上 下
940 / 1,277

【939 その剣に全てを乗せて】

しおりを挟む
咄嗟とっさだった。
片手では不可能と理解するよりも先に、顔の前に両手を出し、風の盾でペトラの大剣を受け止めた。

「ぐぅッッッ!」

「オォォォォォォォォーーーーーーッツ!」

最初の突きとは比べ物にならない威力だった。
両手で出した風の盾でも吸収しきれない衝撃に、皇帝は眉を寄せ、歯を食いしばり、表情を険しくさせた。

「チィィィッ!これ程の威力とはッッツ!」

皇帝の風魔法による防御とは、ただ手に纏わせた風の盾で受けるだけではない。
力負けして倒されないようにするため、足に、腰に、肩に、体を支えるようにして、風を当てていた。
初撃の突きは、それで十分に対応できた。
確かに鋭く重い突きだったが、風の盾で威力を吸収し、バランスを崩す事なく反撃に転じる事もできた。だがこの一撃はまるで別物だった。

風の盾を越えて、全身にズシンと響く程の重さ。
ペトラが剣を振り抜くと、踏ん張りが効かずに足が浮かされ、皇帝はその体を弾き飛ばされた。


「ぐぬっ!」

背中から地面に落ちそうになるが、風魔法を使って体を回し、両足で着地をする。

「この、女ァ・・・ッ!?」

「ハァァァァァァーーーーーーッツ!」

皇帝が顔を上げた時には、すでにペトラは目の前に迫っていた。
左の肩口を目掛けて、その背丈程もある大剣が振り下ろされる!

「ぐおぉぉぉぉッツ!」

本来魔法使いが間に合うはずはない。だが皇帝は驚異的な戦いの勘で、見るよりも考えるよりも早く体を動かし、ペトラの大剣を風魔法で受けた!
両手で風の盾を作り出し、足腰に風を当てて踏ん張り耐えるが、ペトラの剣は皇帝の防御を力で叩き潰した!

「ガハァッツ!」

かろうじて直撃はまぬがれたが、風の盾を破られた皇帝は、衝撃で足がもつれ大きくバランスを崩された。

「ハァッツ!」

振り抜いた大剣をそのまま地面に突き刺すと、柄を軸に体を回して飛び上がり、皇帝の胸を貫くように右の足を叩き込んだ!!

「ごっ・・・・・ッツ!」

背中にまで突き抜ける衝撃に、呼吸が止まり意識が途切れそうになる。
数メートル程後方に蹴り飛ばされ、背中から地面に落とされる。

「うっ、ゴホッ・・・ぐぅ・・・!」

脳を痺れさせる程に強烈な蹴りだったが、このまま寝ているわけにはいかない。
すぐに立ち上がれと皇帝の勘がうったえていた。
なぜなら・・・

「皇帝ィィィィーーーーーーッツ!」

竜巻を思わせる程に激しく大剣を振り回した金髪の剣士が、目の前に迫っていたからだ。
超スピードと言っても過言ではないペトラの瞬発力は、数メートル程度の距離は一瞬でゼロにできる。

「ダラァァァーーーーーッツ!」

右足を軸に上半身を左へと回し、皇帝の胴体を目掛けて大剣を振り切る!


「ぐぬぅッ!なめるなァァァァァーーーーーッツ!」

「むっ!?」

魔力開放!

怒声を上げると皇帝の全身からドス黒い魔力が放出され、強烈な魔力の圧はペトラを吹き飛ばした。

「くッ!やっかいな技だ」

空中に飛ばされたペトラだが、ダメージ自体は少ない。体を縦に回転させると、大剣を握っているとは思えない身軽さで着地した。

「生意気な女め!死ねいッ!」

右手に破壊の魔力を込めると、皇帝はペトラに向かって撃ち放った!

「フンッ!そんなもの・・・ッ!?」

大剣の腹を盾にして受け切る。爆裂弾の衝撃と爆風に体が揺さぶられるが、いかに皇帝の魔力が強大でも、単発ならば耐えられる。
右足に力を込めて前に飛び出そうとしたが、迫り来る無数の破壊のエネルギー弾に、ペトラは足を止めて腰を落とし、剣の腹を前にして防御の体勢をとった。

「チィッツ!」

「フハハハハハハハハハ!この距離ではなにもできまい!」

矢継ぎ早に撃ち放たれる皇帝の爆裂弾は、ペトラをその場に釘付けにして完全に動きを封じていた。
初級魔法の爆裂弾だが、皇帝のソレは中級魔法に遜色のない破壊力を持つ。
大剣を盾にして受け止めているが、盾を通して体に響いて来る衝撃に、ペトラはその場に踏みとどまる事が精いっぱいだった。


このクソ野郎、やっぱり手ごわい!
反射神経も魔法使いのレベルを超えているし、魔力そのものが尋常じゃない強さだ。
大陸を総べる者だと言うだけの事はある。

けれど、私の剣も通用する・・・・・
直撃させる事はできていないが、皇帝の風を突破できた。私の剣は皇帝に届く!

師団長のコバレフに後れを取ってから、私は自己研鑽を積み上げた。
二度と負けないように、二度と大切なもの奪われないように・・・だから皇帝・・・お前は・・・

「お前はここで私が倒すッッッツ!」

右足を一歩前に踏み出す。
腰を落としたまま両手で大剣を握り、一気に振り抜くと、迫り来る爆裂弾を全て撃ち落とした!

「なにぃぃぃぃーーーーーッツ!?」

「我が剣の奥義!受けてみろォォォォォーーーーーッツ!」

右足を軸に鋭く体を回転させる、高速で振り回される剣の切っ先からは、風を切り裂く鋭い音が鳴り響く。竜巻の如き荒々しさ、しかし軸はぶれる事なく力を確実に剣に伝える。そして桁外れの柔軟性に遠心力が加わって繰り出される連撃は、相手が倒れるまで止む事のない刃の嵐となる。


乱殺風陣!

ペトラの渾身の一撃が、皇帝の喉元目掛けて繰り出される!


「女・・・貴様、皇帝をなめるなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッツ!」


全身から発する魔力がより強く、より大きく膨れ上がる!
ペトラの剣を風の盾で受け切る事は不可能。そもそも一撃ならばともかく、二撃、三撃までは捉える事ができても体がついていかない。そう理解した皇帝が選んだ対抗手段が、手を使う必要がなく、全身から発する事のできる攻防一体の技、魔力開放!

「ハァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッツ!」

「ヌオォッォォォォォォォォーーーーーーーーーーッツ!」


剣士としての誇り、散っていった仲間達の想い、そして護るべき故郷・・・・・
全てを背負ったペトラの剣が、皇帝の魔力とぶつかった!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...