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【905 皇帝とは】

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「ハァーーーッ!」

魔力を練って大きく右手を振るう。撃ち放つのは鋭く尖った氷の刃、刺氷弾!

「フン!たかが刺氷弾・・・っ!?」

「だけだと思ったか?」

ジャフは己に向けて放たれた氷の刃を、難なく結界で弾き飛ばした。
いかにウィッカーの魔力がジャフを上回っていても、ただの刺氷弾でどうにかなるほど弱くはない。しかしこの刺氷弾はただの囮。

ジャフが刺氷弾を弾くために結界を張った一瞬で、ウィッカーは距離を詰めていた。
鋭い右の蹴りがジャフの結界を叩きつける!

「うぐあァッッ!」

「結界は打撃でも破壊できる。しかも攻撃の魔道具を持たないお前は、俺への相性が最悪だぞ」

蹴りの衝撃でジャフが体勢をよろめかせると、ウィッカーは腰を回し、続けざまに左の蹴りを放とうと足を振り上げた!

「そうだな。だが、貴様も忘れてはいやしないか?」

ジャフの前に飛び出したのは皇帝。すでに魔力は練られており、発動はウィッカーの蹴りよりも早かった。

「皇帝!」
「二対二という事をなぁッ!」

両手を足元に向けて放ったのは、氷の魔力!一瞬にして冷気が広がり地面を凍り付かせる!
そして地面からは幾つもの、先の鋭く尖った巨大な氷の槍が、空へと向かい飛び出した!

「地氷走りかッ!」

己の胴体よりも太く、そして厚い巨大な氷の槍!まともに受ければ胴体が真っ二つに引き裂かれるだろう。
その一撃目を後ろへ跳んで躱すが、地面から突き出す氷の槍は、次から次へとウィッカーを追いかけ出て来る!

「ウィッカー!上に跳べぇー--ッ!」
「師匠!」

後ろからかけられたブレンダンの言葉に、ウィッカーは足に風を纏い高く飛び上がった。
師の指示に迷わず反応し行動できたのは、二人の積み上げてきた、師弟として信頼ゆえである。

「ブレンダン!?」
「皇帝、貴様もワシが青魔法使いだと忘れとらんか?」

左手を前に出して魔力を集中させると、青く輝く結界が出現する!

「ぬぉぉぉぉぉぉー----ッ!」

気合と共に、ブレンダンは皇帝の地氷走りを正面から受けた!
足元を揺らす振動に、空気を震わせる程の衝撃!何本も巨大な氷の槍が折り重なり、ブレンダンに圧し掛かっている。

「ぐっ、さすが皇帝、じゃな」

額から流れる汗が、頬を伝い顎先から滴り落ちる。
皇帝の地氷走りを止める事は容易ではない。ブレンダンもギリギリである。しかし、止めた。

「ちっ、ブレンダン!」

「今じゃウィッカーー-ッ!」

爆裂空破弾のみならず、地氷走りも止められた事に皇帝が舌を打ったその時、ブレンダンが上空のウィッカーに向かって声を張り上げた。


「むっ!?」

皇帝が視線を上げた上空、その先では、ウィッカーもまた皇帝を鋭く睨み付けていた。


両手を握り合わせて頭上高く掲げる。
集中させるのは風の魔力。拳の周りで風の渦を作り出し、そして力を込めて一気に降り下ろす!

「くたばれ皇帝ー----ッ!」


上級風魔法 トルネード・バースト!

撃ち放たれた巨大な竜巻!
上空から襲い掛かって来るそれは、肉を引き裂き骨を砕き、目の前の全てを破壊する!


「こ、皇帝!」

「おっと、ワシから目を離していいのか?ワシの霊魔力もあるのだぞ?」

皇帝に結界を使おうとするが、それよりも早くブレンダンがジャフに魔空の枝を突きつける!
放出された霊魔力の粒子を感じ取ると、ジャフは慌てて霊障石を前に出し、ブレンダンの霊魔力を抑え込む。

「ぐぅッ!き、貴様ブレンダン!」

苛立ちを露わにブレンダンを睨み付けるジャフ。

「ほれほれ!どうした?もっとしっかり押さえてみせんか?」

狙い通りにジャフと皇帝を分けたブレンダンは、ニヤリと笑って見せた。






「ウオォォォォォォーーーーーーーッ!」

完璧なタイミングだ!避けられるはずがねぇ!
俺のトルネードバーストで切り裂かれちまえぇーーーーーッツ!


ジャフ・アラムと分断された事で、皇帝に結界は無くなった。
トルネード・バーストを迎撃しようにも間に合わない。

このまま皇帝は、荒ぶる竜巻に身を引き裂かれるはずだった。しかし・・・・・


「フッ、余は皇帝だぞ。皇帝とはつまり、全人類の頂点」


結界は無い。迎撃は間に合わない。躱しようが無い。

しかし皇帝の表情には焦りの色は微塵もない。
それどころか皇帝は笑ってみせた。金色の目に心底嬉しそうな光を湛えて・・・・・





よし!決まっ・・・・・ッツ!?
トルネード・バーストが皇帝を直撃した!そう見えた瞬間だった。


「決まったと思ったか?」


耳元に囁かれた声に、ウィッカーの思考は一瞬だが完全に停止した。
眼下にいたはずの皇帝の姿はいつの間にか消え失せ、自分の真後ろにいるのだ。

なぜ?どうやって?一瞬たりとも目を離さなかった!いったいなにが!?

「墜ちろウィッカー」


振り返ろうとしたその瞬間、ウィッカーの背中が爆ぜた。
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