異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
932 / 1,370

【931 エニルの気持ち】

しおりを挟む
「・・・なに言ってるんだよ?」

突然死を口にするエニルに、俺はできるだけ軽く言葉を返したつもりだが、それでも声が若干上ずった。

アタシ達、やっぱり死ぬんでしょうか?
そう話したエニルの声は、ほんの少しだが震えていた。

俺はエニルの事も、他の六人の事もあまりよく知らない。
だけど彼らはアンソニーとの戦いで、瀕死になった俺に魔力を分けてくれたから、みんな優しくて良いヤツらだと言う事は十分に分かっている。

それに今日一日一緒に行動したし、彼らの人となりも少しづつ分かってきたつもりだ。
けれど、それでもまだ1日の付き合いなんだ。
彼らの事を分かったように、何でも言える関係になれたわけではない。

エニルの事も、俺は勝手に社交的で、上下関係を気にしない気さくな性格だと見ていた。
今日はほとんど俺の隣にいたし、俺が黙っていても色々話してくるから、師や仲間達を失った俺を、元気づけてくれようとしているのかなと思っていた。

けれどそれは、俺が勝手にそう思っていただけで、本当はまったく違っていた。

俺の肩に頭を乗せて寄りかかっているから、エニルの震えがハッキリと伝わってくる。
これは寒さから来る震えではない。
戦争をしてるんだ・・・死を身近に感じて怖くなるのは当然だ。

エニルがずっと話していたのは、話していないと不安だったからだ。
一日中俺のとなりにいたのも、怖かったからだ。

自分より強くて、自分を護ってくれる、そんな相手に頼りたかったのだろう。


「だって・・・」

「大丈夫だ。なにも心配するな」

不安そうに俺に目を向けるエニルの頭を、ポンポンと軽く叩いて、安心できるように笑って見せた。

「エニル、大丈夫だから・・・」

「ウィッカー様・・・こういう時って、普通肩を抱き寄せるんじゃないんですか?」

エニルは自分の頭を撫でながら、なぜか少し不機嫌そうに、俺をジロリを睨んで来た。

「え?いや、抱き寄せるって・・・俺結婚してるし」

まさかそんな事を言われるとは思わず、少し戸惑い気味に自分の立場を伝えると、しかたがないなと言うように、エニルは溜息をついた。

「・・・分かってたけど、本当に隙がないなぁー・・・まぁ奥さんがメアリーさんじゃ、最初からアタシに勝ち目はないか」

そう言ってエニルは俺の肩から頭を離すと、やれやれとでも言いたそうに肩をすくめて見せた。

「エニル・・・・・」

まさか、俺の事が・・・?
冗談っぽく話しているが、彼女が本気だというのはなんとなく分かった。

俺が困惑しているのが伝わったようで、エニルは顔の前で手を振った。

「あはは、そんな難しい顔しちゃって・・・なんで自分をって考えてます?」

まるで心を読まれているみたいだ。からかうような笑みを浮かべて、ピンポイントを突いて来るエニルに、俺は黙って頷いた。

「そりゃあね、ウィッカー様がアタシを知らないのは当然だと思いますよ?アタシもウィッカー様の魔法指導には出てましたけど、何百人も集まった中の一人なんだから、顔を覚えてもらうのだって難しいと思います。でもそれは、ウィッカー様の立場での話しなんです。アタシはずっと見てましたから・・・ウィッカー様の事・・・」

エニルは天井を見上げながら、胸に秘めた大切な想いを話してくれた。
穏やかな笑みで、ゆっくりと口にする言葉は、本当であればずっと表に出す事のない気持ちだったはずだ。


俺達はまたしばらくの間、何も話さずただ前を見ていた。

アニー達はスープを飲み終えても、焚火の前から動かないで、六人で会話を楽しんでいる。
ハッキリ聞こえるわけではないが、時折耳に届く言葉からは、自分達の昔話しや夢について話しているようだ。

俺とエニルがこうして二人で座っていても、アニー達は誰も視線を向けてこない。
エニルは俺の肩から頭は離したが、腕が密着するくらい近い距離に座っている。アニー達も気付いているはずだが、あえて俺達に目を向けないようにしているようだ。


「ふふふ、なんだか気を使われているみたいですよね?」

「・・・なぁ、エニルって相手の考えてる事が分かるのか?」

またも俺が考えている事を読まれた。
怪訝な顔を向けると、エニルはぐいっと顔を近づけてきて、フフっと妖艶な笑みを見せた。


「さぁ?どうでしょうか?女は秘密が多いですからね・・・さて、そろそろ寝ませんか?人肌が恋しいなら、アタシが一緒に寝てあげますよ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...