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【908 師の受け渡した全て】
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「・・・・・お、おとう、さん!」
目の前で起き事が信じられなかった。父が、皇帝に背中から胸を貫かれている。
なぜ?どうして?
だって、さっきまでお父さんが皇帝を倒そうとしていた。
魔空の枝の力で、あともう少しのところまで追い詰めていた。
私は瞬きだってしていなかったと思う。
だけど・・・いつの間にか?気が付いたら?お父さんは皇帝に後ろを取られていた。
皇帝が動くところも、魔空の枝の力から脱出するところも、まったくなにも見えなかった。
いったいどうやって・・・?
「が、ああ・・・う、ぐはぁッ!」
苦痛に顔を歪ませて、血を吐き散らしたお父さんを見て、私は足元に落ちていたガラスの破片を掴むと、あれこれ考えるよりも走り出していた。
私には攻撃手段はなにもない。こんなガラスで戦えるなんて思ってもいない。
だけど父を刺されて、黙っている事なんてできない!
「皇帝ー----ッ!お父さんを離せぇぇぇぇぇー-----ッ!」
「ブレンダンの娘ジャニスか。噂は聞いているぞ。桁違いの治癒力を持っているらしいな?破裂した臓器を治した事もあるとか?なるほど、貴様ならこの状態でもブレンダンを救えるかもしれん。だが、させると思うか?」
皇帝は私に左手を向けると、魔力をそのまま飛ばして来た。
「うぐッ・・・・!」
胸に強い魔力の衝撃を受け、私はそのまま壁まで吹き飛ばされた。
背中と頭を叩きつけられて目の前が真っ暗になったと思ったら、そのまま意識が遠くなっていった。
ジャニスが意識を失っていた時間はそれほど長くはない。
ほんの数分程度だが、その数分で事態は大きく動いた。
皇帝はジャニスが起き上がって来ない事を確認すると、ブレンダンを投げ捨てるようにして右手を引き抜いた。
血飛沫が飛び散り、皇帝の頬にも赤い色付けたが、露程も気にかける事はなかった。
ただ、己の足元に倒れ伏した老人を見下ろして、歪んだ笑みを浮かべていた。
ブレンダンからは、もはや生気の欠片も感じられなかった。
指先一つぴくりとも動かない。力なく倒れているその姿は、すでに事切れているように見えた。
ウィッカーは爆裂弾の集中砲火を浴びせて、戦闘不能に追い込んだ。
ジャニスはそもそも戦う力は持っておらず、今は気を失っている。
決着はついた。
皇帝たる自分に、愚かにも挑んで来た者達を返り討ちにした。勝利の瞬間であった。
「クックック・・・大陸一だの、生ける伝説だの、たいそうな二つ名をもっていたわりに、あっけなかったな?余が少しばかり本気を出せばこんなものか」
「さすがでございます。皇帝、あのウィッカーとブレンダンをこうもたやすく始末なされるとは・・・」
ジャフ・アラムが皇帝の勝利にうやうやしく頭を下げて称讃を述べる。
「ジャフか、まんまとブレンダンに押さえ込まれていたな?」
皇帝と二分され、ブレンダンに封じ込められていた事を指摘されると、ジャフは表情を硬くし、額に汗を浮かべながら深々と頭を下げた。
「も、申し訳ありません!ブレンダンの霊魔力を防ぐだけで精一杯でございました!このジャフの力不足でございます!」
「クックック、まぁよい、そう気にするな。結果的にこうして始末できたのだ。我らの勝利だ」
そう話しながら皇帝は手を広げた。
ウィッカー、ブレンダン、ジャニス、倒れている三人の姿を、敗者として印象付けるように見せる。
ジャフ・アラムは一瞬前まで、冷や汗を流していた事など忘れてしまったように、歓喜に満ちた表情で声を弾ませた。
「やはり皇帝は唯一無二でございます!もはやカエストゥスに戦力は残ってないでしょう!帝国の勝利でございます!」
最強だ!やはり皇帝は最強だ!ウィッカーにブレンダン、この二人でも皇帝には届かなかった!
これでカエストゥスはお終いだ!このままカエストゥスに攻め入って滅ぼしてやる!
タジーム・ハメイドが残っているが、皇帝の敵ではない!皇帝は最強なのだ!
雑兵が残っているが、主力はほぼ全滅した。ゆるぎない勝利に、抑えきれない程の高揚感がジャフの全身を駆け巡った。
ここまでの戦いで、城はほとんど崩壊していた。
あらためて見渡してみると、あちこちで倒れている兵士達の姿があった。おそらく皇帝の爆裂空破弾の巻き添えを受けたのだろう。だが、自国の兵士達の亡骸を目にしても、皇帝は眉の一つも動かす事はなかった。
彼らは兵として城の警備につき、その結果巻き添えを受けて命を落とした。
皇帝にとっては、ただそれだけの事だった。そこには惜しむ気持ちも、労わる気持ちも無い。
「・・・フッ、どれ、それではそろそろウィッカーとジャニスにトドメをくれて・・・ん?」
勝利の余韻にひたっていた皇帝が、まだ息のあるウィッカーとジャニスを始末しようと、手の平に魔力を集めたその時、すでに息絶えたと思われてれていたブレンダンから、うめき声がもれ聞こえた。
「・・・ぐっ・・・ごふっ・・・・・」
血を吐き散らしながら手を伸ばし、同じく倒れている弟子のウィッカーへと這いずって行く。
まだ息があった事へも驚いたが、その命が風前の灯である事は明白だった。
「ブ、ブレンダン、まだ息があったのか!?死にぞこないが!」
「フッ、ジャフよ、最後に弟子の顔を見たいのだろう。放っておけ」
目を開き、前のめりになるジャフを止める。
ローランド・ライアンにとって、皇帝とは人類の頂点。王の中の王たる自信と余裕が、ブレンダンの最後の行動を自由にさせる事を許した。
その結果、ブレンダンはウィッカーへ自身の最後の生命エネルギー。そして青魔法使いとしての全てを受け渡す事ができた。
そしてブレンダンのこの行為が、ウィッカーの後の生き方を縛り付ける事となった。
目の前で起き事が信じられなかった。父が、皇帝に背中から胸を貫かれている。
なぜ?どうして?
だって、さっきまでお父さんが皇帝を倒そうとしていた。
魔空の枝の力で、あともう少しのところまで追い詰めていた。
私は瞬きだってしていなかったと思う。
だけど・・・いつの間にか?気が付いたら?お父さんは皇帝に後ろを取られていた。
皇帝が動くところも、魔空の枝の力から脱出するところも、まったくなにも見えなかった。
いったいどうやって・・・?
「が、ああ・・・う、ぐはぁッ!」
苦痛に顔を歪ませて、血を吐き散らしたお父さんを見て、私は足元に落ちていたガラスの破片を掴むと、あれこれ考えるよりも走り出していた。
私には攻撃手段はなにもない。こんなガラスで戦えるなんて思ってもいない。
だけど父を刺されて、黙っている事なんてできない!
「皇帝ー----ッ!お父さんを離せぇぇぇぇぇー-----ッ!」
「ブレンダンの娘ジャニスか。噂は聞いているぞ。桁違いの治癒力を持っているらしいな?破裂した臓器を治した事もあるとか?なるほど、貴様ならこの状態でもブレンダンを救えるかもしれん。だが、させると思うか?」
皇帝は私に左手を向けると、魔力をそのまま飛ばして来た。
「うぐッ・・・・!」
胸に強い魔力の衝撃を受け、私はそのまま壁まで吹き飛ばされた。
背中と頭を叩きつけられて目の前が真っ暗になったと思ったら、そのまま意識が遠くなっていった。
ジャニスが意識を失っていた時間はそれほど長くはない。
ほんの数分程度だが、その数分で事態は大きく動いた。
皇帝はジャニスが起き上がって来ない事を確認すると、ブレンダンを投げ捨てるようにして右手を引き抜いた。
血飛沫が飛び散り、皇帝の頬にも赤い色付けたが、露程も気にかける事はなかった。
ただ、己の足元に倒れ伏した老人を見下ろして、歪んだ笑みを浮かべていた。
ブレンダンからは、もはや生気の欠片も感じられなかった。
指先一つぴくりとも動かない。力なく倒れているその姿は、すでに事切れているように見えた。
ウィッカーは爆裂弾の集中砲火を浴びせて、戦闘不能に追い込んだ。
ジャニスはそもそも戦う力は持っておらず、今は気を失っている。
決着はついた。
皇帝たる自分に、愚かにも挑んで来た者達を返り討ちにした。勝利の瞬間であった。
「クックック・・・大陸一だの、生ける伝説だの、たいそうな二つ名をもっていたわりに、あっけなかったな?余が少しばかり本気を出せばこんなものか」
「さすがでございます。皇帝、あのウィッカーとブレンダンをこうもたやすく始末なされるとは・・・」
ジャフ・アラムが皇帝の勝利にうやうやしく頭を下げて称讃を述べる。
「ジャフか、まんまとブレンダンに押さえ込まれていたな?」
皇帝と二分され、ブレンダンに封じ込められていた事を指摘されると、ジャフは表情を硬くし、額に汗を浮かべながら深々と頭を下げた。
「も、申し訳ありません!ブレンダンの霊魔力を防ぐだけで精一杯でございました!このジャフの力不足でございます!」
「クックック、まぁよい、そう気にするな。結果的にこうして始末できたのだ。我らの勝利だ」
そう話しながら皇帝は手を広げた。
ウィッカー、ブレンダン、ジャニス、倒れている三人の姿を、敗者として印象付けるように見せる。
ジャフ・アラムは一瞬前まで、冷や汗を流していた事など忘れてしまったように、歓喜に満ちた表情で声を弾ませた。
「やはり皇帝は唯一無二でございます!もはやカエストゥスに戦力は残ってないでしょう!帝国の勝利でございます!」
最強だ!やはり皇帝は最強だ!ウィッカーにブレンダン、この二人でも皇帝には届かなかった!
これでカエストゥスはお終いだ!このままカエストゥスに攻め入って滅ぼしてやる!
タジーム・ハメイドが残っているが、皇帝の敵ではない!皇帝は最強なのだ!
雑兵が残っているが、主力はほぼ全滅した。ゆるぎない勝利に、抑えきれない程の高揚感がジャフの全身を駆け巡った。
ここまでの戦いで、城はほとんど崩壊していた。
あらためて見渡してみると、あちこちで倒れている兵士達の姿があった。おそらく皇帝の爆裂空破弾の巻き添えを受けたのだろう。だが、自国の兵士達の亡骸を目にしても、皇帝は眉の一つも動かす事はなかった。
彼らは兵として城の警備につき、その結果巻き添えを受けて命を落とした。
皇帝にとっては、ただそれだけの事だった。そこには惜しむ気持ちも、労わる気持ちも無い。
「・・・フッ、どれ、それではそろそろウィッカーとジャニスにトドメをくれて・・・ん?」
勝利の余韻にひたっていた皇帝が、まだ息のあるウィッカーとジャニスを始末しようと、手の平に魔力を集めたその時、すでに息絶えたと思われてれていたブレンダンから、うめき声がもれ聞こえた。
「・・・ぐっ・・・ごふっ・・・・・」
血を吐き散らしながら手を伸ばし、同じく倒れている弟子のウィッカーへと這いずって行く。
まだ息があった事へも驚いたが、その命が風前の灯である事は明白だった。
「ブ、ブレンダン、まだ息があったのか!?死にぞこないが!」
「フッ、ジャフよ、最後に弟子の顔を見たいのだろう。放っておけ」
目を開き、前のめりになるジャフを止める。
ローランド・ライアンにとって、皇帝とは人類の頂点。王の中の王たる自信と余裕が、ブレンダンの最後の行動を自由にさせる事を許した。
その結果、ブレンダンはウィッカーへ自身の最後の生命エネルギー。そして青魔法使いとしての全てを受け渡す事ができた。
そしてブレンダンのこの行為が、ウィッカーの後の生き方を縛り付ける事となった。
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