・死ね」
強く鋭い殺気をその目に込めて、皇帝に魔力を撃ち放とうとしたその時・・・・・
「そこまでだタジィーーーームゥーーーーーーッツ!」
聞き覚えのある声に振り返ったタジームの目に映ったのは、首に腕を回されてぐったりとしている弟マルコと、ギラリと光るナイフを握り、狂気の笑みを浮かべている裏切り者のベン・フィングだった。
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