異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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【919 静かな怒り】

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「・・・貴様、ウィッカー、気が付いたのか」

「皇帝・・・」

二人の視線が鋭く交わる。
皇帝の右手を掴んだウィッカーは、力を込めて捻り上げた。

「ぐっ、貴様ッ!」

捻られた右手の痛みに、皇帝が顔をしかめる。
ウィッカーが右手を掴む力はどんどん強くなる。指が食い込み骨が軋む。皇帝は歯を噛み締めて、痛みと苛立ちに表情を険しくさせた。

「皇帝・・・・・」

ウィッカーは、鋭い目で皇帝を睨み付けた。

その体が纏っている魔力は、黒でも青でも霊魔力でもない。
光輝く魔力がウィッカーから発せられていた。それは皇帝も知らない未知の魔力だった。



な・・・なんだ、この魔力は!?
黒魔法使いの魔力ではない・・・さっきまでの霊魔力とも違う!
初めてみるぞこんな魔力・・・ウ、ウィッカー・・・・貴様・・・!?

「ぐぅッ・・・ウィッカァァァァァーーーーーッツ!この手を離せぇぇぇッツ!」


睨み合う二人だったが、ウィッカーの鋭い殺気、そしてその体から発せられる強烈なプレッシャーと未知の魔力に、思わす皇帝は声を荒げた。

皇帝に自覚はなかったが、そこにはあったのは恐怖だった。


押さえられていない左手に爆発の魔力を込めて、ウィッカーに向けて撃ち放つ!

「フハハハッ!どうだ、この距離で・・・な、なに!?」

皇帝の爆裂弾は直撃した。
まともに浴びせた事で、皇帝は笑い声を上げたが、すぐにその目が驚きに開かれた。

ウィッカーは全くダメージを負っていなかった。

爆発魔法の直撃を受けたにも関わらず、微動だにせず皇帝の右手を捻り上げている。
そして変わらない冷たい目で、皇帝を睨み付けていた。


「な・・・なんだと、バカな・・・ウィッカー、貴様、いったい・・・」

額から滲み出る汗の粒が、皇帝の顔を流れて落ちる。
この時、皇帝の胸中には、得体の知れない者を前にした恐怖がハッキリと現れていた。
霊魔力を目にした時も衝撃は受けた。だが、この光輝く魔力は別次元だった。

魔力の三系統、黒魔法、白魔法、青魔法、そのいずれとも違う。
まったく未知のその魔力は、第四の系統と言っていいのかもしれない。


「き、貴様・・・その魔力はなんだぁぁぁッツ!?」

ウィッカーから発せられるプレッシャーをかき消すように、皇帝は声を荒げて叫んだ。
だがウィッカーはその問いには答えず、皇帝の右手を捻り上げたまま、後ろへと押し投げた。

「ぐぬっ!」

体が浮かされた皇帝は、よろめき数歩後退した。
体勢を崩されて、右手を押さえながらウィッカーを睨み付ける。

「き、貴様!」

「・・・・・」

しかしウィッカーは皇帝の視線を流すと、背中を向けて足を前に出した。

この時、皇帝に追い打ちをかける絶好の機会だったのは言うまでもない。
ウィッカーの変貌に動揺している今、その隙をついて打撃でも魔法でも食らわせる事は可能だった。

だがウィッカーはそうしなかった。なぜなら時間が無いからである。

ウィッカーが目を向けているのは、倒れている幼馴染・・・ジャニスだった。


「・・・・・ジャニス・・・」

血にまみれて倒れているジャニスを、そっと抱き起こした。
血の気を失った顔は青白く、呼吸はとても弱かった。だが、まだ生きていた。

ウィッカーがジャニスの名前を呼ぶと、閉じられていた瞼がかすかに開かれた。

「・・・あ、ウィッカー・・・・・よかった・・・い、きて・・・・た」

「ジャニス・・・なんで・・・なんで自分を治療しなかった・・・・・なんで、俺に・・・魔力を・・・・・」

この時、ウィッカーは気付いていた。
自分の中に感じる新たな力、幼い頃から身近にあったこの魔力は、ジャニスの魔力だと。
ジャニスが師ブレンダンと同じく、自分に生命エネルギー、そして白の魔力を渡したのだと。

「ジャニス・・・なんで・・・」

両の眼から涙が溢れてきた。
なぜだ?なぜ、俺に魔力を・・・・・

「こ・・・れを・・・」

ジャニスはローブの内ポケットから取り出したソレを、俺の手に握らせた。

「え、これ・・・」

これは・・・これを俺に使えと言うのか?・・・俺に使えるのか?


「ウィッカー・・・ありがとう・・・・・・・・・・・・」


最後に一度優しく微笑むと、抱き起していたジャニスの体から力が抜け、右手がダラリと下がり落ちた。閉じられた瞼は二度と開かない。




「・・・お、おい!ジャ、ジャニス!・・・・・ジャニス・・・・・・う・・・・ああ・・・・・
あ・・・・・うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッツ!」


なぜだ!?
なぜジャニスが、師匠が、ジョルジュが、パトリックさんが、エロールが、エリンが・・・・・なぜみんなが死ななければならない!

俺の腕の中でその命の灯を消したジャニスを抱きしめ、俺は声の限り叫んだ。

怒りで頭がどうにかなりそうだった。
これほど強い怒りを覚えた事も、誰からをこんなに憎んだ事も初めてだった。


「フッ・・・・・やっと死んだようだな、何度も余を邪魔しおって、忌々しい女だった」

「・・・・・なんだと」

背後からかけられた嘲笑う言葉に、ウィッカーは静かな反応を見せた。

「聞こえなかったか?馬鹿な女だったと言ったのだよ。貴様を救うために自分の治療もせず、その結果死んでしまうとは、愚かとしか言えんだろう?」


「・・・・・もう一度言ってみろ」


動かなくなったジャニスを抱きしめながら、ウィッカーは後ろに立つ皇帝に、恐ろしい程冷たい言葉を返した。


「聞こえなかったか?ならば何度でも言ってやろう。その女は愚かだと言ったのだ。余の誘いを断り、貴様を生かすために自分の命を捨てた馬鹿だと言ったのだよ」

背後に立つ皇帝は、ウィッカーを見下ろしながら嘲笑し侮蔑の言葉を発した。


その行為はウィッカーのなにかを切った。


「・・・・・」

ウィッカーはジャニスの遺体をそっと置くと、皇帝に背を向けたまま立ち上がった。
静かでとても悲しい背中だった。

「フッ、そろそろ決着をぐばぁッ!」

ウィッカーの背に向かって、皇帝が口を開いたその時だった。


「お前は許さない。殺してやる」


胃液を吐き散らし、目を見開いて唇をわななかせる皇帝の腹には、ウィッカーの右拳が深々と突き刺さっていた。
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