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【884 カエストゥス 対 帝国 ⑱ 貫いた火】
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「がぁッ・・・!?」
一歩踏み出したエロールの体が、突然熱くなった。
まるで焼かれたような耐え難い熱、それに伴う痛みと苦しさがエロールを襲った。
振り上げたマフラーを落とし、息苦しさから喉を押さえてその場に倒れ込む。
「ガッ・・・アァ・・・!」
「エロール君!」
うめき声を漏らすエロールを目にして、フローラが声を上げた。
今すぐ駆け寄りたいが、まだウィッカーの治療はまだ終わっていない。
危険な状態は脱したが、まだ全快には時間がかかる。
いくら恋人の危機といっても、ここでウィッカーの治療を止めて駆け寄る事などできない。
今フローラがすべき事はウィッカーを回復させる事である。
強い焦燥感が胸を苦しくさせるが、フローラは全魔力を込めてヒールをかけ続けた。
エロール君!お願い、負けないで!
懸命に祈りながら、エロールが立ち上がると信じた。
「て、めぇ・・・こ、これは、まさ、か・・・・・」
額から流れる汗が、顎先を伝って落ちる。
体の内側から焼かれるような苦痛に、歯を食いしばり顔を歪ませる。
突然自分の体を襲ったこの症状に、思い当たるものが一つあった。
以前聞いた事がある。しかしアレは、セシリア・シールズの技だったはずだ。
「おや?貴様も瞳の力を知っているのか?しばらく表に出てもいなかったし、そう多くの人間が知っているはずはないのだがな」
エロールの言葉から、アンソニーはウィッカーだけでなく、目の前の魔法使いにも瞳の力が知られていると知った。
長きに渡り幽閉されていたアンソニーは、セシリア・シールズと面識がなかった。
そのため自分と同じ瞳の力が使える者がいた事を、アンソニーは知る由がなかったのだ。
一人ならまだしも、二人も知っているとなると、どこで知りえたのかは気にかかった。
しかしここでそれを問いただしても、この男は素直に答える事はないだろう。
ここまでのやりとりで、この白魔法使いの男の性格は少なからず分かったからだ。
自尊心が高く、気に入らない者には決して従わない。
例え自分の命がかかっていても、唾を吐いて拒否するだろう。
「・・・まぁいい。知られたからと言って、なにが困るわけではない。カエストゥスは皆殺しだからな」
ここでカエストゥスを全滅させれば、それで自分の技を知る者はいなくなる。
敗北するなど微塵も思っていないアンソニーにとって、それは天気が変わった事を口にする程度の、実に軽く出た言葉だった。
・・・皆殺し、だと・・・・・
しかし、見下ろされながら頭にかけられた言葉に、エロールは地面に指を突き立て、抉るようにして土を握り締めた。
「・・・させ、ねぇ・・・」
「ん?・・・なにか言ったか?」
目眩がするほどに体が熱く苦しい。
浅く早い息を繰り返しながら、エロールはふらつく足を無理やり立たせ、体を起こした。
「ほぉ・・・貴様も立つのか」
瞳の力をその身に受けて、ウィッカーは立ち上がった。そしてこの男も立ち上がろうとしている。
体内に熱を送られ、まるで体の内側から焼かれるような苦しみを味わっているのに、気を失う事も、叫び転がりまわる事もしない。それどころかまだ戦意を失わず、立ち上がる事は並大抵の精神力ではない。
アンソニーは微かな敬意を持つと同時に、エロールもウィッカーも今すぐ殺した方がいい。
これ以上この男達と戦うのは危険だ。そう判断した。
「・・・させねぇ・・・皆殺しになんて絶対にさせねぇッ!俺がここでテメェを倒す!」
エロールは立ち上がった。体の中で暴れる熱を、強靭な意志で押さえつけ、自分の前に立つ火の精霊使いを睨みつけた。
「・・・やはり貴様のような男は、生かしておくと後々面倒になる。もう死ね」
この男はどれだけ痛めつけても、決して心が折れる事はない。
そして感情の変化で魔力を増大させる。この手の男は殺せる時に、すぐに殺しておくべきだ。
アンソニーはエロールの額に指を突きつけると、指先に火の精霊の力を集め・・・
「だめぇぇぇーーーーーッッッ!」
エロールの後ろから飛び出したのは、ピンク色の髪をした小柄な少女だった。
「エロール君は殺させない!」
右手に握る水色のマフラーに魔力を流し込み、アンソニーの顔面に叩きつけた!
爆音が鳴り響き、その体から黒い煙と火の粉をまき散らしながら、アンソニーを後方へと吹き飛ばした!
フローラの魔道具は、エロールと同じ反作用の糸である。
以前ブローグ砦でエロールからもらった物で、色も同じ水色だった。
その効果は、以前は結界しか使えなかったが、フローラの成長に合わせて改良を施し、今ではエロールと同じく、爆発の魔力にも変換できるようになっていた。
「フ、フローラ、お前・・・ウィッカーさまの、回復は・・・」
「終わったから大丈夫!それより今は・・・うっ!」
自分の前に立ったフローラに、ウィッカーへの回復はどうなったと問うエロール。
それに対してフローラが、振り向いて回復が完了した事を告げたその時、フローラの腹を赤く細い光線が貫いた。
「・・・え・・・あ・・・・・」
突然体が感じた衝撃に、フローラは視線を落とし自分の腹を見た。
白いローブ穴の胴のあたりに穴が空き、黒い焦げと煙が立ち昇っていた。
「なっ!?・・・お、おい、フ、フロー・・・」
自分に何が起きたのか理解できず、目を瞬かせたが、攻撃を受けたと理解した瞬間、フローラは血を吐いて正面から倒れた。
「・・・お、おいッ!フローラァァァァァーーーーーーッ!」
目の前で倒れた恋人を目にし、エロールは絶叫した。
「フッ・・・心臓を抉るつもりが、煙が邪魔で狙いが逸れたか」
その体から爆炎による黒い煙を立ち昇らせながら、アンソニーは立ち上がった。
一歩踏み出したエロールの体が、突然熱くなった。
まるで焼かれたような耐え難い熱、それに伴う痛みと苦しさがエロールを襲った。
振り上げたマフラーを落とし、息苦しさから喉を押さえてその場に倒れ込む。
「ガッ・・・アァ・・・!」
「エロール君!」
うめき声を漏らすエロールを目にして、フローラが声を上げた。
今すぐ駆け寄りたいが、まだウィッカーの治療はまだ終わっていない。
危険な状態は脱したが、まだ全快には時間がかかる。
いくら恋人の危機といっても、ここでウィッカーの治療を止めて駆け寄る事などできない。
今フローラがすべき事はウィッカーを回復させる事である。
強い焦燥感が胸を苦しくさせるが、フローラは全魔力を込めてヒールをかけ続けた。
エロール君!お願い、負けないで!
懸命に祈りながら、エロールが立ち上がると信じた。
「て、めぇ・・・こ、これは、まさ、か・・・・・」
額から流れる汗が、顎先を伝って落ちる。
体の内側から焼かれるような苦痛に、歯を食いしばり顔を歪ませる。
突然自分の体を襲ったこの症状に、思い当たるものが一つあった。
以前聞いた事がある。しかしアレは、セシリア・シールズの技だったはずだ。
「おや?貴様も瞳の力を知っているのか?しばらく表に出てもいなかったし、そう多くの人間が知っているはずはないのだがな」
エロールの言葉から、アンソニーはウィッカーだけでなく、目の前の魔法使いにも瞳の力が知られていると知った。
長きに渡り幽閉されていたアンソニーは、セシリア・シールズと面識がなかった。
そのため自分と同じ瞳の力が使える者がいた事を、アンソニーは知る由がなかったのだ。
一人ならまだしも、二人も知っているとなると、どこで知りえたのかは気にかかった。
しかしここでそれを問いただしても、この男は素直に答える事はないだろう。
ここまでのやりとりで、この白魔法使いの男の性格は少なからず分かったからだ。
自尊心が高く、気に入らない者には決して従わない。
例え自分の命がかかっていても、唾を吐いて拒否するだろう。
「・・・まぁいい。知られたからと言って、なにが困るわけではない。カエストゥスは皆殺しだからな」
ここでカエストゥスを全滅させれば、それで自分の技を知る者はいなくなる。
敗北するなど微塵も思っていないアンソニーにとって、それは天気が変わった事を口にする程度の、実に軽く出た言葉だった。
・・・皆殺し、だと・・・・・
しかし、見下ろされながら頭にかけられた言葉に、エロールは地面に指を突き立て、抉るようにして土を握り締めた。
「・・・させ、ねぇ・・・」
「ん?・・・なにか言ったか?」
目眩がするほどに体が熱く苦しい。
浅く早い息を繰り返しながら、エロールはふらつく足を無理やり立たせ、体を起こした。
「ほぉ・・・貴様も立つのか」
瞳の力をその身に受けて、ウィッカーは立ち上がった。そしてこの男も立ち上がろうとしている。
体内に熱を送られ、まるで体の内側から焼かれるような苦しみを味わっているのに、気を失う事も、叫び転がりまわる事もしない。それどころかまだ戦意を失わず、立ち上がる事は並大抵の精神力ではない。
アンソニーは微かな敬意を持つと同時に、エロールもウィッカーも今すぐ殺した方がいい。
これ以上この男達と戦うのは危険だ。そう判断した。
「・・・させねぇ・・・皆殺しになんて絶対にさせねぇッ!俺がここでテメェを倒す!」
エロールは立ち上がった。体の中で暴れる熱を、強靭な意志で押さえつけ、自分の前に立つ火の精霊使いを睨みつけた。
「・・・やはり貴様のような男は、生かしておくと後々面倒になる。もう死ね」
この男はどれだけ痛めつけても、決して心が折れる事はない。
そして感情の変化で魔力を増大させる。この手の男は殺せる時に、すぐに殺しておくべきだ。
アンソニーはエロールの額に指を突きつけると、指先に火の精霊の力を集め・・・
「だめぇぇぇーーーーーッッッ!」
エロールの後ろから飛び出したのは、ピンク色の髪をした小柄な少女だった。
「エロール君は殺させない!」
右手に握る水色のマフラーに魔力を流し込み、アンソニーの顔面に叩きつけた!
爆音が鳴り響き、その体から黒い煙と火の粉をまき散らしながら、アンソニーを後方へと吹き飛ばした!
フローラの魔道具は、エロールと同じ反作用の糸である。
以前ブローグ砦でエロールからもらった物で、色も同じ水色だった。
その効果は、以前は結界しか使えなかったが、フローラの成長に合わせて改良を施し、今ではエロールと同じく、爆発の魔力にも変換できるようになっていた。
「フ、フローラ、お前・・・ウィッカーさまの、回復は・・・」
「終わったから大丈夫!それより今は・・・うっ!」
自分の前に立ったフローラに、ウィッカーへの回復はどうなったと問うエロール。
それに対してフローラが、振り向いて回復が完了した事を告げたその時、フローラの腹を赤く細い光線が貫いた。
「・・・え・・・あ・・・・・」
突然体が感じた衝撃に、フローラは視線を落とし自分の腹を見た。
白いローブ穴の胴のあたりに穴が空き、黒い焦げと煙が立ち昇っていた。
「なっ!?・・・お、おい、フ、フロー・・・」
自分に何が起きたのか理解できず、目を瞬かせたが、攻撃を受けたと理解した瞬間、フローラは血を吐いて正面から倒れた。
「・・・お、おいッ!フローラァァァァァーーーーーーッ!」
目の前で倒れた恋人を目にし、エロールは絶叫した。
「フッ・・・心臓を抉るつもりが、煙が邪魔で狙いが逸れたか」
その体から爆炎による黒い煙を立ち昇らせながら、アンソニーは立ち上がった。
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