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【910 皇帝の魔道具】
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「フハハハハハハハハハッ!ブレンダン・ランデルもあっけないものだなぁッ!まぁ、老いぼれにしてはよくやったと褒めてやろう!」
血の雨を全身に浴びながら、皇帝は嗤った。
ブレンダン・ランデルは強敵だった。自分に迫る程の魔力を持ち、霊魔力という厄介な力まで使ってくる。
まともに戦っては苦戦は必死、事実、最後の攻撃は危なかった。
「余に、魔道具まで使わせたのだからな」
血まみれで横たわるブレンダンを見下ろし、皇帝は小さく呟いた。
そう、ウィッカーのトルネード・バーストを躱したのも、ブレンダンの背後をとったのも、皇帝の魔道具によるものだった。
皇帝は深紅のローブの内ポケットから、手の平に収まるくらいの透明な筒を取り出した。
中心がくびれている透明な筒で、その中には砂が入っていた。筒には木製の丸い台座が上下に付いていて、どちらが上か下というデザインではなく対称だ。
ひっくり返せば、片方に溜まった砂が落ちるしかけになっている。
「余に、砂時計を使わせた事を誇りに思い、あの世へ旅立つがいい」
「・・・し、師匠・・・師匠・・・・・」
目の前で倒れている、血まみれの師の体を抱き起す。
腰から下は斬り落とされて左腕も無い。胸に大穴も開けられている。
絶命している事は確認するまでもなかった。
俺の呼びかけに答えるはずもなく、師匠の首は力無く折れた。
「し・・・師匠・・・・・・」
動かなくなった師を抱きしめた。
・・・こんなに小さかったのか?
子供の頃からしごかれて、いつだって俺より強くて大きな存在だった師匠。
それが・・・こんな・・・・・
師匠・・・・・
師匠、俺に何を残したんですか?
この体の中に宿る熱、これは師匠の魔力ですか?
俺の体に師匠の魔力が流れ込んだと思ったのは、やはり夢ではなかったんですね。
血まみれの師の姿に、胸が締め付けられる。
こんなにボロボロになって・・・どれだけ苦しかっただろうか。
けれど、眠る師匠の顔はどこか安らかに見えた。それは、師匠が俺にこれを残せたからだろうか?
ウィッカー・・・・・ワシの全てをお前に託す
拳を握り締める。ようやく力が入るようになってきた。
するとあれだけ熱かった体温も、落ち着きを取り戻してきた。
「ウィッカーよ、どうやら復活したようだな?ブレンダンは始末した。次は貴様だ」
砂利を踏む足音が近づいて来る。一歩一歩、ゆっくりと距離を詰めながら、皇帝は師の亡骸を抱くウィッカーに声をかけた。
「立ちたまえ。それとも師の遺体を前にして、戦う気力も無くしてしまったかね?」
「・・・俺は、ただ、毎日をのんびり暮らせればよかったんだ」
「・・・なんの話しだ?」
正面に立ち、自分を見下ろす皇帝に対し、ウィッカーは顔を上げずに話し出した。
「毎日孤児院で子供達と遊んで、レイジェスで働いて、メアリーのご飯を食べて、ティナの成長を見る。そこには師匠がいて、ヤヨイさんがいて、ジョルジュがいて、ジャニスがいて・・・・・俺は、それだけでよかった・・・」
「フッ、くだらんな。何を語るかと思えば・・・貴様の生活などに興味は無い」
師の亡骸をそっと横たえる。
膝に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。
吹き抜けになった天井から雪が舞い降りてくる。それは師匠の体を少しづつ白く覆い隠していった。
「皇帝、お前はカエストゥスの平和を踏みにじった。俺は絶対にお前を許さない」
「ほう・・・許さないのならば、どうするというのだね?」
顔を上げて皇帝を睨み付ける。皇帝もまた、俺から視線を逸らす事はなかった。
自分が負ける事など微塵も考えていない。絶対の自信と余裕。皇帝の目は支配者たる者の自尊心で満ちていた。
「・・・こうするんだ」
強く拳を握り締める。魔力を炎に変えて放出する。
炎が竜を形作り、竜は俺の魔力の高まりに呼応するように、強く大きさを増していく。
そして竜は天井の吹き抜けを越え、天をも焦がす程に燃え上がった。
「灼炎竜か・・・貴様は火魔法が得意だったな?」
ニヤリと笑う皇帝は、俺のこの灼炎竜を見ても、まるで動じる事はなかった。
さすがの魔力という事だろう。
「皇帝・・・決着をつけてやる」
灼炎竜は黒魔法使いの代名詞ともいえる魔法であり、俺が最も得意とする魔法でもある。
皇帝との決着は、やはりこの魔法しかない。
「よかろう。せっかくだ、貴様と余の格の違いを分からせてやろう」
皇帝がニヤリと笑みを浮かべると、その体から炎が噴き出した!
「皇帝・・・」
皇帝の体から発せられた炎が竜へと姿を変える。
大きさだけ見れば15メートル級だが、炎の竜の秘めた魔力は、まだまだ巨大になれる事を容易に想像させた。
「さぁかかってこい、ウィッカー」
皇帝が右手を俺に向けると、その手の動きに合わせて炎の竜の顎が動き、俺に向かって威嚇するように唸り声を上げた。
「ああ・・・いくぞ!」
右手を投げつけるようにして、皇帝に向かって振るう!
俺の灼炎竜は上空から皇帝に向かって、大顎を開けて襲い掛かった!
血の雨を全身に浴びながら、皇帝は嗤った。
ブレンダン・ランデルは強敵だった。自分に迫る程の魔力を持ち、霊魔力という厄介な力まで使ってくる。
まともに戦っては苦戦は必死、事実、最後の攻撃は危なかった。
「余に、魔道具まで使わせたのだからな」
血まみれで横たわるブレンダンを見下ろし、皇帝は小さく呟いた。
そう、ウィッカーのトルネード・バーストを躱したのも、ブレンダンの背後をとったのも、皇帝の魔道具によるものだった。
皇帝は深紅のローブの内ポケットから、手の平に収まるくらいの透明な筒を取り出した。
中心がくびれている透明な筒で、その中には砂が入っていた。筒には木製の丸い台座が上下に付いていて、どちらが上か下というデザインではなく対称だ。
ひっくり返せば、片方に溜まった砂が落ちるしかけになっている。
「余に、砂時計を使わせた事を誇りに思い、あの世へ旅立つがいい」
「・・・し、師匠・・・師匠・・・・・」
目の前で倒れている、血まみれの師の体を抱き起す。
腰から下は斬り落とされて左腕も無い。胸に大穴も開けられている。
絶命している事は確認するまでもなかった。
俺の呼びかけに答えるはずもなく、師匠の首は力無く折れた。
「し・・・師匠・・・・・・」
動かなくなった師を抱きしめた。
・・・こんなに小さかったのか?
子供の頃からしごかれて、いつだって俺より強くて大きな存在だった師匠。
それが・・・こんな・・・・・
師匠・・・・・
師匠、俺に何を残したんですか?
この体の中に宿る熱、これは師匠の魔力ですか?
俺の体に師匠の魔力が流れ込んだと思ったのは、やはり夢ではなかったんですね。
血まみれの師の姿に、胸が締め付けられる。
こんなにボロボロになって・・・どれだけ苦しかっただろうか。
けれど、眠る師匠の顔はどこか安らかに見えた。それは、師匠が俺にこれを残せたからだろうか?
ウィッカー・・・・・ワシの全てをお前に託す
拳を握り締める。ようやく力が入るようになってきた。
するとあれだけ熱かった体温も、落ち着きを取り戻してきた。
「ウィッカーよ、どうやら復活したようだな?ブレンダンは始末した。次は貴様だ」
砂利を踏む足音が近づいて来る。一歩一歩、ゆっくりと距離を詰めながら、皇帝は師の亡骸を抱くウィッカーに声をかけた。
「立ちたまえ。それとも師の遺体を前にして、戦う気力も無くしてしまったかね?」
「・・・俺は、ただ、毎日をのんびり暮らせればよかったんだ」
「・・・なんの話しだ?」
正面に立ち、自分を見下ろす皇帝に対し、ウィッカーは顔を上げずに話し出した。
「毎日孤児院で子供達と遊んで、レイジェスで働いて、メアリーのご飯を食べて、ティナの成長を見る。そこには師匠がいて、ヤヨイさんがいて、ジョルジュがいて、ジャニスがいて・・・・・俺は、それだけでよかった・・・」
「フッ、くだらんな。何を語るかと思えば・・・貴様の生活などに興味は無い」
師の亡骸をそっと横たえる。
膝に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。
吹き抜けになった天井から雪が舞い降りてくる。それは師匠の体を少しづつ白く覆い隠していった。
「皇帝、お前はカエストゥスの平和を踏みにじった。俺は絶対にお前を許さない」
「ほう・・・許さないのならば、どうするというのだね?」
顔を上げて皇帝を睨み付ける。皇帝もまた、俺から視線を逸らす事はなかった。
自分が負ける事など微塵も考えていない。絶対の自信と余裕。皇帝の目は支配者たる者の自尊心で満ちていた。
「・・・こうするんだ」
強く拳を握り締める。魔力を炎に変えて放出する。
炎が竜を形作り、竜は俺の魔力の高まりに呼応するように、強く大きさを増していく。
そして竜は天井の吹き抜けを越え、天をも焦がす程に燃え上がった。
「灼炎竜か・・・貴様は火魔法が得意だったな?」
ニヤリと笑う皇帝は、俺のこの灼炎竜を見ても、まるで動じる事はなかった。
さすがの魔力という事だろう。
「皇帝・・・決着をつけてやる」
灼炎竜は黒魔法使いの代名詞ともいえる魔法であり、俺が最も得意とする魔法でもある。
皇帝との決着は、やはりこの魔法しかない。
「よかろう。せっかくだ、貴様と余の格の違いを分からせてやろう」
皇帝がニヤリと笑みを浮かべると、その体から炎が噴き出した!
「皇帝・・・」
皇帝の体から発せられた炎が竜へと姿を変える。
大きさだけ見れば15メートル級だが、炎の竜の秘めた魔力は、まだまだ巨大になれる事を容易に想像させた。
「さぁかかってこい、ウィッカー」
皇帝が右手を俺に向けると、その手の動きに合わせて炎の竜の顎が動き、俺に向かって威嚇するように唸り声を上げた。
「ああ・・・いくぞ!」
右手を投げつけるようにして、皇帝に向かって振るう!
俺の灼炎竜は上空から皇帝に向かって、大顎を開けて襲い掛かった!
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