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【971 怒りと憎しみ】
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「なんだとッ!?」
皇帝は目を剥いて驚きをあらわにした。
上級魔法に匹敵する程の破壊力を秘めた、己の爆裂空破弾が片手で受け止められ、更にそのまま押し返されたのだ。
信じられない!
だが事実として撃ち放った爆裂空破弾が、今度は自身に押し迫って来る。
ほんの瞬き程の一瞬の後に着弾する。
避けようにも逃げ場がないくらいに巨大な光弾である。迎撃しようにもこの距離では自分も巻き込まれる。
どうする!?
「ぐぬぉぉぉぉぉぉぉぉー--------ッツ!」
皇帝の絶叫と同時に、玉座の間が吹き飛ばされた。
「・・・くっ、あ、兄上!」
タジームの後ろ、玉座の前で戦いを見ていたマルコ・ハメイドは、眼前で起きた大爆発の衝撃から、結界で身を護っていた。
マルコ・ハメイドには青魔法使いとしての才能があった。
新たな魔道具を作り出すセンスもあり、前国王ラシーン・ハメイドが殺害された時、自身で作った魔道具で犯人を突き止めた実績もある。
だが戦闘経験は皆無である。
いかに才能があろうとも、王族という立場ゆえに護られてきたマルコには、この場では自分の身を護るだけで精一杯だった。
爆風が押し寄せ、気を抜くと結界が解けてしまいそうな衝撃の中、マルコは部屋の中央に立つ兄の背中を見た。
実戦経験の無い自分にも、皇帝の魔力がずば抜けている事は分かる。
それは同じ黒魔法使いの、ウィッカーさえも凌いでいるだろう。
兄タジームが強い事は知っているし、皇帝よりも強いと信じている。
だが今自分の目の前では、想像を大きく超える事態が起きていた。
あの皇帝を相手に、ここまで一方的に打ちのめせるものなのか?
「す、すごい・・・兄上は本当にすごい・・・これなら・・・これなら勝てる!」
この時、マルコ・ハメイドは兄の背中に勝利を見ていた。
爆裂空破弾を片手で受け止め、押し返すと言う離れ業さえやってのけるタジームが、ここから敗北する姿など想像さえできなかった。
しかしマルコ・ハメイドは兄の戦いに目を奪われ、周りが見えなくなっていた。
今この場にはタジームと皇帝、そして自分以外にももう一人いるのだが、兄の戦いと、自分の結界に集中するあまり、もう一人への注意が切れてしまっていた。
本当に注意しなければならない男、裏切り者のベン・フィングへの注意を・・・・・
濛々と立ち込める爆風が風に消えていく。
押し返した爆裂空破弾によって、玉座の間は半分程吹き飛ばされていた、
そのため障害物が無くなり、タジームの目には今のカエストゥスの町がハッキリと映った。
爆炎で灰色に染まった空。燃え盛る炎が容赦なく町を焼いている。
崩れ落ちた建物、燃やされへし折られた樹々は、真っ黒な炭となって転がっている。
個性的で美しかった町は、見るも無残なものになっていた。
「・・・これが・・・カエストゥス、なのか・・・・・」
眼前に広がる光景に、タジームはその黒い瞳を揺らして言葉を失った。
外の様子は部下からの報告で聞いてはいた。自分も城内から外の様子をうかがってはいたが、あらためて見るとあまりの凄惨さにショックが大きかった。
「・・・・・帝国め」
強い怒りと憎しみを込めたその一言は、とても重く響いた。
力を入れ過ぎたのか、握り締めた拳から血が滴り落ちて、床に赤い染みを作った。
この血はタジームの涙であり、カエストゥスを想う彼の心だった。
そして顔を上げて、怒りをぶつけるべき相手を睨みつけた。
足に風を纏い上空に浮いているのは、皇帝ローランド・ライアン。
オールバックに撫でつけられていた金色の髪は乱れ、額から流れる血液が顔の半分を赤く染めている。
深紅のローブはボロキレとなり、繊維の切れ端が体に引っ掛かっているような状態である。
頬や体からは赤黒い煙が立ち昇り、それが爆発によって負わされたダメージだと見て取れる。
「皇帝、貴様は殺すぞ」
ゾッとする程冷たい目で皇帝を見据えるタジーム。
お前に対する一切の容赦はない。タジームの黒い瞳がそう告げていた。
「タジーム・・・ハメイド・・・・・よくも・・・・・」
上空に立つ皇帝は、タジームの視線を正面から受け止め、そして睨み返した。
押し返された爆裂空破弾。
皇帝は着弾の瞬間に魔力開放を使い、魔力で己を護り、爆発の衝撃を可能な限り流した。
タイミングがギリギリだったため、全てを防げたわけではないが、それでもダメージは最小限に抑えていた。
「・・・降りてこないのか?空中戦が望みならやってやろう」
睨み合うタジームと皇帝。
降りて来る気配のない皇帝を見て、タジームは足に風を纏わせると、ゆっくりと上空へ上がっていった。
「・・・タジーム・ハメイド、やってくれたな・・・」
己の前に立ったタジームに、怒りを滲ませた言葉をぶつける。
「寝ぼけているのか?その程度では足りんな。貴様には本当の痛みというものを教えてやる」
タジームもさっきまでとは表情が違っていた。
その目にはハッキリと殺意が宿り、言葉の端々にまで怒りが満ちていた。
カエストゥス国首都エンスウィル城の空で、大陸最強と謳われた男が二人、鋭い視線をぶつけ合い火花を散らしていた。
皇帝は目を剥いて驚きをあらわにした。
上級魔法に匹敵する程の破壊力を秘めた、己の爆裂空破弾が片手で受け止められ、更にそのまま押し返されたのだ。
信じられない!
だが事実として撃ち放った爆裂空破弾が、今度は自身に押し迫って来る。
ほんの瞬き程の一瞬の後に着弾する。
避けようにも逃げ場がないくらいに巨大な光弾である。迎撃しようにもこの距離では自分も巻き込まれる。
どうする!?
「ぐぬぉぉぉぉぉぉぉぉー--------ッツ!」
皇帝の絶叫と同時に、玉座の間が吹き飛ばされた。
「・・・くっ、あ、兄上!」
タジームの後ろ、玉座の前で戦いを見ていたマルコ・ハメイドは、眼前で起きた大爆発の衝撃から、結界で身を護っていた。
マルコ・ハメイドには青魔法使いとしての才能があった。
新たな魔道具を作り出すセンスもあり、前国王ラシーン・ハメイドが殺害された時、自身で作った魔道具で犯人を突き止めた実績もある。
だが戦闘経験は皆無である。
いかに才能があろうとも、王族という立場ゆえに護られてきたマルコには、この場では自分の身を護るだけで精一杯だった。
爆風が押し寄せ、気を抜くと結界が解けてしまいそうな衝撃の中、マルコは部屋の中央に立つ兄の背中を見た。
実戦経験の無い自分にも、皇帝の魔力がずば抜けている事は分かる。
それは同じ黒魔法使いの、ウィッカーさえも凌いでいるだろう。
兄タジームが強い事は知っているし、皇帝よりも強いと信じている。
だが今自分の目の前では、想像を大きく超える事態が起きていた。
あの皇帝を相手に、ここまで一方的に打ちのめせるものなのか?
「す、すごい・・・兄上は本当にすごい・・・これなら・・・これなら勝てる!」
この時、マルコ・ハメイドは兄の背中に勝利を見ていた。
爆裂空破弾を片手で受け止め、押し返すと言う離れ業さえやってのけるタジームが、ここから敗北する姿など想像さえできなかった。
しかしマルコ・ハメイドは兄の戦いに目を奪われ、周りが見えなくなっていた。
今この場にはタジームと皇帝、そして自分以外にももう一人いるのだが、兄の戦いと、自分の結界に集中するあまり、もう一人への注意が切れてしまっていた。
本当に注意しなければならない男、裏切り者のベン・フィングへの注意を・・・・・
濛々と立ち込める爆風が風に消えていく。
押し返した爆裂空破弾によって、玉座の間は半分程吹き飛ばされていた、
そのため障害物が無くなり、タジームの目には今のカエストゥスの町がハッキリと映った。
爆炎で灰色に染まった空。燃え盛る炎が容赦なく町を焼いている。
崩れ落ちた建物、燃やされへし折られた樹々は、真っ黒な炭となって転がっている。
個性的で美しかった町は、見るも無残なものになっていた。
「・・・これが・・・カエストゥス、なのか・・・・・」
眼前に広がる光景に、タジームはその黒い瞳を揺らして言葉を失った。
外の様子は部下からの報告で聞いてはいた。自分も城内から外の様子をうかがってはいたが、あらためて見るとあまりの凄惨さにショックが大きかった。
「・・・・・帝国め」
強い怒りと憎しみを込めたその一言は、とても重く響いた。
力を入れ過ぎたのか、握り締めた拳から血が滴り落ちて、床に赤い染みを作った。
この血はタジームの涙であり、カエストゥスを想う彼の心だった。
そして顔を上げて、怒りをぶつけるべき相手を睨みつけた。
足に風を纏い上空に浮いているのは、皇帝ローランド・ライアン。
オールバックに撫でつけられていた金色の髪は乱れ、額から流れる血液が顔の半分を赤く染めている。
深紅のローブはボロキレとなり、繊維の切れ端が体に引っ掛かっているような状態である。
頬や体からは赤黒い煙が立ち昇り、それが爆発によって負わされたダメージだと見て取れる。
「皇帝、貴様は殺すぞ」
ゾッとする程冷たい目で皇帝を見据えるタジーム。
お前に対する一切の容赦はない。タジームの黒い瞳がそう告げていた。
「タジーム・・・ハメイド・・・・・よくも・・・・・」
上空に立つ皇帝は、タジームの視線を正面から受け止め、そして睨み返した。
押し返された爆裂空破弾。
皇帝は着弾の瞬間に魔力開放を使い、魔力で己を護り、爆発の衝撃を可能な限り流した。
タイミングがギリギリだったため、全てを防げたわけではないが、それでもダメージは最小限に抑えていた。
「・・・降りてこないのか?空中戦が望みならやってやろう」
睨み合うタジームと皇帝。
降りて来る気配のない皇帝を見て、タジームは足に風を纏わせると、ゆっくりと上空へ上がっていった。
「・・・タジーム・ハメイド、やってくれたな・・・」
己の前に立ったタジームに、怒りを滲ませた言葉をぶつける。
「寝ぼけているのか?その程度では足りんな。貴様には本当の痛みというものを教えてやる」
タジームもさっきまでとは表情が違っていた。
その目にはハッキリと殺意が宿り、言葉の端々にまで怒りが満ちていた。
カエストゥス国首都エンスウィル城の空で、大陸最強と謳われた男が二人、鋭い視線をぶつけ合い火花を散らしていた。
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