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【953 クラレッサの微笑み】

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その日の朝は、前日までの吹雪が嘘のように和らぎ、雲の隙間から久しぶりに晴れ間が覗いた。

けれど、長く続いた吹雪がせっかく治まったというのに外は物々しく、窓の外を行く兵隊さん達はみんな、武器を構えて険しい顔をしていた。



「クラレッサちゃん、行くんですか?」

白いローブを羽織るクラレッサちゃんの背中に、私は声をかけた。
さっきカエストゥスの兵隊さんが孤児院を訪れて、多数の負傷兵が出たから治療に参加してほしいという要請がきたのだ。

どうやら町の入り口の方で、帝国軍との戦いが始まったらしい。
ここはある程度離れているから、まだ帝国軍も来ていないけれど、時間の問題だろう。


「・・・はい、私はそのためいますから・・・」

クラレッサちゃんは、少しだけ躊躇うように唇を結んだあと、寂し気な笑みを浮かべて言葉を返した。

こうなる事は分かっていた。彼女は軍の要請には応えなければならないのだから。
それに、要請がなくても行っていたと思う。彼女はこれまで帝国で犯して来た罪を、人を助ける事で償おうとしているのだから。


「・・・クラレッサちゃん、忘れないでください。私達はいつも一緒ですよ」

本当は止めたかった。でも、止められない。
治療は彼女の贖罪であり、生きる目的にもなっているのだから。

止める事はできない。だから私はクラレッサちゃんを抱きしめた。

気持ちだけは伝えたいから。彼女が一人ではないと伝えたいから。

どんなに離れていても、私達は一緒なんだから。


「クラレッサちゃん・・・忘れないでください。私達は家族なんですからね」

「・・・メアリーさん・・・・・はい。絶対に忘れません」

背中に回した手に、ぎゅっと力を入れた。
クラレッサちゃんも私を抱きしめてくれた。

涙で声を震わせながら何度何度も、忘れない、絶対に忘れない、と口にした。

分かってるんだ。この玄関を開けて外に出れば、多分もう会えない。

だからこれが最後なんだ。



リンダさん、ニコラさん、トロワ君、キャロルちゃん、そして子供達全員と抱き合って、クラレッサちゃんは孤児院を出た。


クラレッサちゃんは外にを出てから、一度だけ振り返った

腰まである白く長い髪が風になびく
黒い瞳を細め、口元には優しい笑みを浮かべていた


そして一言だけ・・・・・


みんな大好き

そう言ってクラレッサちゃんは、戦場へと走った



私達が彼女と再会する事は無かった

なぜならそれからほんの数時間後、帝国軍が孤児院を襲撃して来たのだから
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