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【960 見守っていてくれた】

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男が4人、女が3人、全員黒魔法使い。
なんともバランスの悪い集団だ。七人全員が黒魔法使いとは、回復と防御はどうする?

魔道具でなんとかするにしても、一個の塊で行動するにはバランスが悪いとしか言えない。

しかし魔法使いには、稀にこういうチームがいる事はいる。
ウィッカーやジャニスのように、系統の違う師を持つ事も少なからずある。
だが魔法使いは、基本的には同系統の魔法使いを師に持つのだ。

そして同じ師の元で育った弟子達が、師の元を離れた後もそのまま共に行動するようになるのだ。
チームのバランスよりも絆。苦楽を共にして、心から信頼できる仲間達と行動する。

戦いにおけるバランスは悪い。けれどそういう気持ちは分からなくはない。



私の前に立って話しているこの赤い髪の女、アニーがどうやらこのチームのリーダーらしい。
自分が代表して話す意思を見せるように、一歩前に進み出て来た。

「そうか、あんたらが私を助けてくれたんだね。ありがとう・・・それで・・・・・」

思い出した。
あの時・・・孤児院に戻ったあの時、突然強烈な光が目に入って・・・そして・・・・・

ここに私しかいないという事は、おそらく・・・・・

怖い。聞きたくない。だけど聞かないわけにはいかない。


「・・・・・他のみんなは?」


覚悟を決めてたずねる。アニーは目を逸らさなかった。
私の視線を正面から受け取め、そして静かに口を開いた。


「私達が見つけたのはリンダ様だけでした。他には誰も・・・・・」


目の前が真っ暗になるとは、こういう事なのだろう。

予想はしていた事だった。

だけど心のどこかでみんなも無事でいて、その扉の向こうから、ひょっこり姿を見せてくれるのではないか・・・そう、期待していた。

「・・・・・そっか・・・・・・・・」

駄目だ・・・何も、言葉が・・・・・出てこない。
ニコラ・・・メアリー・・・ティナちゃん・・・子供達みんな・・・・・・・
みんなが死んだなんて信じられない・・・信じたくない。



ベットから上半身を起こしたまま、俯いてしまった私のところへ、アニーが近づいてきた。

「・・・リンダ様、お身体に障りますよ」

腰の辺りに落ちている毛布を取ると、アニーは私の体を包むようにかけてくれた。
毛布は温かいけれど、私の心は冷え切っていた。

「・・・ねぇ、なんで私だけ助かったのかな?」

あの時の光・・・一瞬だったが、あれはおそらく爆発魔法だ。それも上級魔法の光源爆裂弾。
あれほどの魔法をぶつけられて、なんで私だけが生き残れたのだろう?
光源爆裂弾の強烈な衝撃を受けて、私は一瞬で気を失ってしまったらしく、なんで自分が助かったのかまったく分からない。

私の疑問に、アニーは答えを持っていなかった。
けれど目を伏せて少し考える仕草を見せた後、これは推測ですが、と念を押して話し始めた。


「・・・私達がリンダ様を見つけた時、お体が光っているように見えました。辺り一帯が爆発の炎で焼かれているのに、リンダ様の周りだけ火が避けているような、近づけないような・・・あの時は私達もいっぱいいっぱいでしたので、見間違いだったのかもしれません。でも・・・まるで何かに護られているような・・・そんなふうに感じました」

優しい声音で話すアニー。心から私を気遣っている事が伝わって来る。

「・・・護られている?」

言葉をそのまま返すと、アニーは静かに頷いた。

「はい、私はそう感じました。私達がリンダ様に近づくと、まるで炎が避けるように道ができたんです。それから倒れているリンダ様をカイルが背負い、町の外へ脱出するまで、火の手が私達には及びませんでした。今思うと、まるで外までの道が作られているようでした」

そこまで話して、アニーは後ろを振り返った。
するとクセの強い赤茶色の髪の男が、頷いて前に出て来た。

「俺がカイルです。リンダ様を背負っている時、俺も何か不思議な力を感じました。うまく言えませんけど、何かに護られていたっていうのは、間違いないと思うんです。あれだけ激しい火の中で、俺達の進む先だけ道ができてたんですから・・・」

そこまで話すと、カイルの言葉を引き取って、アニーが話しを続けた。


「リンダ様・・・あなたを助けてくれる存在に、思い当たる事はありませんか?」


胸が大きく高鳴った。

まさか・・・・・いや、でも・・・・・それしか考えられない。
少し目立ってきたお腹に、そっと手を当てる。

私とドミニクの子供・・・育ち始めている新しい命を確かに感じる。

奇跡でも起きない限り、あの爆撃を受けて、五体満足で生き残れるはずがない。
でも私は生き残った。お腹の赤ちゃんも無事だ。


そっか・・・・・ずっと、ずっと見守っててくれたんだ・・・・・・・


「ド、ドミニク・・・・・・うぅ・・・・・あぁぁぁぁぁ・・・・・・・」


泣き出した私を、アニーは何も言わずに優しく抱きしめてくれた。


ドミニク・・・・・
私は、生きなきゃ駄目なんだよね

みんな死んじゃった
だけど私は母親なんだから、産まれてくる子と一緒に、どんなに辛くても生きなきゃならない

ニコラ・・・メアリー・・・みんな・・・・・・・





それから私はアニー達と一緒に国を出た。

最初、私は一人で行動しようとしたが、身重の私を一人にはできないと説得され、出産して落ち着くまでは一緒にいる事になったのだ。

行先はロンズデールにした。
今回の戦争で中立だった、クインズベリーかロンズデール、どちらかに亡命しようという話しになり、私はロンズデールの友人を思い出した。

アラルコン商会のレオネラ・アラルコン。

彼女なら助けてくれるのではないだろうか。
カエストゥスの私達を受け入れたら、もしかしたら迷惑をかけてしまうかもしれない。
それは考えたけれど、他に行く当てもなかった。

だから、一度だけ頼ってみよう。

もしレオネラが、私達を受け入れる事に少しでも迷いを見せたら諦めよう。

そう決めて私達はロンズデールを目指した。
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