上 下
929 / 1,277

【928 目が覚めるまで】

しおりを挟む
「私達はウィッカー様が城に入られてから、カエストゥスの陣営に戻りました。後方から現れた帝国軍の増援に挟み撃ちにされましたが、ペトラ隊長が圧倒的な強さを見せつけ、我々は互角以上の戦いを繰り広げる事ができました。このままいけば、カエストゥスの勝利だ。そう確信できるところまで戦えたんです・・・・・」

俺が落ち着いた様子を見て、アニーは俺が城へ乗り込んでからの事を話しだした。

フローラを含め、七人は戦場へ戻ったようだ。数で勝る帝国に挟み撃ちにされたようだが、ペトラが単身で敵を斬り伏せる姿は、帝国の精鋭達でさえ怯ませる程の気迫だったらしい。

カエストゥスの士気は高まり、逆に帝国は一歩及び腰になった事で、数の差を埋める程の戦いができたようだ。

ヤヨイさんから剣を教わり、ドミニクさんから受け継いだ最強の盾、流水の盾を持ったペトラは、今や体力型として並び立つ者がいない程の高みに立っていた。
そしてあの無尽蔵の体力と、竜巻を思わせる荒ぶる戦い方は、大人数が相手である程に真価を発揮する。

ペトラが隊を率いたのであれば、まず後れを取る事はないだろう。
だがアニーの口は重かった。


「でも・・・皇帝が戦場に現れてからは一方的でした。カエストゥスの青魔法使いでは防ぎきれない魔力・・・ペトラ隊長がなんとか皇帝に食い下がっていましたが・・・皇帝の光源爆裂弾が全てでした」

眉を寄せて、悔しさを噛み締めるように話すアニー。
リースもトムもジョニーも、みんな視線を落とし拳を強く握り締め、体を震わせていた。

「光源爆裂弾を、撃ったのか・・・」

戦場は当然両軍が入り乱れている。カエストゥスの兵にだけ攻撃をあてる事なんて、そんな都合の良い事ができるはずがない。
それゆえに上級魔法、特に光源爆裂弾を使用をする事はなかった。使いたくてもできなかった。

「はい・・・自軍を巻き込む事をいとわず、撃ちました。帝国軍の被害も大きかったのですが、狙い事態はカエストゥスに合わせてますから、こちらの被害の方がはるかに大きかったのです。ペトラ隊長の決断は早かったです。二発目を皇帝が撃つ前に撤退の指示を出し、被害を最小に抑えたのです。あのまま留まれば、次弾で軍は立て直せないくらいの被害を受けていたと思います」

皇帝の光源爆裂弾の威力は十分知っている。
カエストゥスを焼いたあの破壊力を考えれば、一発で軽く数千、いや万の犠牲を出していてもおかしくない。

しかし、自軍を巻き込んでまで撃つとは・・形勢がカエスゥスに傾いているからと言って、そこまで容赦のない真似ができるとは思わなかった。
非道で冷酷な男だというのは十分に分かっていたが、帝国を繁栄させ、国を豊にした事は間違いない。
だから国民には情を持っていると思っていた。


「・・・そうか、勝利のためには兵の犠牲はあって当然、そう考えているのか・・・」

だが、自国の兵を巻き込んでまで光源爆裂弾を撃った。
そんな非情な男が大陸を統一するなど断じて許せない。やはり皇帝を生かしておくわけにはいかない。

ベン・フィングの裏切りで死にかけた俺だが、今度こそ確実に皇帝を仕留めなくてはならない。
もう皇帝は時を止められない。純粋に魔法使いとしての力量をくらべた時、今の俺ならば十分に
勝算はある。

最後に使ったあの光の力、あれは研究中の光魔法だろう。
だが感覚で分かる、光魔法はもう使えない。なぜあの時使えたのかは謎だが、未完成の光魔法があの時使えた事は、奇跡とよんでいいのかもしれない。

「・・・霊魔力は残った、か・・・」

光魔法は使えない。だが、自分の体内に霊気が残っている事は分かる。体内で魔力と霊力を合わせてみると、二つの力が融合し、霊魔力を作る事ができた。師匠が編み出した霊魔力は、しっかりと俺に受け継がれている。
それと同時に、青魔法、そして白魔法が使える事も理解できた。つまり今の俺は結界も張れるし、ヒールも使えるという事だ。
黒魔法、白魔法、青魔法、三系統全ての魔法を使う事ができる。

我ながら驚いた。三系統の魔法を使う事ができる人間などいない。いるはずがない。
だが自分がそうなのだから信じるしかない。師匠とジャニスが残してくれたこの力で、俺は戦うんだ。


「・・・それで、ペトラ達はカエストゥスに撤退したというわけか?」

自分の状態を確認しながら、俺はアニーへ確認の言葉をかけた。

「・・・正確には帝国を追って行ったのです。ウィッカー様、あなたは丸三日寝ていました。その間に帝国はカエストゥスへの進軍を始めたのです。一時撤退していた我が軍は、ペトラ隊長が先頭に立って自軍を立て直していましたが、帝国の動きを見ると、動ける兵をまとめて追って行ったのです。私達も志願しようか迷ったのですが、眠っているウィッカー様残して行くわけにはいきませんし、多少の戦力は残っておかないとと思い、この七人でウィッカー様が目を覚まされるのを待っておりました」

「三日!?俺は三日も寝ていたのか!?」

驚きのあまり立ち上がると、少し眩暈がして足元がふらついた。するとトムとジョニーが両脇から体を支えて、心配そうな顔を俺に向けた。

「ウィッカー様、急に立ち上がってはいけません」
「傷は治っても血は足りていないんです。まだ無理をしないでください」

「あ・・・ああ、すまない」

体を支えられながら、ゆっくりと腰を下ろすと、七人の中で最年少、ダークブラウンの短い髪、そして少し目付きが鋭い15歳のリッキーが、意を決したように口を開いた。


「・・・ウィッカー様、追いますか?」

その一言で、一気に場の空気が張りつめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...