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理太郎

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【920 忠義の者】

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ウィッカーの体から発せられている光の魔力の正体は、ウィッカーとジャニスとブレンダンの三人が研究をしている光魔法である。

カエストゥスの王子、タジーム・ハメイドの闇魔法黒渦を見たあの日、三人はその危険性について話し合った。タジーム・ハメイドの事は信じている。
だが黒渦は、魔法という概念から外れた別のなにかに感じられた。

万が一に備え、三人は対抗手段を模索した。
闇に対する力は光。そう結論付けた三人は、光魔法の研究を始める。

後にウィッカーが数十年の時をかけて完成させる光魔法だが、皇帝と戦ったこの時点では、光魔法はまだ未完成であり、なおかつ黒、白、青の三系統の魔力を合わせて初めて使える魔法である。
ウィッカーが単独で使える魔法ではなかった。

ではなぜ今、光魔法が発現しているのか?
それはウィッカーの体に、黒魔法、青魔法、白魔法、三系統の魔力が宿ったからである。
ブレンダンとジャニスが最後の生命力を燃やし、ウィッカーに魔力そのものを受け渡したがゆえに、使う事ができるようになった新たな力。これがウィッカーに光魔法を発現させていた。

これはウィッカーが意識して使っている魔法ではない。

繰り返しになるが、光魔法はまだ未完成である。使いたくても使えるものではない。
しかし、三系統の魔力を体に宿した事、かけがえのない大切な仲間達を失った事による怒りと悲しみ、様々な感情の爆発が魔力を高め、そして三系統の魔力の流れが奇跡的な確率で一本に繋がった結果、光魔法を発現させるに至ったのである。

もう一度やれと言われてできるものではない。
だが今この瞬間はそれが使える。ウィッカーにはそれで十分だった。



「ぐっ・・・はぁ・・・・・ッ!」

脳天が痺れるような苦痛だった。
肺の中の空気を全て無理やり押し出される。どれだけ大きく口を開けようとも、新たな酸素を取り込む事ができない。かろうじて聞き取れる喉の奥底から、かすかな呻き声だけが漏れていた。

「ハァッ!」

皇帝の腹にめり込ませた右手に魔力を集中させる。
爆発か、氷か、風か、火か、黒魔法使いには四つの選択肢があるが、ウィッカーはそのどれも選ばなかった。

自分の体の中を駆け巡る魔力が、今使うべき魔法を無意識に教えてくれたからである。

握り締めた拳の中で、光が強く、そして大きく輝きを放った。

「ぐっっっっっばはぁぁぁぁー--------ッツ!」

めり込ませた拳を、更に奥に押し込むようにして光を撃ち放った。
光の波動が皇帝を空高く吹き飛ばし、皇帝は無防備にその身を宙に舞わせた。

この一撃で深紅のローブはボロボロに斬り裂かれた。
火の精霊の強い加護を受けた深紅のローブが、光魔法の威力を軽減していなければ、皇帝はどうなっていたか分からない。今のウィッカーが撃ち放つ魔法は、それほどの威力を持っていた。

胃液を吐き散らし、苦痛に顔を歪ませるその姿は、大陸を統べる覇者としての姿は欠片も見えなかった。


ウィッカーは顔を上げると、両手を重ね合わせて、上空を舞う皇帝に狙いを付けた。
深く息を吸って吐く。集中して魔力を高めていくと、重ね合わせた両手の光もいっそう強さを増していった。
この技も、今のウィッカーが意識して使えるわけではない。
体に流れる魔力の導きに従っているだけである。

だが数十年後、光魔法を完成させた時にこう名付けた。


天魔光線


両手に集約させた魔力を、光の波動に変えて撃ち放つ!


「がっ!?」

巨大な光の波動が迫りくる!皇帝は一目で理解した。これは受け切れない!
どうする!?砂時計で時を止めるしかない!

だが、腹に受けた光魔法のダメージが大きい事。そして上空に飛ばされた事で、バランス感覚がおかしく、上手く砂時計を取り出せそうになかった。

直撃か!?そう思われたその時、青く輝く結界が皇帝の前に張られ、ウィッカーの天魔光線を受け止めた!


「なにっ!?」

予想外の事態にウィッカーが鋭く声を発すると、少し離れた柱の陰から、ネズミのような顔をした男が姿を見せた。

「ヒッヒッヒ!ウィッカーよ、皇帝は殺らせんぞ!」

ブロートン帝国大臣、ジャフ・アラムである。
青魔法使いのジャフは、ここまで戦いの巻き添えを食わないように、皇帝達から距離を置いていた。
しかし逃げ帰ったわけではない。この戦いを結末を見届けなければならない。
使命感のようなその執念がジャフをこの場に留め、今皇帝の危機を救っていた。

「皇帝!今ですぞ!私がウィッカーの魔法を防いでいる間に・・・!?」

「無駄だ」

ジャフがニタリと笑いを浮かべ、皇帝に向かって声を上げようとしたその時、背筋が凍りそうなくらい低く冷たい声が、ジャフに当てられた。

「なっ!?・・・なんだとッ!?バカな、て、天衣結界だぞ!?私の天衣結界が、こ、こんな・・・」

「これで天衣結界だと?ふざけているのか?」

せめぎ合う天魔光線 対 天衣結界。二つの力がぶつかり合う。だが、力の差は歴然だった。
ウィッカーの天魔光線はジャフの結界をヒビ割り、あと一歩で結界を突き破り皇帝を焼き尽くすというところまで迫っていた。


「くっ、こ、皇帝は殺させん!絶対に殺らせるわけにはいかんのだぁぁぁっ!」

「なにっ!?」

ほぼ、勝利を確信していたウィッカーだったが、突然強烈にその魔力を高めてきたジャフに、思わず驚きの声をもらした。
そしてその直後、再び驚きの声を上げさせられる事になる。

「ば、馬鹿な!ここで命を燃やすと言うのか!?」

「ヒッヒッヒ!少しは驚いて、く・・・くれた、かな?お前のその魔法だけは、絶対に・・・ふ、防いでやる!」

魔法使いの最終奥義、魔力が枯渇した時に、不足している魔力の代わりに生命エネルギーを使い、魔法を使うという禁断の技である。

今、ジャフ・アラムは、皇帝を護るために命を燃やして結界を張っている。
その強度は並大抵の技では突破は不可能!そして命と引き換えに張った天衣結界は、ウィッカーの天魔光線さえも防ぎきった。

「まさか・・・」

信じられないものを見る目でジャフを見た。
ここまでできるとは思っていなかった。己の命と引き換えに、皇帝を生かす。
ジャフ・アラムこそ帝国の、真なる忠義の者だった。


「ヒ・・・ヒヒ・・・ヒ・・・・・こ、皇帝、ご、ご無事で・・・ぐふっ!・・・」

地上に降りた皇帝の姿を見届けると、ジャフは大量の血を吐いて倒れた。

禁断の技を使ってまで、結界の強度を上げた代償である。
ジャフは二度と立ち上がる事はなかった。

だが死してなお、この戦いの決着だけは見届けると言うように、その両目は見開かれていた。
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