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【964 その力は】
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裏切り者のベン・フィング。
この男のせいで、カエストゥスはここまで追い詰められたと言ってもいいだろう。
6年前、こいつは師匠と闘技場で決闘した。
師匠は結界しか使わないと言うハンデ戦だったが、実力差は明白だった。
追い詰められたベン・フィングは、闘技場に忍ばせていた刺客を使い、師匠の命を狙ったが失敗し、その罪を問われて職を解かれ、牢に入れられていたのだ。
「・・・催眠か幻覚、それが貴様の魔道具だな?」
間違いないだろう。ベンが牢屋を出て、城の外まで逃れる方法は、それ以外に考えられない。
断定した言い方に、ベンは一瞬驚いたように目を開いたが、すぐにニヤリと笑い言葉を返して来た。
「ふん、大方の当たりは付けていたようだな?確信を持っているようだし、ここまで来て隠してもしかたない。認めよう・・・お前の考えている通りだ。この魔道具は俺の体に埋め込んである。それゆえに牢に入れられた時の身体検査でも見つからなかったんだ。もっとも、もう少し厳しく調べられたら見つかっていたと思うが、それは貴様らの緩慢さが招いた結果だ」
段上の俺を見上げながら、ベンは指先を突きつけて嗤った。
確かにその通りだ。
体内に埋め込む魔道具・・・そこまで考えて念入りに調べるべきだった。
そうしていれば、この戦争ももっと違った結果になっていたはずだ。
だが、過ぎた事をいつまでも悔やんでいてもしかたない。
今ここにある現実が全てだ。だからこの現実を前にして、できる事をやるだけだ。
俺にはそれしかできない。
「死ね」
まだ嗤っているベンに右手の平を向けて、即座に氷の槍を撃ち放った。
「なっ!?」
まさかいきなり撃たれると思っていなかったベンは、驚きの声を上げる。
だが俺の刺氷弾はベンに刺さる寸前で、横からぶつけられた魔力によって、空中で粉々に打ち砕かれた。
「・・・・・」
俺の刺氷弾を砕いた男、ベンの一歩前に立つ皇帝を無言で睨みつける。
「タジーム、そう急ぐ事もなかろう?お互いに主力はおろか、兵達もほぼ壊滅状態。もはや余と貴様の一騎打ちで決着をつけるしかない。少しくらい話しをしてもよいのではないか?」
「貴様と話す事などなにもない。貴様ら帝国に殺されたカエストゥスの人々に、ここで死んで詫びろ」
「殺されたのは帝国の人間も同じだと思うがね?」
「戦争を仕掛けてきたのは貴様らだ」
「同じだよ。結局は貴様らも帝国兵を殺した。そこに後も先も無い」
言葉の一つ一つが俺の神経を逆撫でする。
元々非を認めるとは思っていないが、戦争をしかけた国がしかけられた国に対して、同類だと言わんばかりの言葉には、我慢できないものがあった。
両手に魔力を集めて戦闘態勢に入ると、マルコは一歩俺から距離を取った。
「兄上・・・どうかご武運を」
祈るようなマルコの言葉を背に受け、俺は正面を向いたまま頷き返した。
任せろ、マルコ。
俺は戦う事しかできない。昔はなんで自分には、こんな化け物じみた魔力があるのか?
こんな魔力が無ければ誰にも疎まれる事も無かったのにと、己の力を憎んだ時もあった。
だがな・・・・・
「フッ、さすがはタジーム・ハメイドだ。その魔力、悪魔王子と呼ばれるのも納得だ」
そんな挑発にも、昔は一つ一つにイラつかされた。
だが今はもうどうでもいい・・・くだらねぇよ。
「俺がなんのためにこの魔力を持って生まれたのか・・・今やっと分かったよ」
皇帝に向けて、明確に敵意を放った。
魔力を乗せたソレは、突風の如き圧で皇帝の体を打ち付ける。
周囲の貴族連中は俺の魔力に気圧され、腰を抜かす者まで出てくる。
とても同じ空間にはいられないと判断し、一人また一人と、兵士に支えられながら足早に玉座の間を出て行った。
「・・・突然どうした?タジーム、貴様はその魔力ゆえに父親からも恐れられ、使用人からは蔑まれてきたのだろう?聞いているぞ、城には居場所がなく、ブレンダンの孤児院に身を寄せていたそうではないか?王族として産まれたのに惨めなものだな?タジーム、貴様のその力は悪魔の呪いだ。貴様の人生を狂わせた呪いの力なのだよ!貴様は悪魔の子として産まれたのだ!」
「違う!」
俺に指を突きつけた皇帝に、下がっていたマルコが前に出て叫んだ。
「兄上は悪魔じゃない!兄上の力は呪いじゃない!兄上は人間だ!私のたった一人の兄なんだ!お前なんかが兄上の人生を決めつけるなぁー---------ッツ!」
弟がここまで怒りをあらわにしたところは、見た事がなかった。
俺のためか・・・
芯の強さは分かっていた。貴族連中にも臆せずものを言えて、自分をしっかり持っている事も知っていた。
だがまるで女性のように線が細く、穏やかな顔立ちから、殴り合いの喧嘩なんかはできそうにないと思っていたのに・・・それがどうだ?
歯を食いしばり、険しい顔で皇帝を睨みつけている姿は、今にも掴み掛りそうじゃないか。
マルコ・・・俺のためにそこまで怒ってくれるのか・・・・・
「フン、よく吠えるな。マルコ・ハメイド、そんなに兄が大切か?ならば寂しくないように、二人まとめて殺してやろう!」
皇帝の体から強烈な魔力が放出され、俺達の体を打ち付けて来る。
「ぐっ!」
「マルコ、結界を張って下がっていろ」
皇帝の魔力の圧はマルコには厳しい。
マルコも分かっているのだろう、何か言いたそうに俺に目を向けたが、自分に結界を張って後ろに下がった。
「皇帝、俺は悪魔じゃない。俺のこの力は・・・・・」
次から次に放出される皇帝の魔力が俺を叩きつけて来るが、この程度では俺は何も感じない。
俺は魔力を込めた右手を払い、皇帝の魔力をかき消した。
「なにっ!?」
あっさりと魔力を払われた事に、驚きの表情を見せる皇帝。
俺はその目を正面から見据えた。
マルコ、お前が俺を信じてくれるから、俺は自信を持ってこう言えるんだ。
「俺の力はカエストゥスを護るための力だ」
この男のせいで、カエストゥスはここまで追い詰められたと言ってもいいだろう。
6年前、こいつは師匠と闘技場で決闘した。
師匠は結界しか使わないと言うハンデ戦だったが、実力差は明白だった。
追い詰められたベン・フィングは、闘技場に忍ばせていた刺客を使い、師匠の命を狙ったが失敗し、その罪を問われて職を解かれ、牢に入れられていたのだ。
「・・・催眠か幻覚、それが貴様の魔道具だな?」
間違いないだろう。ベンが牢屋を出て、城の外まで逃れる方法は、それ以外に考えられない。
断定した言い方に、ベンは一瞬驚いたように目を開いたが、すぐにニヤリと笑い言葉を返して来た。
「ふん、大方の当たりは付けていたようだな?確信を持っているようだし、ここまで来て隠してもしかたない。認めよう・・・お前の考えている通りだ。この魔道具は俺の体に埋め込んである。それゆえに牢に入れられた時の身体検査でも見つからなかったんだ。もっとも、もう少し厳しく調べられたら見つかっていたと思うが、それは貴様らの緩慢さが招いた結果だ」
段上の俺を見上げながら、ベンは指先を突きつけて嗤った。
確かにその通りだ。
体内に埋め込む魔道具・・・そこまで考えて念入りに調べるべきだった。
そうしていれば、この戦争ももっと違った結果になっていたはずだ。
だが、過ぎた事をいつまでも悔やんでいてもしかたない。
今ここにある現実が全てだ。だからこの現実を前にして、できる事をやるだけだ。
俺にはそれしかできない。
「死ね」
まだ嗤っているベンに右手の平を向けて、即座に氷の槍を撃ち放った。
「なっ!?」
まさかいきなり撃たれると思っていなかったベンは、驚きの声を上げる。
だが俺の刺氷弾はベンに刺さる寸前で、横からぶつけられた魔力によって、空中で粉々に打ち砕かれた。
「・・・・・」
俺の刺氷弾を砕いた男、ベンの一歩前に立つ皇帝を無言で睨みつける。
「タジーム、そう急ぐ事もなかろう?お互いに主力はおろか、兵達もほぼ壊滅状態。もはや余と貴様の一騎打ちで決着をつけるしかない。少しくらい話しをしてもよいのではないか?」
「貴様と話す事などなにもない。貴様ら帝国に殺されたカエストゥスの人々に、ここで死んで詫びろ」
「殺されたのは帝国の人間も同じだと思うがね?」
「戦争を仕掛けてきたのは貴様らだ」
「同じだよ。結局は貴様らも帝国兵を殺した。そこに後も先も無い」
言葉の一つ一つが俺の神経を逆撫でする。
元々非を認めるとは思っていないが、戦争をしかけた国がしかけられた国に対して、同類だと言わんばかりの言葉には、我慢できないものがあった。
両手に魔力を集めて戦闘態勢に入ると、マルコは一歩俺から距離を取った。
「兄上・・・どうかご武運を」
祈るようなマルコの言葉を背に受け、俺は正面を向いたまま頷き返した。
任せろ、マルコ。
俺は戦う事しかできない。昔はなんで自分には、こんな化け物じみた魔力があるのか?
こんな魔力が無ければ誰にも疎まれる事も無かったのにと、己の力を憎んだ時もあった。
だがな・・・・・
「フッ、さすがはタジーム・ハメイドだ。その魔力、悪魔王子と呼ばれるのも納得だ」
そんな挑発にも、昔は一つ一つにイラつかされた。
だが今はもうどうでもいい・・・くだらねぇよ。
「俺がなんのためにこの魔力を持って生まれたのか・・・今やっと分かったよ」
皇帝に向けて、明確に敵意を放った。
魔力を乗せたソレは、突風の如き圧で皇帝の体を打ち付ける。
周囲の貴族連中は俺の魔力に気圧され、腰を抜かす者まで出てくる。
とても同じ空間にはいられないと判断し、一人また一人と、兵士に支えられながら足早に玉座の間を出て行った。
「・・・突然どうした?タジーム、貴様はその魔力ゆえに父親からも恐れられ、使用人からは蔑まれてきたのだろう?聞いているぞ、城には居場所がなく、ブレンダンの孤児院に身を寄せていたそうではないか?王族として産まれたのに惨めなものだな?タジーム、貴様のその力は悪魔の呪いだ。貴様の人生を狂わせた呪いの力なのだよ!貴様は悪魔の子として産まれたのだ!」
「違う!」
俺に指を突きつけた皇帝に、下がっていたマルコが前に出て叫んだ。
「兄上は悪魔じゃない!兄上の力は呪いじゃない!兄上は人間だ!私のたった一人の兄なんだ!お前なんかが兄上の人生を決めつけるなぁー---------ッツ!」
弟がここまで怒りをあらわにしたところは、見た事がなかった。
俺のためか・・・
芯の強さは分かっていた。貴族連中にも臆せずものを言えて、自分をしっかり持っている事も知っていた。
だがまるで女性のように線が細く、穏やかな顔立ちから、殴り合いの喧嘩なんかはできそうにないと思っていたのに・・・それがどうだ?
歯を食いしばり、険しい顔で皇帝を睨みつけている姿は、今にも掴み掛りそうじゃないか。
マルコ・・・俺のためにそこまで怒ってくれるのか・・・・・
「フン、よく吠えるな。マルコ・ハメイド、そんなに兄が大切か?ならば寂しくないように、二人まとめて殺してやろう!」
皇帝の体から強烈な魔力が放出され、俺達の体を打ち付けて来る。
「ぐっ!」
「マルコ、結界を張って下がっていろ」
皇帝の魔力の圧はマルコには厳しい。
マルコも分かっているのだろう、何か言いたそうに俺に目を向けたが、自分に結界を張って後ろに下がった。
「皇帝、俺は悪魔じゃない。俺のこの力は・・・・・」
次から次に放出される皇帝の魔力が俺を叩きつけて来るが、この程度では俺は何も感じない。
俺は魔力を込めた右手を払い、皇帝の魔力をかき消した。
「なにっ!?」
あっさりと魔力を払われた事に、驚きの表情を見せる皇帝。
俺はその目を正面から見据えた。
マルコ、お前が俺を信じてくれるから、俺は自信を持ってこう言えるんだ。
「俺の力はカエストゥスを護るための力だ」
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