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【892 カエストゥス 対 帝国 ㉖ 命】
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「・・・う・・・く・・・・・」
「あ、気が付いたぞ・・・・・」
体に流れ込んで来る温かい力に、意識が呼び起こされる。
体が重い。深い沼の底から引き上げられるような感覚だった。それでも覚醒する意識とともに薄く目を開けると、最初に目に入ったのは、黒い空だった。
「・・・黒い、空・・・」
見たまま、思ったままを言葉にした。
「ウィッカー様、大丈夫ですか?」
すぐ隣からかけられた声に顔を向けると、黒いローブ姿の男女が数人、膝を着いて俺に顔を向けていた。
これは、カエストゥスの黒魔法使いのローブ、つまり味方だ。
「・・・お前、達は?」
仲間だとは分かったが、見た事の無い顔だ。いや、多分俺が覚えていないだけだ。
なんせこの戦いには黒魔法使いだけで、二万人以上が参戦している。
黒魔法使いなら、俺の魔法の指導に出ているとは思うが、全員はとても覚えられない。
体を起こしてたずねると、やはり彼らは俺の指導に出ていたと言う。
だが、黒魔法使いの人数を考えれば、自分達を分からなくて当然だと笑って話してくれた。
それが有難くも、申し訳なく感じてしまう。
そして彼らは一人づつ名前を名乗り、そしてなぜここにいるのかを説明してくれた。
「フローラ部隊長に呼ばれたんです。魔力が必要だからと言って、黒魔法使いの私達が連れて来られました。倒れているウィッカー様を見た時は、心臓が止まるかと思いました。ですが、あれほどの魔法を撃ったのです。消耗は大きくて当然ですよね」
アニーという長い赤髪の女性がそこまで話すと、次にトムと名乗った茶髪の男が言葉を引き取った。
「それで、僕達でウィッカー様に魔力を送りました。ウィッカー様の魔力は枯渇していて危険な状態でしたので、僕達もギリギリまで送ったのですが・・・正直驚きました。ね?」
トムは額の汗を拭うと、隣の金髪の女性リースに顔を向けて、なにやら同意を求めた。
それでリースもトムの言いたい事を分かったらしく、少し困ったような笑いを俺に向けた。
「えっと、ウィッカー様の魔力が、私達なんかとは比べ物にならないのは知ってましたが、それでもこれだけいれば十分だと思ったんです。だって、7人ですよ?でも実際に魔力を送ってみると、私達7人がギリギリまで魔力を注いでも、ウィッカー様の器は満たせなかったんです」
俺はあらためて、自分の前に膝をついている7人の黒魔法使いの顔を見た。
よく見るとみんな額に汗をかき、肩で息をしている。
笑っているけれど、かなりの魔力を俺に送って倒れる寸前なのは分かった。
「・・・みんな、ありがとう。そんなになるまで俺に・・・」
俺を生かすために、ここまで魔力を送ってくれるなんて・・・感謝を込めてお礼を口にする。
「そ、そんな頭を上げてください!」
「そうですよ、俺達ウィッカー様のお役に立てて光栄です」
「私達の事は気にしないでください」
「ウィッカー様、どうか皇帝を・・・みんなの仇を・・・」
ありがとう。
みんなのおかげで俺はまだ立つ事ができる。
「ウィッカー様・・・」
膝を着いて立ち上がろうとすると、7人の黒魔法使いの後ろから、ピンク色の髪の女の子が前に出て来た。
「・・・フローラ、みんなを連れて来てくれたんだってね。ありがとう」
この7人の黒魔法使いは、俺のためにフローラが集めてくれたと聞いた。
俺が助かったのは、フローラが動いてくれたからだ。
フローラにも感謝の言葉を伝える。
しかしフローラは俯いたままで、俺の声が聞こえているのかいないのか、すぐには反応を見せなかった。
どうしたんだ?と腰を上げてフローラに使づくと、フローラはゆっくりと顔を上げた。
その顔は涙で濡れてくしゃくしゃだった。いったいどれだけの涙を流したのだろう。
唇を噛みしめ赤くなった目で俺を見る。その小さな口から出たのは、か細いけれど強い気持ちの込められた言葉だった。
「ウィッカー様・・・・・お願いです」
強い意思を感じる眼差しだった。
「フローラ・・・」
俺はその眼差しも、フローラの涙も悲しみも、全て受け止めなければならない。
俺が今生きているのは、フローラの大切な人からもらった命なんだ。
「エロール君の・・・エロール君の繋いだ命を・・・・・大事に、して、ください・・・・・」
憎しみも怒りも口にしない。ただ命を大切にしてほしい。
フローラの想いは、恋人が護った命を大切にしてほしい。ただそれだけだった。
俺の命は、もう俺だけのものじゃない。
散っていった仲間達、護るべき大切な人、俺は生きなければならない。
「ああ、もちろんだ。約束するよ、フローラ。この命、大切にすると・・・」
「あ、気が付いたぞ・・・・・」
体に流れ込んで来る温かい力に、意識が呼び起こされる。
体が重い。深い沼の底から引き上げられるような感覚だった。それでも覚醒する意識とともに薄く目を開けると、最初に目に入ったのは、黒い空だった。
「・・・黒い、空・・・」
見たまま、思ったままを言葉にした。
「ウィッカー様、大丈夫ですか?」
すぐ隣からかけられた声に顔を向けると、黒いローブ姿の男女が数人、膝を着いて俺に顔を向けていた。
これは、カエストゥスの黒魔法使いのローブ、つまり味方だ。
「・・・お前、達は?」
仲間だとは分かったが、見た事の無い顔だ。いや、多分俺が覚えていないだけだ。
なんせこの戦いには黒魔法使いだけで、二万人以上が参戦している。
黒魔法使いなら、俺の魔法の指導に出ているとは思うが、全員はとても覚えられない。
体を起こしてたずねると、やはり彼らは俺の指導に出ていたと言う。
だが、黒魔法使いの人数を考えれば、自分達を分からなくて当然だと笑って話してくれた。
それが有難くも、申し訳なく感じてしまう。
そして彼らは一人づつ名前を名乗り、そしてなぜここにいるのかを説明してくれた。
「フローラ部隊長に呼ばれたんです。魔力が必要だからと言って、黒魔法使いの私達が連れて来られました。倒れているウィッカー様を見た時は、心臓が止まるかと思いました。ですが、あれほどの魔法を撃ったのです。消耗は大きくて当然ですよね」
アニーという長い赤髪の女性がそこまで話すと、次にトムと名乗った茶髪の男が言葉を引き取った。
「それで、僕達でウィッカー様に魔力を送りました。ウィッカー様の魔力は枯渇していて危険な状態でしたので、僕達もギリギリまで送ったのですが・・・正直驚きました。ね?」
トムは額の汗を拭うと、隣の金髪の女性リースに顔を向けて、なにやら同意を求めた。
それでリースもトムの言いたい事を分かったらしく、少し困ったような笑いを俺に向けた。
「えっと、ウィッカー様の魔力が、私達なんかとは比べ物にならないのは知ってましたが、それでもこれだけいれば十分だと思ったんです。だって、7人ですよ?でも実際に魔力を送ってみると、私達7人がギリギリまで魔力を注いでも、ウィッカー様の器は満たせなかったんです」
俺はあらためて、自分の前に膝をついている7人の黒魔法使いの顔を見た。
よく見るとみんな額に汗をかき、肩で息をしている。
笑っているけれど、かなりの魔力を俺に送って倒れる寸前なのは分かった。
「・・・みんな、ありがとう。そんなになるまで俺に・・・」
俺を生かすために、ここまで魔力を送ってくれるなんて・・・感謝を込めてお礼を口にする。
「そ、そんな頭を上げてください!」
「そうですよ、俺達ウィッカー様のお役に立てて光栄です」
「私達の事は気にしないでください」
「ウィッカー様、どうか皇帝を・・・みんなの仇を・・・」
ありがとう。
みんなのおかげで俺はまだ立つ事ができる。
「ウィッカー様・・・」
膝を着いて立ち上がろうとすると、7人の黒魔法使いの後ろから、ピンク色の髪の女の子が前に出て来た。
「・・・フローラ、みんなを連れて来てくれたんだってね。ありがとう」
この7人の黒魔法使いは、俺のためにフローラが集めてくれたと聞いた。
俺が助かったのは、フローラが動いてくれたからだ。
フローラにも感謝の言葉を伝える。
しかしフローラは俯いたままで、俺の声が聞こえているのかいないのか、すぐには反応を見せなかった。
どうしたんだ?と腰を上げてフローラに使づくと、フローラはゆっくりと顔を上げた。
その顔は涙で濡れてくしゃくしゃだった。いったいどれだけの涙を流したのだろう。
唇を噛みしめ赤くなった目で俺を見る。その小さな口から出たのは、か細いけれど強い気持ちの込められた言葉だった。
「ウィッカー様・・・・・お願いです」
強い意思を感じる眼差しだった。
「フローラ・・・」
俺はその眼差しも、フローラの涙も悲しみも、全て受け止めなければならない。
俺が今生きているのは、フローラの大切な人からもらった命なんだ。
「エロール君の・・・エロール君の繋いだ命を・・・・・大事に、して、ください・・・・・」
憎しみも怒りも口にしない。ただ命を大切にしてほしい。
フローラの想いは、恋人が護った命を大切にしてほしい。ただそれだけだった。
俺の命は、もう俺だけのものじゃない。
散っていった仲間達、護るべき大切な人、俺は生きなければならない。
「ああ、もちろんだ。約束するよ、フローラ。この命、大切にすると・・・」
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