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【963 裏切り者との対峙】
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「マルコ・・・怪我はないか?」
「は、はい・・・兄上が護ってくれたおかげです」
城が大きく揺さぶられるような強い衝撃だった。
マルコは立っている事ができず転びそうになると、タジームが手を伸ばして受け止めた。
割れた窓ガラスが頭上から降りかかってくるが、タジームが視線を向けて僅かな魔力を飛ばすと、ソレらはあっけなく粉砕された。
「兄上、この衝撃は・・・まさか?」
立ち上がったマルコは、立った今城を襲った強い衝撃について、タジームに目で問いかけた。
「ああ、多分お前の考えている通りだ。ロペスが敗れ、皇帝が光源爆裂弾を撃ったようだ。もう兵も残っていないだろう・・・マルコ、俺の傍から離れるなよ?」
タジームは言い聞かせるように、強い視線をマルコに向けた。
有無を言わさぬ口調だが、自分の近くが最も安全だという事は間違ってはいなかった。
普段からあまり表情の変化を見せないが、それでも今のタジームの顔が強張っている事は、はっきりと見てとれた。
「はい、もちろんです兄上。私一人でどこかに逃げられるはずもありません。最後まで兄上と共に戦います」
「・・・いい返事だ」
新国王となった弟から感じる覚悟と決意。その熱量に頼もしさを感じて、タジームは僅かに目を細めた。
やはり国王はマルコしかいない。この戦争で受けた被害は甚大だ。優秀な人材も多く失った。
再建には気の遠くなるような年月がかかるだろう。だが、それでも、マルコがいれば国を再建できる。
道を示す王がいれば、民は立ち上がる事ができる。
だからこそ、マルコを失うわけにはいかないんだ。
「へ、陛下!ど、どうするんですか!?このままでは・・・」
玉座の間、マルコ達より数段下には、集まった貴族達が不安を露わにしながら、この窮地を脱する方法を求めていた。
彼らは資産家であり、多くの兵を持っている。だからこそ今この場にいるわけだが、ロペスと違い己の命を投げ打ってまで戦う気概は持ち合わせていない。
沢山の兵を出したのだから、それで自分達の役目は果たした。そこから先は他人任せである。
「落ち着きなさい。確かに状況は厳しい。だがそれは帝国も同じです。帝国は師団長が壊滅状態、そして現在は皇帝が前に出て戦っているのです。我らにも十分勝機は残っているのです」
静かな声だった。だがそれはこの場にいる何十人もの貴族、そして兵士達の耳にハッキリと届き、口々に不安を漏らす彼らをピタリと黙らせた。
これが王たる者の気概か・・・・・
つい先日まで自信の無さを見せていた弟だったが、今のこの変化はどうだ?
毅然とした態度で敵の侵略に立ち向かおうとしている。
我が弟ながら大したものだ。
それに比べてこいつらはどうだ?
近づいて来る脅威に不安と心配を浮き彫りにし、怯え戸惑っているだけだ。
貴族連中が口を閉じた事を見て、俺はマルコに向き直った。
「マルコ、ここからは俺の仕事だ。時期に皇帝はここに来る。ヤツは俺が殺す」
「兄上、最後は兄上頼みになってしまいますが、私も逃げずにここに立ちます!共に皇帝を迎え打ちましょう!」
俺は黙って頷くと、逞しく成長した弟の肩に手を置いた。
強すぎる魔力ゆえに、俺は幼い頃から忌み嫌われていた。
大人になってもそれは変わらなかった。この場にいる貴族連中だって、今だに俺を疎んじている。
だが俺は一人ではなかった。
師匠、ウィッカー、ジャニス・・・孤児院で共に暮らしたみんなは、俺を家族として迎えてくれた。
そしてマルコ・・・お前は俺を兄として受け入れてくれた。
あの日、お前は俺に会いに来てくれた。俺がお前のために戦う理由はそれで十分だ。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッツ!」
玉座の間の扉が爆音と共に破壊され、貴族達の悲鳴が響き渡った。
天井にまで吹き飛ばされたドアや壁の破片が、バラバラと落ちて来る。
兵士達は盾を構え、それらから貴族達を護った。
あちこちから悲鳴が上がる中、爆煙の中から姿を現したその男は、ゆっくりと赤い絨毯の上に足を乗せた。そして散らばったガラスやドアの破片を踏み砕きながら、一歩一歩、玉座に向かい近づいて来た。
「・・・来たか、皇帝」
「お久しぶりですな、国王マルコ・ハメイド、そしてその兄タジーム・ハメイド」
部屋の中央で足を止めた皇帝は、口の端を持ち上げ歪んだ笑みを浮かべた。
そしてもう一人、皇帝の一歩後ろに控える男を見て、俺の心は凍てつくように冷えていった。
「ベン・フィング・・・よくこの場に顔を出せたものだな?」
「ふっふっふ、何を世迷言を?生まれ故郷に帰って来る事の何がおかしい?」
ざらりと耳に触るような、気色の悪い笑い声だった。
だが声は笑っていても、俺を睨みつけるその目には、殺意と復讐の炎が激しく燃え上がっていた。
「は、はい・・・兄上が護ってくれたおかげです」
城が大きく揺さぶられるような強い衝撃だった。
マルコは立っている事ができず転びそうになると、タジームが手を伸ばして受け止めた。
割れた窓ガラスが頭上から降りかかってくるが、タジームが視線を向けて僅かな魔力を飛ばすと、ソレらはあっけなく粉砕された。
「兄上、この衝撃は・・・まさか?」
立ち上がったマルコは、立った今城を襲った強い衝撃について、タジームに目で問いかけた。
「ああ、多分お前の考えている通りだ。ロペスが敗れ、皇帝が光源爆裂弾を撃ったようだ。もう兵も残っていないだろう・・・マルコ、俺の傍から離れるなよ?」
タジームは言い聞かせるように、強い視線をマルコに向けた。
有無を言わさぬ口調だが、自分の近くが最も安全だという事は間違ってはいなかった。
普段からあまり表情の変化を見せないが、それでも今のタジームの顔が強張っている事は、はっきりと見てとれた。
「はい、もちろんです兄上。私一人でどこかに逃げられるはずもありません。最後まで兄上と共に戦います」
「・・・いい返事だ」
新国王となった弟から感じる覚悟と決意。その熱量に頼もしさを感じて、タジームは僅かに目を細めた。
やはり国王はマルコしかいない。この戦争で受けた被害は甚大だ。優秀な人材も多く失った。
再建には気の遠くなるような年月がかかるだろう。だが、それでも、マルコがいれば国を再建できる。
道を示す王がいれば、民は立ち上がる事ができる。
だからこそ、マルコを失うわけにはいかないんだ。
「へ、陛下!ど、どうするんですか!?このままでは・・・」
玉座の間、マルコ達より数段下には、集まった貴族達が不安を露わにしながら、この窮地を脱する方法を求めていた。
彼らは資産家であり、多くの兵を持っている。だからこそ今この場にいるわけだが、ロペスと違い己の命を投げ打ってまで戦う気概は持ち合わせていない。
沢山の兵を出したのだから、それで自分達の役目は果たした。そこから先は他人任せである。
「落ち着きなさい。確かに状況は厳しい。だがそれは帝国も同じです。帝国は師団長が壊滅状態、そして現在は皇帝が前に出て戦っているのです。我らにも十分勝機は残っているのです」
静かな声だった。だがそれはこの場にいる何十人もの貴族、そして兵士達の耳にハッキリと届き、口々に不安を漏らす彼らをピタリと黙らせた。
これが王たる者の気概か・・・・・
つい先日まで自信の無さを見せていた弟だったが、今のこの変化はどうだ?
毅然とした態度で敵の侵略に立ち向かおうとしている。
我が弟ながら大したものだ。
それに比べてこいつらはどうだ?
近づいて来る脅威に不安と心配を浮き彫りにし、怯え戸惑っているだけだ。
貴族連中が口を閉じた事を見て、俺はマルコに向き直った。
「マルコ、ここからは俺の仕事だ。時期に皇帝はここに来る。ヤツは俺が殺す」
「兄上、最後は兄上頼みになってしまいますが、私も逃げずにここに立ちます!共に皇帝を迎え打ちましょう!」
俺は黙って頷くと、逞しく成長した弟の肩に手を置いた。
強すぎる魔力ゆえに、俺は幼い頃から忌み嫌われていた。
大人になってもそれは変わらなかった。この場にいる貴族連中だって、今だに俺を疎んじている。
だが俺は一人ではなかった。
師匠、ウィッカー、ジャニス・・・孤児院で共に暮らしたみんなは、俺を家族として迎えてくれた。
そしてマルコ・・・お前は俺を兄として受け入れてくれた。
あの日、お前は俺に会いに来てくれた。俺がお前のために戦う理由はそれで十分だ。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッツ!」
玉座の間の扉が爆音と共に破壊され、貴族達の悲鳴が響き渡った。
天井にまで吹き飛ばされたドアや壁の破片が、バラバラと落ちて来る。
兵士達は盾を構え、それらから貴族達を護った。
あちこちから悲鳴が上がる中、爆煙の中から姿を現したその男は、ゆっくりと赤い絨毯の上に足を乗せた。そして散らばったガラスやドアの破片を踏み砕きながら、一歩一歩、玉座に向かい近づいて来た。
「・・・来たか、皇帝」
「お久しぶりですな、国王マルコ・ハメイド、そしてその兄タジーム・ハメイド」
部屋の中央で足を止めた皇帝は、口の端を持ち上げ歪んだ笑みを浮かべた。
そしてもう一人、皇帝の一歩後ろに控える男を見て、俺の心は凍てつくように冷えていった。
「ベン・フィング・・・よくこの場に顔を出せたものだな?」
「ふっふっふ、何を世迷言を?生まれ故郷に帰って来る事の何がおかしい?」
ざらりと耳に触るような、気色の悪い笑い声だった。
だが声は笑っていても、俺を睨みつけるその目には、殺意と復讐の炎が激しく燃え上がっていた。
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