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【947 ロペスの狙い】

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「爆裂空破弾か」

帝国軍に向かって撃ち放たれた爆裂空破弾は、並の魔法使いとは比べものにならない程のエネルギーだった。地面を抉り、空気を震わせながら迫り来るその光弾に、帝国の青魔法使い達は目を開いた。
並の結界では防ぎ切れない!そう判断し、天衣結界を張りめぐらせようと身構えた。

「邪魔だ」

その時、皇帝は青魔法使い達を押しのけると、一人前に出て右手を差し向けた。

青魔法使い達を下がらせて、一人で前に出た皇帝にどよめきが広がった。だが皇帝の体から発せられる魔力に、誰もが口を閉じざるをえなかった。

「フン、なかなかの威力だが、余と張り合うにはまだまだよ」

迫りくる爆裂空破弾を大きく超える魔力を放出すると、皇帝の右手が強い光を放った。

「同じ魔法でも余が使えばこうだ!」

ロペスの爆裂空破弾をはるかに上回る、巨大な破壊の光弾が撃ち放たれた!





皇帝よ、おとなしく結界で受ける事はしなかったか。
同じ魔法のぶつかり合いならば、皇帝、貴様が勝つ事は分かり切っている。
自力で劣る俺がこのまま受けに回っても、負ける事は自明の理だ。

ならばどうするか?決まっている!攻めるのみだ!


ロペスの爆裂光破弾と、皇帝の爆裂空破弾がぶつかり合った!
二つのエネルギーの接触は、両軍の間で大爆発を起こした。
しかし大きさ、威力で上回る皇帝の爆裂空破弾は、ロペスの光弾の衝撃を呑み込み、カエストゥス陣営に強烈な爆風を叩きつけた。

火の粉が飛び散り、白い雪煙が巻き上がる。
両軍の姿が見えなくなると、皇帝は両手に魔力を込め、次弾の体勢に入った。




「フン、煙が邪魔だが、まぁ大した問題はない。ようは連中を消せばよいのだからな」

両軍が向き合っている以上、前に撃てばぶつかる。それだけ分かっていれば、視界が覆われていようと何も障害はない。両手に込めた破壊の魔力を、正面に向かって撃ち放とうとしたその時・・・

「むっ!?」

煙を突き破り、無数の氷の刃が地面を走り襲い掛かって来た!

「ほお、地氷走りか」

小賢しい真似をする!余の足を氷で固めるつもりか!?
なるほど、煙を目くらましに足から攻めるのは上手いやり方だ、だが余の魔力をあまく見たな!?
この程度の魔法、躱すまでもないわッツ!

全身から魔力を放出すると、地面から突き上げてくる氷の刃が打ち砕かれた!

「その程度の魔法、少し魔力を放出すればそれで事足りるわ!」

そして地氷走りだけではないのだろう?

顔を上げると、更に雪煙を貫いて風の刃が飛んで来た!

「地氷走りで意識を下に向ける、本命は正面からのウインドカッターか」

その程度で策を練ったつもりか!?舐められたものだ。
消し飛ばしてくれるわァッツ!

眼前に迫った風の刃に、破壊の魔力を込めた両手を向けたその時、上空から聞こえる風切り音に顔を上げた。

「なにッツ!?」

余が目にした物、それは上空から雨あられの如く降り注いでくる、無数の氷の槍だった。






「へっ、どうだい皇帝?足元に注意を向けて、正面、そして上だ。黒魔法使いにありったけ撃たせた刺氷弾の雨、防げるものなら防いでみな!」

両軍の総当たりだったなら、数で劣る俺達は圧倒的に分が悪いかった。
だがテメェはのこのこと一人で前に出てきた。
こっちにはもう主力はいねぇ。そう思って余裕のつもりか知らねぇが、それならこっちにもチャンスはあるんだぜ!

「まだだ、もっと撃て!刺氷弾が落ちる角度を計算して、やや高めに空に向かって撃つんだ!敵の注意を上に向けるんだ!」

顔半分だけ振り返り、後方の黒魔法使い達に向けて言葉を飛ばした。

黒魔法使い達は指示通りに空に向かって刺氷弾を撃ち放つ。初級魔法ゆえに魔力の消耗も少なく、連射もしやすい。帝国軍も皇帝が前に出ている以上、護りを優先しなければなるまい。まして自分達の頭の上にも氷の槍が落ちて来るのだ。先手を許し後手に回ってしまった以上、この形になる事はどうしようもない事だ。

そして、この攻撃が皇帝には通用しない事も、俺の計算通りだ。





帝国軍の青魔法使い達が頭上に結界を張り巡らせると、降り注ぐ氷の槍はあっけなく弾き砕かれ、破片が地面にバラバラと落ちていく。
大勢の青魔法使いが幾重にも重ね掛けした結界を破る事は困難である。
それを破るには大きな力を一点に集約させた、絶大なる力が必要である。
広範囲に降らせた刺氷弾では、到底不可能な話しであった。


「フン、余の魔力開放で吹き飛ばしてやろうと思ったが、流石に青魔法使いの出番を奪ってばかりではな」

皇帝は迎撃の態勢に入っていたが、自軍の青魔法使い達が魔力を放出し結界を張る動きを見せると、魔力を押さえて部下へ任せる事を選んだ。

そして顔を上げる。頭の上には、自分を護る青い結界が張られている。
そして次々と氷の槍がぶち当たっては、折れて砕けていった。

いつまで無駄な努力をするつもりだ?

いくら砕け散っていっても降り続ける氷の槍に、皇帝は眉を寄せた。





ロペスの狙いはここにあった。

地面からの攻撃をしかけ、正面へ意識を誘導し、上空が本命と思わせる。
上空からの攻撃は、結界を張られて弾かれようが止めず、青魔法使い達が結界を維持し続けている。そのため顔を上げなければならない。そして他の帝国兵達も、結界が張られているとは言え、上空から攻撃されている以上、誰もが自然と上を見てしまう。万一結界が破られれば自分の身は自分で護らなければならないのだ。やむを得ない事だろう。

ロペスは両手を握り合わせ、頭上高く掲げた。
拳に集中させた魔力が風を帯び、竜巻の如き渦を作っていく。



かかったな皇帝、俺の狙いはここだ!
全員の視線が上に集まるこの瞬間だ。この状況に持ち込めば、僅かな時間だが必ず全員の視線が前から外れる瞬間がある。

この瞬間ならば決められる!かましてやるよ皇帝!

「トルネードバースト!」


両手を勢いよく降り下ろすと、強烈に渦を巻く風の刃が、皇帝に向かって撃ち放たれた!
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