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【916 砂時計】

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「フハハハハハハハ!塵と化すがいい!」

「皇帝ー------ッツ!」


どうする!?
防げるか?どうやって?俺の光源爆裂弾で相殺できるか!?いや無理だ。溜める時間がない。
躱す?駄目だ・・・直撃を躱せても爆発には巻き込まれる。それに俺だけ躱せてもジャニスはどうする?
白魔法使いのジャニスに、これを防ぐ手段なんて・・・・・ッ!


ある!

「ジャニ・・・!」
「ヤァァァーー---ッツ!」

振り返って俺がジャニスに呼びかけるより早く、ジャニスは羽織っているローブの内ポケットからソレを取り出すと、上空から迫りくる皇帝の光源爆裂弾に向かって投げつけた!

ジャニスが投げた物は、手の平に治まる程度の茶色の革袋。
魔道具、魔封塵(まふうじん)である。

魔封塵はその塵に触れた魔法を、強制的に無効化する魔道具である。
それは大きさも強さも関係なく、いかなる魔法も等しく塵として消し去る、絶対防御といっていい魔道具である。

そしてそれは、皇帝の光源爆裂弾とて例外ではない。


「な・・・なんだとぉぉぉぉぉぉぉー-----ッツ!?」


皇帝は目の前で起きた事が理解できず、目を見開いて絶叫した。

たった今撃った光源爆裂弾が、まるで霧を散らしたかのように、一瞬にして消滅してしまったのである。

ウィッカーは黒魔法を使っていない。そもそも、黒魔法に自分の光源爆裂弾をかき消す魔法など存在しない。
では霊魔力か?皇帝にも未知の力である霊魔力ならば、なにか手段があるかもしれない。
そう考えたが、やはり違うと直感がうったえた。

ぶつかり合って押し負けたのであれば分かる。黒魔法使いの戦いならば、撃ちあいは当たり前だからだ。
だが、まるで風に溶けて消えたかのように、突然その力を消失するのはありえない。


「ウィッカー・・・貴様いったい・・・む?」

皇帝はウィッカーが何かをしたと思っていた。
空中から地上に立つウィッカーを睨みつけるが、ウィッカーの傍らに立つ白いローブを羽織ったジャニスに気付き、頭の中で絡まった糸が解けた。


「・・・そうか、ジャニス・・・貴様だな?」

意表を突かれていた。
回復専門の要員として見られているが、白魔法使いとて魔道具は持っている。

ジャニスが攻撃には参加してこなかったため、どうせ回復だけだと思い込んでいた。

「ぬかったわ・・・何をしたか分からんが、まさか余の光源爆裂弾を消す程の魔道具を持っていたとはな・・・」

噛み合わせた歯を軋ませる。屈辱にこめかみに青い筋が浮かび出る。
必殺の光源爆裂弾をあっさりと消された事は、皇帝の自尊心に泥を塗っていた。

怒りと共に全身から滲み出るドス黒い魔力は、まるで皇帝の裏の顔のように、凶悪な殺意を孕んでいた。




「ジャニス・・・助かったが、ここからは・・・」

上空の皇帝を見据えたまま、ウィッカーはジャニスを下がらせようと、右手を前に出した。

「ウィッカー、二人だよ。私が皇帝の魔法を防ぐから、ウィッカーは攻撃に専念して。私達二人で戦うよ」

だがジャニスは、自分を止めるように前に出されたウィッカーの右手を掴むと、有無を言わさぬ強い目をウィッカーに向けた。

光源爆裂弾を魔封塵で消した事は助けられた。
だが、この凶悪な能力を持つ皇帝を相手に、ジャニスを前に出す事は躊躇われた。

霊魔力があれば正面から戦える。
だが皇帝が時を止めれば、魔力も何もないのだ。防ぐ事も躱す事もできない。
ジャニスを護る方法が無いのだ。

ジャニスを前に出したくはなかった。
だが視線を交わしたウィッカーは、ジャニスの決意の強さを感じ、分かった、と一言だけ口にした。


「くるぞ!油断するなよ!」

空中に浮かぶ皇帝の殺気を感じ取り、ウィッカーは魔空の枝を握り締めて、ジャニスの前に出た。
その体からは青い光の魔力が滲み出ていた。そう、魔力と霊気を合わせた霊魔力である。

「うん!」

ジャニスはローブの内ポケットから茶色の革袋を取り出すと、皇帝を睨み付けた。
いつどんな魔法が来ても迎撃できるように、皇帝からは目を離さない。
ジャニスの覚悟は本物だった。皇帝の上級魔法からも逃げようとしないで、前に進み出る。
魔封塵の力は本物だが、光源爆裂弾の前に飛び出して投げつけるという事は、並の精神力ではない。


魔空の枝を突きつけ皇帝と睨み合うウィッカー。

いかなる魔法も全て自分が消し去ってみせる。その覚悟を持ってウィッカーの隣に立つジャニス。


「フッ・・・愚かな」


深紅のローブから取り出した砂時計を逆さにする。
上に溜まった砂が下に落ちた瞬間、ウィッカーとジャニスの目に映る景色が色を失い、二人は体の動かし方を忘れたかのように、一切の動きを止めた・・・いや、止めさせられた。


「クックック・・・これが余の魔道具、砂時計だ」

脚に纏う風を解いて、地上へと落下する。
着地の瞬間に強い風を発し、衝撃を弱めて降り立った。

皇帝が上空から姿を消しても、ウィッカーとジャニスの顔は上を向いたままだった。
それは皇帝の動きが見えていない、認識できていないからだ。

「ウィッカーよ、貴様は余の能力に気付いたのかもしれんな。だが、気付いたところでどうしようもないのが砂時計の力だ。なぜだか分かるか?」

皇帝は右手に冷気の魔力を集中させると、手の平に鋭い氷の槍を作りだした。
そしてウィッカーに狙いを付けると、大きく口を開けて叫んだ。

「止まった時の中で動けるのは、余一人だけだからだーーーーーッツ!」


撃ち放った氷の槍はウィッカーの胸を貫き、後ろの壁に突き刺さった。
停止した時の中ではウィッカーは倒れない。胸に風穴を空けられても眉一つ動かさない。

しかしそれは時間が止まっているからである。時が動き出せば・・・・・


「タイムリミットだ」

不敵に笑う皇帝。


「・・・うっ・・・がぁ・・・っ!?」

ウィッカーの瞳に色が戻ったその時、突然の激痛が胸を襲い、脳に突き刺さった。
胸から噴水のように吹き出す真っ赤な鮮血、喉の奥からせり上がってきた血を吐き出し、ウィッカーは自分の体の状態を理解した。


こ・・・これは・・・!?
む、胸を、やられた・・・のか?い、息が・・・・・・


「ウィッカーーーーーッツ!」

ジャニスの悲鳴が耳に届く。

「ジャ・・・ニ、ス・・・・・」

硬い動きで首を回す。二人の目が合った。


・・・ジャ、ニス・・・逃げ、ろ・・・・・・・


唇を動かしそれだけを伝えると、ウィッカーの膝から力が抜けて正面から倒れた。
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