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【927 廃屋で】
しおりを挟むウィッカー、大丈夫・・・あんたは死なせない
ひどく寒かった・・・だけど冷え切った身体を、優しい温もりが包み込んでくれた。
深い闇の底に沈んでいった意識が、眩しい光に照らされ引き上げられていく。
「・・・・・ぅ・・・・・・・」
「あ!お、おい!気が付いたぞ!」
ぼんやりとだが目が覚めて、薄く瞼を開くと、数人の男女が俺を覗き込んでいた。
「ウィッカー様!」
「おお!やった!意識が戻った!」
「奇跡だ!あの状態から本当に復活したぞ!」
「・・・お前、達・・・」
状況がよく吞み込めないが、俺はこいつらに見覚えがあった。
黒いローブを着た七人の男女、こいつらは俺がアンソニーと戦って倒れた時、俺に魔力を送ってくれたカエストゥス軍の黒魔法使い達だ。よく見ると、あの時の七人が全員揃っている。
「ウィッカー様、気持ち悪いとか、頭が痛いとかはありませんか?」
赤い髪をした女性はアニー。この七人の中で中心的な人物だ。
俺が体を起こすと、背中を支えるように手を回して、心配そうに言葉をかけてくれた。
「ああ・・・大丈夫、みたいだ。それより、俺はいったい・・・」
辺りを見回すと、朽ちた板張りの床、半分近く崩れた天井、ヒビ割れた板張りの壁が目に入った。
建物全体がかなり痛んでいる、どうやらここは廃屋のようだ。
だるさはある。握った拳にあまり力が入らない。だがこれは疲労の問題だろう。
どこかが痛んだり、眩暈がするとか、具合が悪い事はなかった。
「ウィッカー様は、背中から大量の血を流して倒れていました。覚えていらっしゃいますか?」
茶髪の男はトム。俺が城に乗り込む時、黒魔法使いのローブの譲ってくれた男だ。
硬い声で、俺の体調を伺うように目を向けてくる。
「背中・・・そうだ、俺はあいつに、ベン・フィングに背中を刺されて・・・!?」
トムの言葉で、ハッと気づいた俺は背中に手を回した。
だが背中に痛みは全く感じない。それどころか触った感触から、背中には傷跡一つ残っていないように感じられた。
俺はベンによって三度背中を刺された。深く抉られて致命傷だったはず。
あの状態から俺を救える白魔法使いが、カエストゥスにいただろうか?
「・・・ウィッカ―様・・・背中の傷は、ジャニス様が治されました」
金色の髪をした大人しそうな女性はリース。
俺が怪訝な顔をしているのを見て、何を疑問に思っているのかを察したようだ。
だが・・・今なんて言った?
「・・・ジャニスが?・・・それ、知ってて言ってるのか?」
俺の声が硬くなった事を受け、リースは少し緊張したようだが、それでも俺の目を見て、ハッキリと頷いた。
「はい・・・ジャニス様のご遺体は私達が埋葬しました。その上でハッキリと申し上げます。瀕死のウィッカー様を助けられたのは、ジャニス様です。私達はジャニス様のお声を聞きました。ウィッカー様は自分が必ず助けると・・・・・」
「・・・どういう、事だ?ジャニスは死んだんだぞ?声って・・・ん、いや・・・」
リースの真っすぐな瞳は、とても嘘をついているとは思えなかった。そもそもこんな嘘をつく理由もない。だが、死んだジャニスが俺をどうやって?そう考えた時、ふと思い当たる事があった。
「そう言えば・・・俺も、ジャニスの声を聞いたような・・・」
口元に手を当てて考える。
眠っている時に感じた、とても暗くて深い底無しの沼に、ゆっくりと沈んでいくあの感覚。
あれは俺の命の火が消えていくところだったのだろう。
だが、そこから引き上げて、助けてくれた暖かい光・・・・・
「・・・ウィッカー様もお聞きになられたのですね。私達も全員聞きました。そして見たのです。
倒れているウィッカー様を優しく包み込む光・・・あれはジャニス様でした。ウィッカー様の背中に手を当てて優しく微笑み、そして消えてしまったのです・・・見間違いではありません」
「ジャニスが・・・そう、か・・・・・」
リースの言葉を疑う事などない。
俺もジャニスの声を聞いたし、現にこうして体は治っているのだ。
俺の体に流れるジャニスの魔力が、ジャニスを呼んでくれたのだろうか?
それとも、手のかかる俺が心配で、死んだあともずっと傍にいてくれてるんだろうか?
分からないけど、俺はジャニスに救われた。それだけは間違いない。
ジャニスの想いに目頭が熱くなる。
涙を見せないように、指先で目元を押さえていると、アニーが竹筒を手渡して来た。
「・・・ウィッカー様、お水です」
「ああ・・・ありがとう・・・」
受け取りそのまま口を付ける。一口喉に流すと止まらなくなった。
「あ、ウィッカー様、あまり急に飲むと・・・」
一息に水を飲む俺を見て、アニーが心配そうに見て来るが、結局俺は竹筒の水を一気に飲み干してしまった。
「はぁ・・・ふぅ・・・」
空になった竹筒を下ろすと、やっと一息をついて落ち着いた感じになった。
意識してなかったが、一口水を含んだ時、自分がどれほど疲れ、乾いていたのかを自覚した。
体を焼かれ、刺され、沢山の血を流したんだ。考えてみれば当然だった。
「ウィッカー様、これ食べてください」
水を飲み干すと、七人の中で一番小柄なジョニーが、俺に干し肉とパンを差し出してきた。
お礼を言って一口かじると、空腹感が一気に湧き出て来た。水を飲んだ時も乾きを実感したが、俺はとても空腹だったようだ。
俺が黙々と食べている間、アニー達はずっと俺を見つめていた。
優しく微笑んで、俺が食べ終わるのを待っている。
みんな黙っているのは、俺が食べ終わるのを邪魔しないためだろう。その優しさが心に染みた。
「・・・ふぅ、ありがとう。やっと落ち着いたよ」
パンを食べて水のを飲む。食事をすませると、空腹と渇きが治まったからか、頭も冴えて、気持ちに少し余裕が出てきたように感じる。
「なぁ・・・ここはどこだ?他には誰もいないのか?」
俺は正面に座るアニーにたずねた。
目が覚めてから気になっていた事だ。どうやらこの廃屋には、俺とこの七人の魔法使いしかいないようだ。だとすれば、10万のカエストゥス軍はどこに行ったんだ?
俺にそれを聞かれる事は予想していたのだろう。
アニーは、小さく息を吸うと、俺の目を真っすぐに見つめて口を開いた。
「ここは帝国の首都から離れた山の中です。我々はウィッカー様を連れて逃げている途中、偶然ここを見つけて身を隠しました」
「・・・なに?それは・・・」
逃げる?身を隠す?・・・それは、どういう事だ?
そんなの、まるで・・・・・
俺の表情が硬くなったのを見て、アニーも話しを続けようか迷ったように言い淀んだが、意を決したように口を開き言葉を続けた。
「・・・我々は・・・敗北しました。我々以外の生き残った兵達は、ペトラ隊長が率いてカエストゥスへ向かっています」
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