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【948 覚悟の違い】
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何百何千と降り注ぐ氷の槍、そしてそれを弾く結界との衝突音は、割れんばかりに強く帝国兵の耳を打った。短い時間ならばいい。だが絶え間なく続く衝突音の大きさは、兵士達の集中を少なからず乱していた。
上空からの刺氷弾は、単に注意を引き付けるだけが目的ではない。
では他にはどんな狙いがあったのか?それは音で音を隠す事。ロペスの上級魔法、トルネード・バーストが、風を斬り裂き、大地を削る轟音を消すためであった。
「むっ!?」
最初に気付いたのは皇帝だった。
目の前に迫った竜巻の如き風の刃は、青魔法使い達が張った結界さえも粉砕する程の破壊力を秘めている。絶大な魔力をほこる皇帝とて、喰らえばただではすまない。
いくつもの誘導で帝国の注意を反らし、必殺の一撃をぶつけるというロペスの策は功を奏した・・・かに見えた。
「フン、やはりな」
馬鹿め、なかなか良い策だったが、流石に長過ぎだ。
結界で弾かれると分かっている刺氷弾を、なぜこうも撃ち続ける?
なにか他に狙いがあると思って当然だろう?なによりこの程度で余を殺れるとは思っていまい?
どこかで大技を使ってくると思っていたぞ。
「魔法兵ども!正面が破られたらそのまま結界を解け!余が撥ね返す!」
皇帝が叫んだその時、耳をつんざく破壊音と共に、ロペスのトルネードバーストが帝国の結界を突き破った!
「ぬるいわァァァァー---ーッツ!」
眼前まで迫りくる巨大な風の渦!だが叫びと共に放出された皇帝のドス黒い魔力は、ロペスのトルネードバーストを正面から受け止めると、そのまま上空へと弾き飛ばした!
「フハハハハハ!どうだ、小賢しい策を練っても最後には強い者が勝つのだ・・・っ!?」
「同感だ。結局勝った者が強かった。戦いとはそういうものだ」
風の上級魔法トルネードバーストが弾き飛ばされると、その後ろから黒いローブを纏った老齢の男が現れ、皇帝に飛び掛かった。
「なにィィィィィー---ッツ!?」
ロペスのトルネードバーストを弾いた皇帝は勝利を確信した。
最初の爆発魔法のぶつかり合い、そこからの奇襲のような戦法に驚かされもしたが、このトルネードバーストを弾けば、あとは数で上回る帝国が蹂躙するだけだ。結局最後に上をいくのは皇帝である自分だと。
ロペスのトルネードバーストには、この一撃に全てを懸けていると、そう思わせる程の気迫があった。
大きさ、破壊力共に申し分なかった。事実帝国の結界を破壊しており、皇帝が弾かず直撃していれば、帝国軍は甚大な被害を受けていただろう。
確かにロペスはこのトルネードバーストを、全身全霊の魔力を込めて撃った。
だがそれでも皇帝には届かないだろう。万一にでも直撃すれば良し、だがロペスは防がれると見ていた。
最初からロペスは己の魔力で勝てるとは思っていない。
だからこその特攻である。皇帝を押さえる事ができれば勝算はある。
なぜならロペスの魔道具は、接近しなければ使えないからである。
どうだ皇帝!?
さすがに貴様でも、魔法使いの俺が特攻して来る事までは読めなかっただろ?
トルネードバーストは最初から俺を隠すための盾だ!本命は・・・
「俺の本命はこいつだァァァー----ッツ!」
魔法使いである皇帝は、言うまでもなく身体能力は一般人と変わりない。
突然現れ飛び掛かってきたロペスを、躱す事はできなかった。
躱せないと瞬時に悟った皇帝は、咄嗟に両腕を上げて頭部を護った。
ロペスがナイフなどの武器を持っていた場合、即死さえしなければ白魔法使いのヒールで回復が可能だからである。頭部に突き立てられる事さえ防げればいい。それが皇帝の判断だった。
しかしロペスとて、それは百も承知である。
魔法使いが魔法使いに接近戦をしかけるのだ、皇帝の読みは正しい。だがそれは常識にとらわれた想像である。命を懸けて皇帝に挑んだロペスが、誰でも予想できる手段をとるだろうか?
常識の外、そして覚悟の違い。
かけがえのない友を、多くの部下を失って、どうして自分だけ助かろうと思えるだろう?
皇帝・・・俺はな、てめぇを殺れるなら、自分の命なんて惜しくねぇんだよ!
正面から皇帝の体に飛びつくと、両腕を脇の下に入れて背中に回して押さえつける!
「チィッ!」
裏をかかれ、体を押さえられた事に舌を打つ。
だがロペスの両腕は皇帝の脇の下であり、皇帝は両腕を自由に動かせる。動きを封じるという意味では不完全だった。まして皇帝は魔法使い。両手を封じない限り、ロペスの行動は無意味といっていい。
「馬鹿め!死ねィッツ!」
両手に氷の魔力を集中させて氷の槍を作り出すと、そのままロペスの背中に突き刺そうと振り上げた。
「馬鹿は貴様だ皇帝!」
初手からここまで計算していたロペスの行動は、一切の迷いが無く早かった。
皇帝が槍を振り下ろすよりも早く、ロペスの全身から魔力が放出される!
「なッ・・・!?こ、これは!?」
振り下ろそうとした皇帝の両腕が、意に反してビタリとその動きを止めた。
「う・・・動かん!?な、なんだこれは!?魔力開放か?いや、違う!き、貴様、余になにをしたッツ!?」
ロペスの放出した魔力の波動は、ロペスだけでなく皇帝の全身をも覆い、その動きを止めていた。
「驚いたか皇帝?これが俺の魔道具、魔流縛(まりゅうばく)だ。いかなる相手でも、これを受ければ動く事はできなくなる」
皇帝の目を正面から見て、ロペスはニヤリと笑って見せた。
「な、なんだと!?」
動きを封じられるなど想定していなかった。皇帝の目に動揺が走る。
ロペスは表情から笑みを消すと、皇帝の目を見据えたまま、静かに、しかしハッキリと言葉を口にした。
「皇帝、俺とここで死ね」
上空からの刺氷弾は、単に注意を引き付けるだけが目的ではない。
では他にはどんな狙いがあったのか?それは音で音を隠す事。ロペスの上級魔法、トルネード・バーストが、風を斬り裂き、大地を削る轟音を消すためであった。
「むっ!?」
最初に気付いたのは皇帝だった。
目の前に迫った竜巻の如き風の刃は、青魔法使い達が張った結界さえも粉砕する程の破壊力を秘めている。絶大な魔力をほこる皇帝とて、喰らえばただではすまない。
いくつもの誘導で帝国の注意を反らし、必殺の一撃をぶつけるというロペスの策は功を奏した・・・かに見えた。
「フン、やはりな」
馬鹿め、なかなか良い策だったが、流石に長過ぎだ。
結界で弾かれると分かっている刺氷弾を、なぜこうも撃ち続ける?
なにか他に狙いがあると思って当然だろう?なによりこの程度で余を殺れるとは思っていまい?
どこかで大技を使ってくると思っていたぞ。
「魔法兵ども!正面が破られたらそのまま結界を解け!余が撥ね返す!」
皇帝が叫んだその時、耳をつんざく破壊音と共に、ロペスのトルネードバーストが帝国の結界を突き破った!
「ぬるいわァァァァー---ーッツ!」
眼前まで迫りくる巨大な風の渦!だが叫びと共に放出された皇帝のドス黒い魔力は、ロペスのトルネードバーストを正面から受け止めると、そのまま上空へと弾き飛ばした!
「フハハハハハ!どうだ、小賢しい策を練っても最後には強い者が勝つのだ・・・っ!?」
「同感だ。結局勝った者が強かった。戦いとはそういうものだ」
風の上級魔法トルネードバーストが弾き飛ばされると、その後ろから黒いローブを纏った老齢の男が現れ、皇帝に飛び掛かった。
「なにィィィィィー---ッツ!?」
ロペスのトルネードバーストを弾いた皇帝は勝利を確信した。
最初の爆発魔法のぶつかり合い、そこからの奇襲のような戦法に驚かされもしたが、このトルネードバーストを弾けば、あとは数で上回る帝国が蹂躙するだけだ。結局最後に上をいくのは皇帝である自分だと。
ロペスのトルネードバーストには、この一撃に全てを懸けていると、そう思わせる程の気迫があった。
大きさ、破壊力共に申し分なかった。事実帝国の結界を破壊しており、皇帝が弾かず直撃していれば、帝国軍は甚大な被害を受けていただろう。
確かにロペスはこのトルネードバーストを、全身全霊の魔力を込めて撃った。
だがそれでも皇帝には届かないだろう。万一にでも直撃すれば良し、だがロペスは防がれると見ていた。
最初からロペスは己の魔力で勝てるとは思っていない。
だからこその特攻である。皇帝を押さえる事ができれば勝算はある。
なぜならロペスの魔道具は、接近しなければ使えないからである。
どうだ皇帝!?
さすがに貴様でも、魔法使いの俺が特攻して来る事までは読めなかっただろ?
トルネードバーストは最初から俺を隠すための盾だ!本命は・・・
「俺の本命はこいつだァァァー----ッツ!」
魔法使いである皇帝は、言うまでもなく身体能力は一般人と変わりない。
突然現れ飛び掛かってきたロペスを、躱す事はできなかった。
躱せないと瞬時に悟った皇帝は、咄嗟に両腕を上げて頭部を護った。
ロペスがナイフなどの武器を持っていた場合、即死さえしなければ白魔法使いのヒールで回復が可能だからである。頭部に突き立てられる事さえ防げればいい。それが皇帝の判断だった。
しかしロペスとて、それは百も承知である。
魔法使いが魔法使いに接近戦をしかけるのだ、皇帝の読みは正しい。だがそれは常識にとらわれた想像である。命を懸けて皇帝に挑んだロペスが、誰でも予想できる手段をとるだろうか?
常識の外、そして覚悟の違い。
かけがえのない友を、多くの部下を失って、どうして自分だけ助かろうと思えるだろう?
皇帝・・・俺はな、てめぇを殺れるなら、自分の命なんて惜しくねぇんだよ!
正面から皇帝の体に飛びつくと、両腕を脇の下に入れて背中に回して押さえつける!
「チィッ!」
裏をかかれ、体を押さえられた事に舌を打つ。
だがロペスの両腕は皇帝の脇の下であり、皇帝は両腕を自由に動かせる。動きを封じるという意味では不完全だった。まして皇帝は魔法使い。両手を封じない限り、ロペスの行動は無意味といっていい。
「馬鹿め!死ねィッツ!」
両手に氷の魔力を集中させて氷の槍を作り出すと、そのままロペスの背中に突き刺そうと振り上げた。
「馬鹿は貴様だ皇帝!」
初手からここまで計算していたロペスの行動は、一切の迷いが無く早かった。
皇帝が槍を振り下ろすよりも早く、ロペスの全身から魔力が放出される!
「なッ・・・!?こ、これは!?」
振り下ろそうとした皇帝の両腕が、意に反してビタリとその動きを止めた。
「う・・・動かん!?な、なんだこれは!?魔力開放か?いや、違う!き、貴様、余になにをしたッツ!?」
ロペスの放出した魔力の波動は、ロペスだけでなく皇帝の全身をも覆い、その動きを止めていた。
「驚いたか皇帝?これが俺の魔道具、魔流縛(まりゅうばく)だ。いかなる相手でも、これを受ければ動く事はできなくなる」
皇帝の目を正面から見て、ロペスはニヤリと笑って見せた。
「な、なんだと!?」
動きを封じられるなど想定していなかった。皇帝の目に動揺が走る。
ロペスは表情から笑みを消すと、皇帝の目を見据えたまま、静かに、しかしハッキリと言葉を口にした。
「皇帝、俺とここで死ね」
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