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【941 あの日見た夢】
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「ねぇ、ペトラとルチルは、ずっと剣士をやっていくの?」
ある晴れた日の午後、私とルチルとヤヨイさんの三人は、モロニー・カフェでランチを食べていた。
週に一度の休日は、三人でよく集まっているのだ。
女同士気兼ねなく。私はこの時間が一番好きだ。最初はルチルと二人だけだった。けれどヤヨイさんと出会って、私とルチルの世界にヤヨイさんが入ってきた。
私とルチルのお姉さんであり、友達であり、私もルチルもヤヨイさんが大好きだ。
「う~ん・・・多分体が動く限りはずっとやってると思うなぁ、私は剣しかないから」
コーヒーを一口含んでカップを置くと、私は空を見上げて答えた。
「私もそうかな~、ペトラと一緒に剣しかやってこなかったしね。あ、でも、もし結婚する事になったら引退すると思うなぁ、私をもらってくれる人がいればだけど!」
私の隣に座るルチルが、冗談めかしてクスクスと笑い出した。
「あはははは!ルチル、それは私も同じだって!私達、剣士隊で男女みたいに言われてるじゃん?このままもらってくれる人が見つからなかったら、私がルチルを嫁にもらうから」
「あははははは!なにそれー、女同士で結婚できるの?あ、でもペトラとなら良いかも!でも、ペトラが私をもらうんじゃなくて、私がペトラをもらうんだからね?」
ルチルは本当に楽しそうに、手を叩いて笑い出した。
ルチルの笑顔につられて私も笑い出すと、ヤヨイさんは私達が楽しそうにしているのを微笑んで見つめていた。
この三人で集まってコーヒーを飲む時間が、私は本当に好きだ。
ルチルもヤヨイさんも、きっと同じ気持ちだと思う。私達の絆はこの先もずっと続いていると、そう信じられた。
「・・・あのさ、この先二人が結婚して、剣士を引退したとするでしょ?そうなったら、一緒にレイジェスで働かない?」
「え、私達が?」
突然のヤヨイさんの誘いに、私もルチルも顔を見合わせた。
ヤヨイさんのお店には何回も行っているけど、そこで私達が働く姿を想像した事は無かった。
だって私達は剣しか知らないから。剣だけしかやってこなかったから、そんな私達が接客なんてできるとは思えなかった。
「うん。私ね、ペトラとルチルと一緒に働けたら、楽しいだろうなってずっと思ってた。だから、結婚して剣士を引退したら、一緒にレイジェスで働こうよ?接客なら子供がいても安心して働けるよ」
「・・・いいの?そりゃ、私もヤヨイさんと一緒に働くのって楽しいと思うけど、剣しか知らない私達に接客なんてできるかな?」
大丈夫かな?そう思ってルチルに目を向けると、ルチルは私とは逆にニカっと笑っていた。
「え?いいじゃん!それってすごく楽しそう!ペトラ、そうしようよ。大丈夫、なんとかなるよ!だってヤヨイさんが一緒なら安心じゃん!」
ルチルは色々と前向きに考える性格だ。私は考え過ぎるところがあるから、ルチルのこういうところが助かるし、二人でバランスがとれてたりすると思ってる。
「・・・ふふ、そうだね、ルチルの言うとおりだ。じゃあ、ヤヨイさん、私達が引退したらお世話になるよ」
「ええ、もちろんよ!じゃあ決まりね。二人がやってくれるんなら、エリンも大丈夫だよね?あとでエリンにも声をかけておかなきゃね」
あははは、ヤヨイさん、すっごい嬉しそう!
ふふふ、だって嬉しいんだもん!
ヤヨイさん、私達も嬉しいよ、これからもずっと仲良くしてね!
うん!ペトラ、ルチル、私達ずっと一緒だよ!
・・・ラ!
・・・・・トラ!
「ペトラ!ペトラッツ!」
耳を打つ声に、消えて無くなりそうだった意識が呼び戻される。
夢を・・・ちょっとだけ昔の夢を見ていたようだ。
楽しかった・・・懐かしいあの日の夢を・・・・・
「・・・ぁ・・・ウィッカー、さま・・・・・」
私の顔を覗き込むようにして、必死な顔で呼びかけている。
そうか・・・意識が戻ったんだ・・・・・ここまで追いかけてきて・・・・・
「ペトラ・・・ぐっ・・・うぅ・・・・・お、お前、こんなになるまで・・・・・」
なんで、泣いて、るの?
手を伸ばそうとしても体が動かない。いや、感覚が全くない。
あ、そうか・・・・・
「ウィッカー・・・さ、ま・・・・・私も・・・・・」
もう、体が動かせないくらい、私は・・・・・
「な、なんだ!?ペトラ!言ってくれペトラ!」
・・・・・・・私も、一緒に働きたかった
ゆっくりと意識が消えていく・・・・・
そうか、これが・・・死か・・・・・
ウィッカー様が私の名前を呼んでくれている。私は最後に一人じゃなかった。
ありがとう。少しだけ、怖くない・・・・・・・
「ペ、ペトラッ!?・・・・ペトラァーーーーーーッ!」
笑えていただろうか
これから先、あなた一人に背負わせてしまう事になる
だからせめて・・・せめてあなたの心が少しでも軽くなるように・・・
私は笑顔で逝こう
轟轟と燃え盛る炎が町を焼く。
数えきれない程のカエストゥス兵の死体の山の中、ペトラを抱きしめたウィッカーの絶叫が、黒い空へと消えていった。
ある晴れた日の午後、私とルチルとヤヨイさんの三人は、モロニー・カフェでランチを食べていた。
週に一度の休日は、三人でよく集まっているのだ。
女同士気兼ねなく。私はこの時間が一番好きだ。最初はルチルと二人だけだった。けれどヤヨイさんと出会って、私とルチルの世界にヤヨイさんが入ってきた。
私とルチルのお姉さんであり、友達であり、私もルチルもヤヨイさんが大好きだ。
「う~ん・・・多分体が動く限りはずっとやってると思うなぁ、私は剣しかないから」
コーヒーを一口含んでカップを置くと、私は空を見上げて答えた。
「私もそうかな~、ペトラと一緒に剣しかやってこなかったしね。あ、でも、もし結婚する事になったら引退すると思うなぁ、私をもらってくれる人がいればだけど!」
私の隣に座るルチルが、冗談めかしてクスクスと笑い出した。
「あはははは!ルチル、それは私も同じだって!私達、剣士隊で男女みたいに言われてるじゃん?このままもらってくれる人が見つからなかったら、私がルチルを嫁にもらうから」
「あははははは!なにそれー、女同士で結婚できるの?あ、でもペトラとなら良いかも!でも、ペトラが私をもらうんじゃなくて、私がペトラをもらうんだからね?」
ルチルは本当に楽しそうに、手を叩いて笑い出した。
ルチルの笑顔につられて私も笑い出すと、ヤヨイさんは私達が楽しそうにしているのを微笑んで見つめていた。
この三人で集まってコーヒーを飲む時間が、私は本当に好きだ。
ルチルもヤヨイさんも、きっと同じ気持ちだと思う。私達の絆はこの先もずっと続いていると、そう信じられた。
「・・・あのさ、この先二人が結婚して、剣士を引退したとするでしょ?そうなったら、一緒にレイジェスで働かない?」
「え、私達が?」
突然のヤヨイさんの誘いに、私もルチルも顔を見合わせた。
ヤヨイさんのお店には何回も行っているけど、そこで私達が働く姿を想像した事は無かった。
だって私達は剣しか知らないから。剣だけしかやってこなかったから、そんな私達が接客なんてできるとは思えなかった。
「うん。私ね、ペトラとルチルと一緒に働けたら、楽しいだろうなってずっと思ってた。だから、結婚して剣士を引退したら、一緒にレイジェスで働こうよ?接客なら子供がいても安心して働けるよ」
「・・・いいの?そりゃ、私もヤヨイさんと一緒に働くのって楽しいと思うけど、剣しか知らない私達に接客なんてできるかな?」
大丈夫かな?そう思ってルチルに目を向けると、ルチルは私とは逆にニカっと笑っていた。
「え?いいじゃん!それってすごく楽しそう!ペトラ、そうしようよ。大丈夫、なんとかなるよ!だってヤヨイさんが一緒なら安心じゃん!」
ルチルは色々と前向きに考える性格だ。私は考え過ぎるところがあるから、ルチルのこういうところが助かるし、二人でバランスがとれてたりすると思ってる。
「・・・ふふ、そうだね、ルチルの言うとおりだ。じゃあ、ヤヨイさん、私達が引退したらお世話になるよ」
「ええ、もちろんよ!じゃあ決まりね。二人がやってくれるんなら、エリンも大丈夫だよね?あとでエリンにも声をかけておかなきゃね」
あははは、ヤヨイさん、すっごい嬉しそう!
ふふふ、だって嬉しいんだもん!
ヤヨイさん、私達も嬉しいよ、これからもずっと仲良くしてね!
うん!ペトラ、ルチル、私達ずっと一緒だよ!
・・・ラ!
・・・・・トラ!
「ペトラ!ペトラッツ!」
耳を打つ声に、消えて無くなりそうだった意識が呼び戻される。
夢を・・・ちょっとだけ昔の夢を見ていたようだ。
楽しかった・・・懐かしいあの日の夢を・・・・・
「・・・ぁ・・・ウィッカー、さま・・・・・」
私の顔を覗き込むようにして、必死な顔で呼びかけている。
そうか・・・意識が戻ったんだ・・・・・ここまで追いかけてきて・・・・・
「ペトラ・・・ぐっ・・・うぅ・・・・・お、お前、こんなになるまで・・・・・」
なんで、泣いて、るの?
手を伸ばそうとしても体が動かない。いや、感覚が全くない。
あ、そうか・・・・・
「ウィッカー・・・さ、ま・・・・・私も・・・・・」
もう、体が動かせないくらい、私は・・・・・
「な、なんだ!?ペトラ!言ってくれペトラ!」
・・・・・・・私も、一緒に働きたかった
ゆっくりと意識が消えていく・・・・・
そうか、これが・・・死か・・・・・
ウィッカー様が私の名前を呼んでくれている。私は最後に一人じゃなかった。
ありがとう。少しだけ、怖くない・・・・・・・
「ペ、ペトラッ!?・・・・ペトラァーーーーーーッ!」
笑えていただろうか
これから先、あなた一人に背負わせてしまう事になる
だからせめて・・・せめてあなたの心が少しでも軽くなるように・・・
私は笑顔で逝こう
轟轟と燃え盛る炎が町を焼く。
数えきれない程のカエストゥス兵の死体の山の中、ペトラを抱きしめたウィッカーの絶叫が、黒い空へと消えていった。
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