異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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【923 ジャニスの託した物】

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確信は無かった。だがジャニスが死の間際に渡してきたのだから、絶対に意味がある事は疑いようがなかった。
ジャニスが皇帝の砂時計の力に、気付いていたかは分からない。
だがジャニスも一度間近で時を止められて、何かされた事は感じ取っていたはずだ。

光源爆裂弾に対抗する手段として渡してきたのかもしれないが、そうではないと思った。
ジャニスはこの魔封塵こそが、皇帝に勝つための唯一の手段だと思って俺に渡してきたんだ。

魔封塵はジャニスの魔力に反応して発動する、ジャニス専用の魔道具だ。
だから俺はこれを渡された時、ジャニスの意図が読めなかった。率直に俺に使えるはずがないと思った。

だけどすぐにその認識はあらためさせられた。
なぜなら今の俺にはジャニスの魔力も流れているんだ。だから魔封塵も発動させる事ができた。


魔道具は魔力を流して使うものがほとんどだ。
だから皇帝の砂時計も、魔力を流して使っていると思われた。
皇帝の魔力を流して使うから、皇帝だけは止まった時の中で自由に動けるのだろう。
そして時を止めるこの力が、魔力を介して発動しているのであれば、魔封塵で防げない道理はない。


それでも大きな賭けには違いなかった。

原理が分かったとしても、どうすれば防げるだろうか?
皇帝が砂時計を握っている以上、砂時計に魔封塵をかける事はできない。
ならば自分自身に魔風塵をかけてみたらどうだ?

皇帝が砂時計を握った左腕を振り上げた瞬間、視線が俺から外れた。
その一瞬で俺は、茶色の革袋に詰まった魔風塵を自分の体に振りかけた。

その結果、砂時計が発動しても俺の時は止まらなかった。





「魔力開放か!」

撃ち放たれた魔力の波動を、俺は右に飛んで躱した。

「ハァッツ!」

しかし皇帝の反応は早い。
間髪入れずに身を捻ると、俺から狙いを外さず、連続して魔力の波動を撃ち追いかけてくる。

「さっきまでの威勢はどうした!?逃げているばかりでは勝てないぞ!」

「ちっ、発動が早い上にとんでもねぇ魔力量だな。これだけの魔力を何発も平然と撃ってやがる」

攻撃の軌道は見切っているが、撃ち放たれる速さが尋常ではなかった。
魔力をそのまま撃ち放つ技、魔力開放の最大の利点は、魔力を属性魔法に変換しない分、早く撃てるところにある。同じ黒魔法使いのウィッカーには、それは十分承知するところだった。

「だがこれは予想以上だ。さすがは皇帝といったところか」

正面に来た波動を左に飛んで躱した直後、目に前にもう一発、禍々しい程に黒い魔力の波動が迫っていた。

「くッ!」

このタイミングでは回避は無理だ!防御しかない!
両腕で顔の前で交差させ、光の魔力を高めた次の瞬間、魔力の波動が俺を呑み込んだ。

「フハハハハハハハ!捉えたぞ!まだまだまだまだまだまだぁぁぁぁー----ッツ!」

立て続けに魔力の速射砲が撃ち放たれる!
底の知れない皇帝の魔力は、無限とも思える魔力を放出し続けた。

やがて魔力の波動が周囲一帯を消し飛ばした頃、皇帝はようやくその手を止めた。

「・・・フゥ・・・クックック、どうだ?余の魔力をこれだけ浴びせたのだ。もはや骨すら残っておるまい」

地面は抉れ、むき出しの土が顔を見せている。折れた柱も、割れて巻き散らかされたガラスも、砕けた調度品も、焼けた絨毯も、全てが皇帝の魔力開放によって消し飛ばされていた。

ブロートン帝国の城は、もはや城の原型さえ残っていない程に崩壊していた。

「フハハハハハハ!どうだ!ちょっとばかり強くなったようだが、やはり本気を出した余に敵うはずがないのだ!何かの間違いで止まった時の世界に入ってこれたようだが、やはりまぐれはまぐれ・・・なに!?」

濛々と立ち込める煙が一瞬で吹き飛ばされた。
強く輝く光を纏い、長い金色の髪を風になびかせながら、殺したはずのその男が姿を現した。

「皇帝、もう終わりか?」

ホコリでも払うように、肩や胸を軽く叩くウィッカー。
挑発するかのように口の端を持ち上げ、皇帝の目を真っすぐに見る。

「ぐっ、ぐぬぅ!きさまぁぁぁ、どこまでも余を舐めくさりおってぇぇぇぇぇッ!」

数十発もの魔力の波動を食らわせたにも関わらず、まるで無傷のウィッカーを前にして、皇帝は額に青い筋を浮かべて歯が鳴る程に噛み締めた。

「皇帝、お前は確かに強い。俺一人じゃとっくに殺されていたよ。だが俺には支えてくれる沢山の仲間がいた。そしてお前のように私利私欲で戦っているわけじゃない。平和を護るために戦っているんだ」

ウィッカーは右手の平を皇帝に向けて、光の魔力を集中させる。

「お前とは背負っているものが違うんだ!」

強いを魔力の込められた光の球が撃ち放たれる!


「ぐっ!」

でかい!余の爆裂空破弾と同等!いや、それ以上か!?
ウィッカーの光の球の破壊力を一目で見抜いた皇帝は、足に風を纏わせ空中へと飛び上がった。

「こんなもので余をっ!」

ほんの一瞬前まで自分の立っていた場所が吹き飛ばされ、その破壊力の凄まじさに目を開かされる。

視線を下げて、爆発の威力を確認したこの一瞬が隙を生み、ウィッカーの攻撃を許す事とになった。

「オラァァァァァァーーーーーッツ!」

「ウ、ウィッカぐばぁぁぁッツ!」

一瞬で距離を詰めたウィッカーが、振り被った右拳で皇帝の左頬に殴り抜いた!

真っ逆さまに地上へ落ちた皇帝は、かろうじて風魔法で激突の衝撃を和らげた。
だがダメージから足が震えて、すぐに立ち上がる事ができなかった。

「ぐッ、がはぁッ・・・ぬぐぅぅぅ・・・こ、こんな、余が、余がこんなぁぁぁッツ!」

血を吐き出し、歯を食いしばりながら、肘を着いて上半身を起こす。
土にまみれたその姿には、もはや帝国の頂点に立つ者としての偉大さは無かった。

実力差は明白、戦況は圧倒的に不利である。
だが皇帝はまだ諦めてはいなかった。高すぎるプライドが敗北を決して受け入れない。
例え死ぬ間際になったとしても、それは変わらないだろう。

勝って当然!自分が負ける事など断じてありえない!それが皇帝の皇帝たる信念なのだ。


余は皇帝だ!皇帝とは大陸を統べる者!絶対なる支配者なのだ!
こんなところで・・・こんやヤツに・・・こんなヤツに・・・・・・

「負ける事など絶対にないのだぁぁぁぁぁーーーーーーッツ!」

左手に握り締めた砂時計を逆さまにひっくり返す!
時を止める魔道具が発動する!


皇帝以外の全ての時が止まる。止まらなければならない。

さっきウィッカーが止まった時の中で動いたのは、何かの間違いだ!
間違いでなければならない!

顔を上げて空中に立つ男を睨みつける!
時を止めたのだから、止まっていなければならない!

しかし自分を叩き落とした男ウィッカーは、光の魔力を込めた両手を重ね合わせて、皇帝に向けていた。




両手に魔力が集約し、光が強い輝きを発する。

天魔光線を放とうとしたその瞬間、ウィッカーは砂時計から魔力が発せられた事を感じ取った。
人も動物も自然でさえも、全てが動きを止める。

止まった時の中で動けるのは、砂時計の使用者である皇帝ただ一人だった。
しかし、全ての魔法を無効化する魔封塵を体にかけたウィッカーは、自分の時間を止めようとする砂時計の魔力を無効化し、停止した時の中で動く事を可能にしていた。


しかし、魔封塵とて有限である。
砂時計の魔力が発動している間は、少しづつ削られていく。
今ウィッカーの体に残っている魔封塵は残り僅かである。さっきの時間停止は最後まで凌ぐ事ができたが、今回はそこまでの猶予はない。

だが間に合った。
この一発を撃てばそれで決着である。この瞬間も魔封塵は削られていくが、この一発を撃つ時間は残った。


「終わりだ皇帝ぇぇぇぇぇー-----ッツ!」


怒りも悲しみも全てを込めて、ウィッカーの渾身の天魔光線が撃ち放たれた。
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