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【898 消えた男】
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「ロ、ロペス大臣!た、大変です!」
カエストゥス国、大臣エマヌエル・ロペスの執務室に、一人の兵が息を切らして走り込んで来た。
ノックもせずに乱雑にドアを開けた事に、本来であれば厳しい叱責をするところである。
だが、兵のただならぬ様子を見て、即座に急を要すると判断した。
「何事だ!?」
ロペスが言葉鋭く問い詰めると、兵士は呼吸を乱したまま、ロペスの問いに答えた。
「はぁっ、はぁっ、ベ、ベン、フィングが!元大臣の、ベンフィングが、ろ、牢からいなくなりました!」
「なッ・・・!?なん、だと?」
あまりにも予想外の言葉を耳にして、ロペスは言葉を失った。
カエストゥス国元大臣ベン・フィング。
この男はブレンダン・ランデルとの試合で、殺し屋ディーロを雇い、二万人の観客を巻き込んだ罪で、職を解かれ牢に入れられていた。
黒魔法使いのベン・フィングが決して破る事のできないよう、結界と同等の効果のある特殊な牢に繋いでおいたが、それを破ったというのか?
「・・・いったい、どうやって出たというのだ?看守は何をしていた?誰も気づかなかったというのか?」
眉間にシワが寄り口調が強くなると、兵士も慌てたように弁明を始めた。
「も、申し訳ありません!け、決してサボっていたわけではありません!た、ただいつの間にかいなくなっていたのです。看守だけではありません、城内の兵も、使用人も、誰にも気づかれる事なく、いつの間にかいなくなっていたのです・・・」
「誰にも気づかれず、いつの間にか・・・・・」
ロペスは兵士の言葉に引っかかりを覚えた。
誰にも気づかれずに、城から脱出する事など可能なのか?
感情的になりそうだった頭が一気に冷える。
方法はともかく、牢から脱出できたとしよう。看守の目も隙をついて逃れたとしよう。
しかし城内には大勢の兵士も使用人もいる。外に出るには門番の目もある。
それでどうやって脱出できるというのだ?
「・・・魔道具、か?」
真っ先に頭に浮かんだ可能性は、何らかの魔道具だった。
そしてもっとも可能性が高いと思える方法である。
ベン・フィングの救出に、何者かが入り込んだ可能性もゼロではないだろうが、失脚したあの男を危険をおかしてまで助ける理由があるとは思えない。
考えられる手段は魔道具だけだった。
「魔道具、ですか?しかし、ヤツは牢に入れられて、そんな物は持ち込みできなかったはずですが・・・」
「身体検査は外から分かる部分だけだったんじゃないか?体内に埋め込む魔道具もある。考えてみれば、この俺もベン・フィングの魔道具は知らん。ヤツは大臣だったし、戦う必要も無かったからな、深く考えた事もなかった」
「・・・そ、それでは、ベン・フィングは体内に隠し持っていた魔道具を使って、牢から脱出したという事でしょうか?」
ロペスの推察を聞き、兵士は固唾を飲んだ。
体内に埋め込むタイプの魔道具と言えば、寄生型が真っ先に思い浮かぶ。
おもに拷問として使われるため、あまり良い印象は持たれていない。
そしてそんな先入観があるがゆえ、身体検査でもわざわざ調べる事はなかった。
「・・・怠慢だったな。その可能性が高い。ヤツが姿を消してどの程度の時間が経っているか分かるか?」
「は、はい、昨夜、夕食を届けた使用人が確認しております。時刻は18時だったそうですので、その時間までは牢にいたはずです」
「・・・今が7時30分か、つまり朝食を届けに行ったら、ベンの姿は消えていたというわけか・・・なるほど・・・・・」
ロペスは顎に手を当てると、考えを整理するように黙り込んだ。
緊張が空気を通して伝わってくる。うかつに話す事ができず、兵士は口を閉じたまま、ロペスが話しだすまでじっと待った。
「・・・おそらく、ベンが消えたのはもっと前だ。数日、あるいはもっと前からいなくなっている」
しばらく経ち、ロペスは考えがまとまったというように一度頷くと、兵士に顔を向けて話し出した。
「え、数日前ですか?ですが、昨夜は姿を確認した者が・・・」
「ベンは幻覚を見せる魔道具を使った可能性が高い。いや、それしか考えられん」
言い切るロペスの目は確信に満ちていた。
カエストゥス国、大臣エマヌエル・ロペスの執務室に、一人の兵が息を切らして走り込んで来た。
ノックもせずに乱雑にドアを開けた事に、本来であれば厳しい叱責をするところである。
だが、兵のただならぬ様子を見て、即座に急を要すると判断した。
「何事だ!?」
ロペスが言葉鋭く問い詰めると、兵士は呼吸を乱したまま、ロペスの問いに答えた。
「はぁっ、はぁっ、ベ、ベン、フィングが!元大臣の、ベンフィングが、ろ、牢からいなくなりました!」
「なッ・・・!?なん、だと?」
あまりにも予想外の言葉を耳にして、ロペスは言葉を失った。
カエストゥス国元大臣ベン・フィング。
この男はブレンダン・ランデルとの試合で、殺し屋ディーロを雇い、二万人の観客を巻き込んだ罪で、職を解かれ牢に入れられていた。
黒魔法使いのベン・フィングが決して破る事のできないよう、結界と同等の効果のある特殊な牢に繋いでおいたが、それを破ったというのか?
「・・・いったい、どうやって出たというのだ?看守は何をしていた?誰も気づかなかったというのか?」
眉間にシワが寄り口調が強くなると、兵士も慌てたように弁明を始めた。
「も、申し訳ありません!け、決してサボっていたわけではありません!た、ただいつの間にかいなくなっていたのです。看守だけではありません、城内の兵も、使用人も、誰にも気づかれる事なく、いつの間にかいなくなっていたのです・・・」
「誰にも気づかれず、いつの間にか・・・・・」
ロペスは兵士の言葉に引っかかりを覚えた。
誰にも気づかれずに、城から脱出する事など可能なのか?
感情的になりそうだった頭が一気に冷える。
方法はともかく、牢から脱出できたとしよう。看守の目も隙をついて逃れたとしよう。
しかし城内には大勢の兵士も使用人もいる。外に出るには門番の目もある。
それでどうやって脱出できるというのだ?
「・・・魔道具、か?」
真っ先に頭に浮かんだ可能性は、何らかの魔道具だった。
そしてもっとも可能性が高いと思える方法である。
ベン・フィングの救出に、何者かが入り込んだ可能性もゼロではないだろうが、失脚したあの男を危険をおかしてまで助ける理由があるとは思えない。
考えられる手段は魔道具だけだった。
「魔道具、ですか?しかし、ヤツは牢に入れられて、そんな物は持ち込みできなかったはずですが・・・」
「身体検査は外から分かる部分だけだったんじゃないか?体内に埋め込む魔道具もある。考えてみれば、この俺もベン・フィングの魔道具は知らん。ヤツは大臣だったし、戦う必要も無かったからな、深く考えた事もなかった」
「・・・そ、それでは、ベン・フィングは体内に隠し持っていた魔道具を使って、牢から脱出したという事でしょうか?」
ロペスの推察を聞き、兵士は固唾を飲んだ。
体内に埋め込むタイプの魔道具と言えば、寄生型が真っ先に思い浮かぶ。
おもに拷問として使われるため、あまり良い印象は持たれていない。
そしてそんな先入観があるがゆえ、身体検査でもわざわざ調べる事はなかった。
「・・・怠慢だったな。その可能性が高い。ヤツが姿を消してどの程度の時間が経っているか分かるか?」
「は、はい、昨夜、夕食を届けた使用人が確認しております。時刻は18時だったそうですので、その時間までは牢にいたはずです」
「・・・今が7時30分か、つまり朝食を届けに行ったら、ベンの姿は消えていたというわけか・・・なるほど・・・・・」
ロペスは顎に手を当てると、考えを整理するように黙り込んだ。
緊張が空気を通して伝わってくる。うかつに話す事ができず、兵士は口を閉じたまま、ロペスが話しだすまでじっと待った。
「・・・おそらく、ベンが消えたのはもっと前だ。数日、あるいはもっと前からいなくなっている」
しばらく経ち、ロペスは考えがまとまったというように一度頷くと、兵士に顔を向けて話し出した。
「え、数日前ですか?ですが、昨夜は姿を確認した者が・・・」
「ベンは幻覚を見せる魔道具を使った可能性が高い。いや、それしか考えられん」
言い切るロペスの目は確信に満ちていた。
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