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【914 軍を預かる立場】
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「ペトラ隊長!全兵士の避難が完了しました!」
息を切らせた兵士が報告に来る。
振り返って見渡すと、カエストゥス軍は体力型も魔法使いも全員が、城から大きく後退をしていた。
「よし、そのまま待機だ。戦闘再開の号令は私が出す。今のうちに体を休めておけ。だが気持ちは切らすなよ」
兵士は姿勢を正して返事をすると、持ち場に戻って行き、私からの指示を各部隊に伝えて回る。
ジョルジュ様もパトリック様もいなくなった。
そしてブレンダン様もウィッカー様も城へ乗り込んだ今、軍の指揮をとれるのは私しかいない。
戦局はカエストゥスに有利だった。
帝国は数の上ではカエストゥスに勝っているが、主力を失い動揺が広がっている今が、帝国を倒す絶好の機会だった。
だが、退くしかなかった。
なぜならあまりにも危険だったからだ。あのまま突き進んで城に乗り込んでいたら、全滅していたかもしれない。
「・・・無事、なのだろうか・・・」
私は地面に大剣を突き刺すと、この目に帝国の城を映した。
いや、あれはもはや、城と表現していいのか分からないくらい倒壊している。
爆発魔法によって二階と三階が吹き飛ばされ、それによって崩れ落ちた天井や床が、瓦礫の山を築き上げている。
そしてさっき見たあの二体の炎の竜・・・あれは上級火魔法の灼炎竜だ。
私も灼炎竜は何度も見た事がある。しかしあれほど巨大な竜は見た事がない。
元魔法兵団団長のロビン様だって、15メートルがやっとだった。
だが、あの二体の竜は、20・・・いや30メートル以上はあっただろう。
あまりにも巨大で、恐ろしい程の強さだった。
近づけばその熱気だけで焼き殺されてしまう。そう思わせられる程のプレッシャーだった。
だから私は即座に退避を指示した。
あのまま二体の竜の激突に巻き込まれれば、多くの犠牲を払っていただろう。
むざむざと兵を失うわけにいかなかった。
その業火で城を焼き、目に映る全てを破壊してぶつかりあう二体の灼炎竜を見て、カエストゥスも帝国も、距離をとって避難する事を選んだ。しかたのない事だ。
30メートル級の炎の竜がぶつかりあうだけで、その巨大な火の粉を撒き散らし、触れるもの全てを焼いてしまうのだ。巻き込まれればひとたまりもない。
それほど激しいぶつかりあいだったのだ。
あれ程の竜を出せるのは、おそらくウィッカー様、そして皇帝だろう。
二人が戦っているんだ。
この竜のぶつかりあいを制した方が勝つ。誰もがそう思っていた事だろう。
しかし私も含め、誰もが目を奪われたのはその後だった。
せめぎ合う竜の片方がさらに大きさを増し、もう片方の竜を制圧したと思ったその直後、倒された竜は炎を青く変えて起き上がったのだ。
灼炎竜は、赤々と燃える炎の竜だ。青い炎の灼炎竜なんて見た事がない。
信じられないものを前に、カエストゥス軍も帝国軍も、誰もが今が戦いの最中だという事も忘れて、ただ見入ってしまったのだ。
「二体の竜のぶつかりあいは、青い炎の竜が制した。多分・・・あれがウィッカー様の灼炎竜だ。私には魔力は感じ取れないが、青い竜からは邪悪な感じはしなかった。だから、皇帝との戦いはウィッカー様が優勢なはずだ。だけど・・・・・」
だけど、この胸騒ぎはなんだ?
城にはウィッカー様だけではない。ブレンダン様もジャニス様も入った。
あの三人が揃って負ける姿など想像もできない。
だけど・・・なぜだ。なぜこんなに嫌な汗が流れる?
「・・・どうか・・・無事で・・・」
地面に突き刺した大剣を強く握り締める。
できる事なら私も城へ入りたい。ヤヨイさん、ルチル、ドミニク隊長・・・みんなの仇である皇帝に、この剣で一太刀浴びせてやりたい。
だが、今私までこの場を抜けるわけにはいかない。
今は私がこの軍を預かる立場だ。
だから私個人の感情は押さえて、全体を考えて行動しなければならない。
私は皇帝との戦いの場に立つ事はできない。
だけど・・・
「この戦いは私が勝利に導いてみせる」
反対側に退避し、こちらの様子を伺っている帝国軍に目を向けた。
ヤツらとの間にはかなりの距離がある。
だが、こっちに向けられる殺気はビシビシと伝わってくる。灼炎竜の危険が無くなれば、すぐにでも仕掛けてくるだろう。
面白い・・・
このペトラ・ディサイアの首、とれるものならとってみろ!
だが、次にぶつかる時は、貴様ら帝国が滅びる時だと知れ!
高まっていく気が大剣を通して、地面に亀裂を走らせる。
私は戦闘体勢に入った。
息を切らせた兵士が報告に来る。
振り返って見渡すと、カエストゥス軍は体力型も魔法使いも全員が、城から大きく後退をしていた。
「よし、そのまま待機だ。戦闘再開の号令は私が出す。今のうちに体を休めておけ。だが気持ちは切らすなよ」
兵士は姿勢を正して返事をすると、持ち場に戻って行き、私からの指示を各部隊に伝えて回る。
ジョルジュ様もパトリック様もいなくなった。
そしてブレンダン様もウィッカー様も城へ乗り込んだ今、軍の指揮をとれるのは私しかいない。
戦局はカエストゥスに有利だった。
帝国は数の上ではカエストゥスに勝っているが、主力を失い動揺が広がっている今が、帝国を倒す絶好の機会だった。
だが、退くしかなかった。
なぜならあまりにも危険だったからだ。あのまま突き進んで城に乗り込んでいたら、全滅していたかもしれない。
「・・・無事、なのだろうか・・・」
私は地面に大剣を突き刺すと、この目に帝国の城を映した。
いや、あれはもはや、城と表現していいのか分からないくらい倒壊している。
爆発魔法によって二階と三階が吹き飛ばされ、それによって崩れ落ちた天井や床が、瓦礫の山を築き上げている。
そしてさっき見たあの二体の炎の竜・・・あれは上級火魔法の灼炎竜だ。
私も灼炎竜は何度も見た事がある。しかしあれほど巨大な竜は見た事がない。
元魔法兵団団長のロビン様だって、15メートルがやっとだった。
だが、あの二体の竜は、20・・・いや30メートル以上はあっただろう。
あまりにも巨大で、恐ろしい程の強さだった。
近づけばその熱気だけで焼き殺されてしまう。そう思わせられる程のプレッシャーだった。
だから私は即座に退避を指示した。
あのまま二体の竜の激突に巻き込まれれば、多くの犠牲を払っていただろう。
むざむざと兵を失うわけにいかなかった。
その業火で城を焼き、目に映る全てを破壊してぶつかりあう二体の灼炎竜を見て、カエストゥスも帝国も、距離をとって避難する事を選んだ。しかたのない事だ。
30メートル級の炎の竜がぶつかりあうだけで、その巨大な火の粉を撒き散らし、触れるもの全てを焼いてしまうのだ。巻き込まれればひとたまりもない。
それほど激しいぶつかりあいだったのだ。
あれ程の竜を出せるのは、おそらくウィッカー様、そして皇帝だろう。
二人が戦っているんだ。
この竜のぶつかりあいを制した方が勝つ。誰もがそう思っていた事だろう。
しかし私も含め、誰もが目を奪われたのはその後だった。
せめぎ合う竜の片方がさらに大きさを増し、もう片方の竜を制圧したと思ったその直後、倒された竜は炎を青く変えて起き上がったのだ。
灼炎竜は、赤々と燃える炎の竜だ。青い炎の灼炎竜なんて見た事がない。
信じられないものを前に、カエストゥス軍も帝国軍も、誰もが今が戦いの最中だという事も忘れて、ただ見入ってしまったのだ。
「二体の竜のぶつかりあいは、青い炎の竜が制した。多分・・・あれがウィッカー様の灼炎竜だ。私には魔力は感じ取れないが、青い竜からは邪悪な感じはしなかった。だから、皇帝との戦いはウィッカー様が優勢なはずだ。だけど・・・・・」
だけど、この胸騒ぎはなんだ?
城にはウィッカー様だけではない。ブレンダン様もジャニス様も入った。
あの三人が揃って負ける姿など想像もできない。
だけど・・・なぜだ。なぜこんなに嫌な汗が流れる?
「・・・どうか・・・無事で・・・」
地面に突き刺した大剣を強く握り締める。
できる事なら私も城へ入りたい。ヤヨイさん、ルチル、ドミニク隊長・・・みんなの仇である皇帝に、この剣で一太刀浴びせてやりたい。
だが、今私までこの場を抜けるわけにはいかない。
今は私がこの軍を預かる立場だ。
だから私個人の感情は押さえて、全体を考えて行動しなければならない。
私は皇帝との戦いの場に立つ事はできない。
だけど・・・
「この戦いは私が勝利に導いてみせる」
反対側に退避し、こちらの様子を伺っている帝国軍に目を向けた。
ヤツらとの間にはかなりの距離がある。
だが、こっちに向けられる殺気はビシビシと伝わってくる。灼炎竜の危険が無くなれば、すぐにでも仕掛けてくるだろう。
面白い・・・
このペトラ・ディサイアの首、とれるものならとってみろ!
だが、次にぶつかる時は、貴様ら帝国が滅びる時だと知れ!
高まっていく気が大剣を通して、地面に亀裂を走らせる。
私は戦闘体勢に入った。
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